陽動Ⅶ
その中からジョンは左手に盾、右手にビームライフル。換装予備兵装に元々持っていたナイフに加え、ビームソードも追加した。EMU軍が使う標準装備とほぼ同じである。
モニターでそれらを巴が選択すると、自動的に機械が装着をしてくれるようになっているようだった。
「相手の位置にもよりますが、ブースターを全開で追いかけます。建物の窓は間違いなく粉々になるし、中の部屋も使い物にならなくなるかもしれません。逃げ遅れた人とかは大丈夫ですか?」
「既に避難は済んでいる区域です。その点は問題ありません」
巴が端末を操作するとモニターに避難状況が表示される。島の北側は、大陸から飛んでくるミサイルの可能性があったためか、避難率は百パーセントを示していた。
「わかりました。後は出撃までの案内をお願いします」
そう告げたジョンの視線は、艦橋のやや右前に直立するネームレスへと向けられる。元々、ビームソード以外は装備していたため、既に装着作業が終了していた。
その時、再び衝撃が襲った。チカチカと外のライトが点滅し、一度、停電する。
「外部の送電網が――――でも、内部の発電に切り替わるはず」
グルファクシは自前の発電ができている為、電源喪失とはならず、モニターが巴たちの顔を照らしていた。不安になりながらもアリスたちが艦橋の外を見ていると十秒も経たない内に、十全とはいかないものの非常灯が点灯する。
「――――巴副艦長。こちらで出撃などの準備はできるが、外部に通信すると不安定になる可能性がある。そちらで彼と連絡を取ってほしい」
「承知しました。先にEMU軍から出向してきている四名の後、彼にも――――いえ、既に彼らの機体はグルファクシに運び込まれているので、先に出てもらうことに――――」
巴が振り返ると既にジョンの姿は、そこにはなかった。僅かに驚いた表情を見せた彼女だったが、すぐに表情を切り替えて艦内放送を流す。
「こちら副艦長の巴だ。EMU軍から来てくれた勇敢なパイロットたちには疲れているところ申し訳ないが、出撃してもらうことになる。至急、準備をお願いしたい」
「――――いぇーい、そんなこったろうと思って、もう乗り込んでますぜ」
巴の放送が終わると同時に、計ったかのように男の声が艦橋に響く。
「こら、サム。少し、落ち着け。こちら、ルイス。運良く、四人とも機体に乗り込んで出撃準備が整っている。ただ、この状態から外に出るのは難しい。至急、整備員に降ろしていただきたい」
「ありがとう。すぐに指示を出す。何か必要なことがあれば、オペレーター1、2に通信を」
「了解」
目の前で繰り広げられる軍人たちの会話に呆気にとられるアリスたち。ただ、その中でアリスは表示される複数のモニターの中でネームレスが映っている画面に視線が釘付けになる。地上から胸部の出入口に入るための移動式の階段があるのだが、どこからともなくジョンが飛び移り、中へと入っていく姿が見えたからだ。
「(え? どこから飛び乗ったの?)」
まるで空でも飛んでいたかのような映像にアリスは、まさか本当に飛んでいたのではと思ってしまった。
そんなことを考えていると、ネームレスの搭乗口が閉まり、目の部分に光が宿った。
「――――こちらネームレス。誰か聞こえるか?」
「こちらグルファクシ副艦長・巴だ。無事起動できたようで何より。そちらで何か問題は?」
「今のところないです。出撃はいつでも行けます」
「では、オペレーター3に通信を繋げる。彼女の指示に従って、出撃リフトに向かって」
ジョンの了解の声と共に巴は大きく息を吐き出す。
休む間もなく、整備員たちに指示を出し始める。艦橋にいる人数が少ない中で、慌てることなく行動する姿は、指揮演習で好成績を残す実力者であることを感じさせた。




