鹵獲Ⅵ
警戒しながらもアリスが、ドアの外が表示されたモニターを除くとミリーが立っていた。
「休憩中にすいません。艦長の命令であなたたちを呼びに来ました」
「え、艦長さん、のですか?」
アリスは一度シャルに振り返って首を捻りながらも、モニターから響くミリーの言葉に耳を傾ける。
「先程、あたなたちが乗っていた機体について、調査していたんですが、少し不可解な部分があると連絡を受けまして。至急、確認をしたいらしくて。申し訳ありませんが、着いて来てください」
「わ、わかりました。すぐに行きます」
アリスはスイッチを押して、モニターを落とす。
既にシャルはベッドから立ち上がっており、テレビの電源を落としていた。
「準備、早いね」
「やることないからな。ロンの無事を祈るのは大切だけど、それだけだと気が滅入る。それに、もしかすると新型機のシステムとか色々と知れるかもだろ?」
「シャルらしいけど、ロン君が知ったら悲しむと思うよ? あ、鍵は持ってくね」
アリスは苦笑いしながら、靴を履き替えてカードキーをポケットに入れる。そのまま、扉まで歩いて行って開けると、ミリーが扉の脇で直立して待っていた。
「体調は大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで落ち着きました」
「それは良かった。こんな事態は初めてだと思うので、もし頭痛とかがあるようでしたら遠慮なく行ってください」
そう言って、ミリーは格納庫に向かって歩き出す。
狭い通路に靴音が響く。居住区域だが、人の気配は少なく。みな、自分の配置にいるか、逆に寝ているか。少なくとも、すれ違う人は一人もいなかった。
「あの、ミリーさんはいつからEMU軍に?」
「三年ほど前に試験に受かって、ここに配属されました。新人は三年間、巡洋艦に乗って研修を受けながら訓練し、その後、正式な配属先へと異動命令が出ます。なので、今年でコーラルとはお別れです。」
肩ごしに振り返ったミリーは、どこか寂しそうな雰囲気を醸し出す。
シャルがそれを問うと、彼女としてはこの艦の居心地が非常によく、配置転換を望んでいないとのことだった。
「――――着きました。ここから先は、重力場が無くなるので気を付けてください。魔法が使えるなら、別ですが」
「あはは、私たちにそんなことできるわけないじゃないですか」
「あと、スカートの中もですよ」
「大丈夫です。下はこれなので」
そう言って捲ったスカートの下は体操服の半ズボンになっていた。
そんなことをしながら、アリスは青年が何も機械を使わずに無重力空間で歩く姿を思い出す。履いていた革製のブーツに何か仕込んでいる様子はなかった。仮にあったとしても、重力発生装置をそこまで小型化できる技術は聞いたことがない。
「あの男。絶対、何やってるな。いつかトリックを暴いてやる」
シャルが肉食獣のように目を光らせて宣言するが、アリスにはどうしてもトリックがあるとは思えなかった。
そんなことを考えていると、中年の整備員らしき人がふよふよと漂いながら近づいてきた。素早くミリーに敬礼すると、後ろにいたアリスたちに微笑む。
「あぁ、君たちがさっきの搭乗者の子たちか。来てくれて助かったよ。男の子の方は?」
「彼は、まだ取り調べ中です。ただ、事情が事情なので、今、こちらに向かっているかと」
ミリーは端的に話すと、彼も理解したようですぐに頷いた。
「そうですか。では、先に彼女たちから確認をしておきましょう。ついてきてください」
そう告げた整備員は、踵を返すと元来た方へと進んでいく。
「こんな状態じゃ、出撃するときにコックピットに行くのも大変なんじゃないんですか?」
「ここはメンテナンス用の格納庫です。私たちが出撃する用の機体は別のところにあり、そこでは重力場があるので、走って駆け付けることもできます。もちろん、緊急時はここからでも発進できるようになっていますよ」
軍艦の内部事情を知って、アリスとシャルが驚きながらも進んでいくと、ネームレスの姿が見えて来た。




