交戦Ⅶ
「こちらオペレーター。声は聞こえますか?」
「感度良好。問題なし」
ヘルメットもパイロットスーツも装着せずに答えるジョンがモニターの右下に表示される。右上には、対応している女性オペレーターが出て来た。
「整備員の方から弄った中身と装着した装備について、ある程度ですが話は聞きました。戦闘時に注意するべき点はありますか? 戦時法とかも含めて――――追撃不可条件や降伏条件とか」
「敵の攻撃手段を奪っている場合、向かってこない限りは追撃することは許されません。簡単に言えば、右腕の無力化がそれにあたります。もし、右手以外にも攻撃手段が残っていれば、その限りではありません」
「一撃で死亡してしまった場合は?」
「問題ありません。戦争とはそういうものなので」
きっぱりと言い切るオペレーターにジョンは冷静に返事をする。
「敵艦が青い閃光弾を複数打ち上げる。または艦隊自体の発光を青で点滅させた場合は、降伏信号と見なします。これも攻撃は禁止とされます」
「わかりました。いつでもいけます。あ、いえ、カタパルト出撃の方法だけ確認をお願いします。初めてなので」
ジョンの要求にオペレーターは丁寧に手順を確認する。
出撃時にエンジンが始動していること、ブースター方向はニュートラルで噴射すること。大きくこの二点の説明を受けていた。
「おいおい、大丈夫かよ。慣れてない奴は空間失調で迷子になるかもしれないって言うのに」
「地面が無いから墜落はないけどね。それに基本的には仮想重力グラウンドが設定されているから、戦闘が終われば大丈夫なんじゃない?」
地上とは違い、宇宙空間には上下の感覚が希薄になる。その為の仮想重力グラウンド。
太陽を中心に回る惑星たちは多少の誤差はあるが、ほぼ同一平面上で公転している。この平面を太陽系における上下の基準地点として観測することで、万が一、自分がどこにいるかがわからなくなっても、計器を見ることで戻って来られるようになっている。
ただし、計器を正しく見れる者だけだが戻ってこれたというのは一昔前まで。今はレーダーなどの補助もあり、モニターにナビゲートを表示することも可能になっている。
「でも、いくらあんな凄い操縦ができるからって、そんな簡単に宇宙で戦えるはずは――――」
アリスが不安そうにモニターを見つめていると、ネームレスが出撃カタパルトへと固定された。
「気密隔壁閉鎖完了、カタパルト固定よし。ハッチ周囲敵影なし。――――開放、進路クリア。発進準備完了――――御武運を」
「こちらジョン。ネームレス、出撃します」
出撃口までの誘導灯が点灯し、数秒で時速数百キロにまで加速する。ハッチから離れた瞬間、ブースターとスラスターからは青い噴出炎が上がり、すぐにその機体を反転させる。
ハッチ近くからネームレスを見上げた映像がズームで、その姿を捉えた。天使のように青い羽根を広げたそれは、次の瞬間、敵機を見つけたようで、急加速をする。
「はっや!」
ロンがその姿に思わず立ち上がりかける。瞬く間にモニターの視界から消えたかと思うと、映像が切り替わった瞬間に、エインヘリヤル一機が右腕を撃ち抜かれていた。
現在、コーラルの周囲を襲撃している機体は残り四機。それをオペレーターが場所を知らせる前に、ネームレスは方向転換して再加速。正面からスルーズに追われる敵機にコーラルの底側で遭遇する。
同士討ちを避けるためか、ネームレスが左へと道を譲ると、先程までいた場所を青い光が貫いていく。
そんな中、ネームレスは体を僅かに旋回させてビームライフルを向けた。両足の甲の間から銃口を向けたネームレスは、そのまま左右に蛇行して追手を振り切ろうとする敵機のブースターを撃ち抜いた。
小爆発が起こり、その反動で敵機は仮想重力グラウンドのマイナス方向に向かって吹き飛んでいく。
「良い武器だ。これなら、後二機と言わず、残りも倒しきれる」
そうジョンが呟くと、ネームレスは残りの敵機を追撃するべく、青い羽根を広げて飛び立った。




