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黒一の恩返し Rewrite of favor  作者: かずや


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22/22

黒一の恩返し


 ——あれから半年程経った。

 相変わらず仕事は忙しいが生活も心身も安定している。

 もう、モヤは視えなくなった。

 だけど支障は無い、元に戻っただけなのだから。

 クロは大きく育ち、やんちゃさが目立ってきてなによりだ。

 紫音さんとも仲良くさせて貰っている。

 定期的にお店に伺い毎回料理に感動をするし、悟さんの健康状態も会う度に良くなっているのが、目に見えて分かる。

 紫音さんとはプライベートで一番お会いする女性だ。

 食事や映画等に行くぐらいに仲は進んでいる。

 今では月に二〜三度自宅に来てクロと遊ぶ程だ、飼い主より甘えてるのが分かるので嫉妬もあるが。

 鈍感な自分にも分かる、お互いに好意を抱いてる事に。

 近い内に一歩踏み込むかもしれない、さすがに四十代すぎのオッサンが待ち姿勢はキツいだろう。

 それはまたそれで自分らしいのかもしれないが、男として格好は付けたい。

 

 そして満月が何度空に浮かんでも、もう誰もインターホンは鳴らす事は無かった。


 日々が充実して、中身がある時間の経ち方に普通の幸せを感じる。

 そんな幸せん噛み締めていればあっという間に盆休みになった。

 盆休みを利用して宗馬はペットケージを持ち、地元徳島に帰ってきた。

 猫神の地、昔はそう祀られていた地域。

 特別猫が多い訳じゃないが、昔は違ったのだろうか?

 

「クロ大丈夫か?」

「ニャ」

 夏の暑さに移動もあったので、心配にはなるが元気そうだ。

 (あっという間に重くなったな……クロ)

 ケージを持つ腕がだるく感じる。

 これも幸せのダルさなんだろう。


「ただいま」

「おかえり〜あらーあなたがクロちゃんね〜」

 実家に帰るなり母はクロと挨拶をしている。

「おう、宗馬お疲れ様」

「ああただいま、悪いけどクロに水用意してくれるか?」

「ええ!クロちゃん来るって聞いてオヤツも一杯用意したんだから!」

「猫を大切にする地域だからな!」

 母はバタバタと用意に向かう、しかし父が気になる事を言った。

「父さん、昔からこの辺りは猫を崇めてるのか?」

「ん?崇めると言うか……そうだな、共生してきたって方がしっくりくるかな?ほら、前に言ったろ?神社で犬や猫祀ってるって」

「ああ、猫神の地なんだろ?」

「なんだそりゃ?そこまで大層なもんは聞いた事無いが、でも昔から猫と生きてきた地域だわな」

 父の年代も知らないぐらい古い話なのかと宗馬は思った。

「はいはい、お水よ〜ほら宗馬、居間で出してあげましょう!」

 はやく撫でたい姿勢が見える母と父に笑い、実家へと入って行った。

 

 共に帰省をし、両親と挨拶を交わした宗馬とクロは次の目的地に向かっている。

 道を歩き、角を曲がり、目の前に建つ神社。

 本来の目的地へ辿り着いた。

 (流石にペット連れてたら怒られるかな…サッと入ろう)

 お参りを済ませて人目を気にしながら、神社敷地内にある木々が植えられてるエリアへ。

 その内の一本目当ての神木まで行く。

 

「久しぶりだなクロ……いや黒一」

 地面を撫で呟いた。

 

 少しの間だったが、去年起きた様々な事が浮かぶ。

 最後に見せた黒一の顔は泣いていたが、しっかり笑ってた。


「ホッホッホ、久しぶりじゃのお主よ、可愛らしいお客さんまで連れて巫女に怒られるぞい」


 いつの間にか真横に立たれていた。

 年老いた風格のある神職、宗馬は驚きはしたが恐怖は無かった。

 それが()()()()()としても。

「……見逃して下さい、墓参りなんで」

「ふむ、大丈夫じゃよ。今どう騒いでも誰も来ん、心ゆくまで祈って行け」

 神職は不思議な事を言った、そして宗馬は不思議な感覚を覚えた。以前にも感じた外と中が違うような、外界とは切り離されたような神聖な空間に居るような。

「ありがとうございます」

 宗馬はなんとなく分かった、神職が何か不思議な事をしたのだろう。不思議な事が何かはわからないけど、それが出来る存在……

「お主達は深い絆で結ばれておる、新しい縁も絡み太くなった、泣き虫だった子供達も大人になったの」

「神職……ずっと見守っていたって前に言いましたよね?」

「ホッホッ、儂は皆を見ておるからの。人も動物も自然もな」

「この子は……俺を見てくれてますか?」

 神木の土をなぞり聞いてみた。

「さあのう、お主が道を踏み違えたら怒って化けて出るかものう」

「……じゃあ、大丈夫ですよ」

「なら心配はいらんの、ホッホッホ」

 神職は最後にひと笑いして、いつの間にか消えていた。

 (……ありがとうございます、猫神様)

 宗馬は心で呟き、屈んだ姿勢から立ち上がった。

 

「また来るよ」

 神木の根元に向けてそう告げ帰ろうと振り向いた時だった。


「お待ちしてます」


 確かに黒一の声が聞こえた。

 振り向いても誰も居ない。


「またな黒一……さ!クロ帰ろうか!」

「ミャ」


 もう大丈夫、ありがとう黒一。

 宗馬は背筋を伸ばし、クロと共に日常へと帰っていった。


 ――黒一の恩返し 完

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