第三話
農作業で祖父母の居ないときにソラは瓜子姫の家にやって来た。
「どうするの?」
「あなたの力を借りるわ……。いいわ。乗っ取って!」
「本当にいいんだね?」
「後悔しないんだね?」
「それと重要な事言ってないけど、通算五か月以上乗っ取ったら君の精神を僕が食い尽くしてしまうんだよ。この『乗っ取りの術』は一度君の体はなれたらまた四か月延長できるというわけじゃない。あくまで通算だからね」
「え?」
「しかも完全に君を乗っ取った後で僕が本性を現す場合は寄生虫のように君の肉体の中から割って僕が飛び出す……。そういう残酷な術なんだ『乗っ取りの術』って。期日内だと単に透明な姿で分離するけど」
「だから本当に、僕が君に乗り移っていいんだね?」
「それと乗り移った後はあんまり人前でしゃべらないでね。独り言に聞こえるから。つまり頭おかしい人に見られるよ」
「もう一回言うけど本当にいいんだね?」
「うん!」
「じゃあ待ってて。君の手を握るから」
「こうでいいの?」
お互いが手を握った。
「目をつぶって。決して僕を見ないで」
そういうと呪文を唱えながらソラの周りが渦巻く。するとどんどんソラが透明になっていく。
そして透明になったソラは瓜子姫に重なるように動いた。さらに呪文を唱えると微妙に重なっていない部分がぴったりおさまった。こうしてソラは瓜子姫を乗っ取った。
――あ!!すごい!!
「だーかーらー! しゃべるなって!」
「ちなみに肉声こそ君の声だけど言葉を発する意思は僕しか出ないよ。だって君の肉体を乗っ取っているんだもん」
「さあ、今日から僕は君になるよ」
こうしてソラは瓜子姫を乗っ取った。ソラは隠れ蓑を使って人間には到底行けないような場所にも旅をした。
「これが、谷川岳の頂上だよ」
――す、すごい!!
越後国はもちろん天然の壁で向こうの国となっていた上野国まで見える。鬼たちが普段見ている光景のなんとすばらしい事か。
「ぼくたちは文字通り天空に住む鬼、天邪鬼なのさ」
ソラは、いや瓜子姫は以後毎日のように越後の国中を旅した。瓜子姫が見たことのない景色、光景を見て回った。
◆◇◆◇
ソラは鬼の村では血を針が付いた筒で抜き取った。
「これで瓜子姫の病気の正体が分かるかもしれん」
鬼のキラは少し安堵の表情となった。
「しかもソラの力で動き回っているから瓜子姫は見かけ上まったくの健康体だ」
「でも気を付けて。あくまでこれはソラの力。決して瓜子姫の本当の力じゃないよ」
――はい!
「『はい』って本人言っているよ」
「お大事に」
祖父母の暴力に対しては手を素早く抑えるなどソラは防御に徹した。
「おまえ、最近咳しなくなったな。病が治ったのか。結構な事だ」
本当はこの時鬼の怪力でこの祖父母の指をつぶそうかと思ったが、正体がばれるのであえてしなかった。
鬼の怪力を使って織機を直した。すると織物の出来がどんどんよくなっていく!
「とんとんからり、とんからり……」
織機のきれいな音が響き渡る。熟練者でなくとも織れる織物と織り機の評判は越後国の殿様の声にまで届いた。




