侵略Ⅴ
そこから十分ほどかけてなだらかな下り坂を走り終えると、しばらくして、車が停止した。
神村が車の後ろ側を開けて、降りるように案内をする。
「お待たせしました。ここからは、民間人の方がいる区画を通らずに軍の区画を通ります。上官や同僚がかなり気を張り詰めているので、ここからは私語を慎んでいただけると助かります」
「わかりました」
響が頷いたのを見て、神村はまたカードを扉の機械に通して中へと入っていく。先程までとは打って変わって、明るい照明にアリスは思わず目が眩みそうになった。
何度も細目で瞬きをしながら進んでいくと、目が慣れる頃には多くの軍人が行き交う通路に出ていた。どこも慌ただしく動いており、誰もが強張った表情で通り過ぎていく。
アリスが呆気に取られていると、肩を指で軽く叩かれた。
「あ、すいません」
ジョンが後ろで叩いたようで、アリスが振り向くと先を歩いていると神村と園原夫妻の方を指差す。思わず足を止めてしまったせいで、既に五メートル近く距離を離されていた。
「そりゃ、圧倒されるよな。おっと、私語厳禁だった」
ロンがジョンの横でわざとらしく両手で口を塞ぐ。幸いにも周囲の軍人たちは、物珍しそうにアリスたちのことを見ていたが、神村の姿があったおかげか、咎めることも無く通り過ぎていく。
アリスはほっとしながら、早足で響と美亜の後ろへと近づいた。
「因みにですが、これから見る物は公開されるまでは他言無用でお願いします。特に、そちらの子たちには……」
「この子たちは別室で待機という訳にはいかないですか?」
「上官から、最も安全かつ安心できる場所で保護せよと言われております。つまり、それはあなた方お二人がいる場所がそれにあたるというのが、上官の判断です」
通路を奥へと進みながら、神村は淡々と説明をする。
ただ、シェルター内であれば安全であるはずなのに、それよりもさらに安全となると一体どこになるのか。アリスはシェルターの最下層かどこかだと思っていたのだが、階段を通り過ぎて、神村は更に奥へと進んでいく。
「確かに、あの中ならば理論上は戦艦の主砲を受けても一発は耐えられるでしょう。しかし、そこまでの必要が? 軍事機密ですよね」
美亜もどこか不安を覚えたのか、神村へと問う。彼は少し沈黙した後、申し訳なさそうに答えた。
「正直、アレの近くには空いている部屋が無いのです。そもそも、シェルター内に併設された軍事施設。余分なスペースを作るわけにはいかなかったのでしょう。だからといって、民間人のシェルターにすれば、万が一の時に合流が遅れてしまいますから」
そう告げた神村は、ある扉の前で足を止める。そこには今まで同様カードを通す機会があるのだが、その横には神村よりも左胸にさまざまな徽章が縫い付けられている軍人が立っていた。
「神村樫一。ただいま、園原御夫妻及びその御家族を御連れしました」
「ご苦労。神村伍長は迅速に御剣に搭乗し、出撃に備えよ!」
「了解しました!」
神村は一度、アリスたちに振り返ると敬礼をした。
アリスたちも胸に手を当てて答礼し、元の姿勢に戻ると神村は鋭い目をしながらも僅かに口元に笑みを浮かべて、駆け足で去っていく。
「響、大変な中、よく来てくれた」
「三堂。まさか、君か?」
「あぁ、久しぶりだな。最後に会ったのは一昨年くらいか? 元気そうで何よりだ」
そう言いながら三堂と呼ばれた軍人はカードを機械に通す。身長百八十を超える大柄な体格のせいで、カードも扉も小さく見えてしまう。
「お父さん、知り合いの人?」
「あぁ、中学の同級生の九淑三堂さんだ」
香織の質問に響が答えると、初めまして、と言いながら三堂が振り返った。だが、すぐに響の腕を軽く叩き、苦笑いをする。
「やめてくれよ。君にさん付けされるなんて、鳥肌が立ってしまうだろ? 昔みたいに――――いや、今は、そんなことを言っている場合じゃなかったな。忘れてくれ」
三堂は朗らかな笑顔を辞めて、扉の奥へと進んでいく。そして、左右に現れる扉には目もくれず、ひたすらに歩いていくと、唐突にある扉の前で足を止めた。




