【蛇足②】絢哉くんへ。
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絢哉くんへ。
私は現在、旅館の四階つまり絢哉くんへの部屋でこの日記(というか手紙かな)を書いております。すぐ側で絢哉くんが眠っているから、起こしてしまわないかと少しだけ緊張しております。
もちろん、本当はきみと沢山お喋りをしたい。私をまたこの世に呼んでくれてありがとうだとか、私が死んだ後はどんなふうに生きていたのだとか――きみの髪色とか、テーブルの灰皿とかで何となく予想はついてしまったけれど――他愛もない話をしていたいけれど我慢します。だって、私はもう死んだ人間だから。
そんな姿になるくらい私に会いたいと思ってくれたことは嬉しいけれど――やっぱり、私はきみと会っちゃ駄目だと思います。こうして、こっそり手紙を遺すだけにします。
きみが、どうしても生きることが辛くて、どうしようもなくなってしまった時に、これを読んで私のことを思い出してくれたら嬉しいです。
ニーロン様から、今の絢哉くんがとても困った状態にあることは聞きました。
妹がきみに嘘を吐いていることは、こっそりと隠れて聞いておりました。
絢哉くんにお願いがあります。どうか、妹を恨まないであげてください。
あの子は、あの子なりにきみを想って、きみのために嘘を吐いたのだと思います。
それに、元を辿れば悪いのは私です。
あの子は、私が奪ったきみとの時間を取り戻そうとしていただけです。どうか、可愛いあの子のことをよろしくお願いします。別に、妹と交際しろだとか、好きになってあげて、なんて言うつもりはありませんが、あの子の想いを少しでもいいから汲み取っていただけたら嬉しいです。
纏まりが付かなくなりそうだから、将来のことを少しだけ。
私は、きみが他の誰かを好きになってもいいかなと思っています。
きみの将来を縛るつもりはありません。でも、私のことを忘れないでください。
そしてどうか、精一杯生きてください。
私は、きみの隣にはいられませんが、きみの中でずっと生き続けております。
今まで、本当にありがとう。
私は、絢哉くんがいたから幸せに生きていくことができました。
そして誇りを持って死ぬことができました。
私は、きみのことが大好きでした。
さようなら。
追伸 煙草は、吸うなとは言わないけれど控え目にね。あと、銀髪も似合っていないとは言わないけれど、もとの君の方が私は好きだよ。バイクは安全運転でね。
それじゃあ、またね。
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絢哉は日記を閉じた。
宇霊羅の隠れ里から盛岡への中間地点――道の駅・三田貝分校の長椅子に座っていた。
自販機で買った龍泉洞珈琲を側に置き、空を仰いだ。
今にも雨が降り出しそうな曇り空であった。
盛岡に着いたら、検査入院の前に散髪して、髪色を戻そう――と思った。
(了)
※この物語は作者の妄想に基づく完全なるフィクションです。登場する団体、職名、地名、氏名、その他名称において万一符号することがあっても、創作上の偶然であることをお断り致します。




