地上へⅣ
三人で気を紛らわせようと会話を続けていくと、ジョンも安心したのか。声音が少しずつ戻って来ていた。
「それで、ジョンさんは何を調べてるんですか?」
「あぁ、とりあえず、大きな国の情報収集かな。政治体制とか、どんな歴史があるかとか。まずはエリシウムのことを最優先で調べてるけど」
そう告げたジョンが、画面を共有する。そこにはネット百科事典サイトに掲載されているエリシウムの内容が表示されていた。
エリシウムは海に囲まれた島国と海沿いの大陸を保有しており、主な産業としては大気圏外内を問わず乗物や建築物系が盛んである。その他にはアリスが言っていたようにゲームや漫画などの娯楽系。飲食や観光業など様々な部分で活躍していることがわかる。
「旅行したい街ランキングも三分の一がエリシウムが選ばれてる。ある意味、ここに行けるのってかなり凄いんじゃ?」
「あはは、確かにシャルやロン君からしてみればそうかも。私はずっと住んでたから、あまり実感はわかないんだけど」
その話に割り込んだロンが言うには、飯が上手くて、楽しめる物がいっぱいあって、気候も安定していて、就職も困らないなんて問題なんて一つもない最高の国じゃないのか、と。
「……なるほどね。島国側は緯度が三十。大陸側は赤道上にあるのか。アリスの家はどっちに?」
「家は島側です。シャトルは、最終的に進行方向が水平になって、そのまま島まで移動できるようになってるんですよ」
そう言ってアリスはジョンの画面に軌道エレベーターの地球側外観を表示させる。天から降りて来た柱は、次第に角度をつけ始め、滑り台のような形で海上を走る線路兼滑走路のような状態になっていた。
「これ、どれだけの資材が使われてるんだよ……」
あまりにも大きな建造物と科学力に驚いたのだろう。ジョンが絶句しているのが伝わって来る。
アリスは新鮮な反応に思わず笑みを浮かべながら、軌道エレベーターのページを表示した。そこには見たこともない桁数の数字が表示されており、アリス自身も地球のどこにそんな資源があったのかと不思議に思う。
「まぁ、地球の北半分は陸地ですし、それだけ鉱山が多かったんでしょうね」
「……北半分が陸地、か」
ジョンが表示した世界地図は確かにほぼ北半分が平原と山。一つ大きな湖がぽっかりと大陸に穴を開けているが、相当な量の陸地が広がっていることは容易に読み取ることができた。
逆に南側に陸地はほんの僅かであり、エリシウムの巨大な島とタルシスという大陸から半島状に飛び出た国があるくらいで、それ以外はほぼ海といって問題ない状態になる。
「なるほどな。山自体もかなり高いものがあるみたいだが……」
「それ、山なんだけど昔はもっと平たかった、というか外縁部が崖みたいになってたらしくて、それを切り崩して資源を取り出してたとか聞いたことがある。鉄は勿論、貴重な鉱物も比較的簡単に取り出せたとか」
「それは運が良かったな。ただ、反面、この山の周囲の国々が争った歴史も頷けるというものだ。よく地球保全連合として手を組むことができたな」
ジョンが見ている山はパッと見るだけで三つの国に囲まれている。そればかりか、それ以外の大きな山があといくつか存在していた。
宇宙進出をする前の航空機などで制空権を取り合い、ミサイルが飛び交うよう技術水準の頃には、何度も資源の取り合いの為に争った記録が残っている。ジョンの言う通り、今、手を取り合っているのが不思議なほどだ。
「そう言われると、何だかあたしたちの世界って、色々と奇跡的な巡り合わせの上に成り立ってるよな。宇宙で戦争が起こる前に、地球上でのドンパチで人類滅亡とか起こってたかもしれないって考えるとさ」
「逆に言うと、それは今起こってもおかしくないでしょ? こうして、ニアムーン大戦とかが起こって、今も一触即発の状態なんだし」
アリスが呆れていると画面の上部に緊急速報の帯が出現する。その内容は、サバエアで大規模な軍隊が南下を始めたというものだった。




