59章〜リミット〜
「どうだい?今からでも取引は受け付けるよ」
「受けるわけねぇだろ」
玲人が吐き捨てて、まだ弾の残ったマガジンを入れ替える。
「君たちに勝ち目があるとでも?能力は無意味だよ?」
「制限」
……?
話していた2人が黙り、背後からの隙間風の音だけが響く。
リテネは表情ひとつ変えないが、心なしか少しだけ顔が影がかっているようだった。
「何のことかな?」
「流羽人。当たりだ」
リテネの返答を遮り、玲人が得意げに笑う。
「何なんだ、そのリミットとやらは」
「能力を使う上での制限。俺らは魔力量による制限がされていて、リエル達は血による制限がある。それと同じように、強い能力には必ずデメリットがある。そうなんじゃないか?」
「さぁ……どうだろうね?君たちも話をする気はないみたいだし、ここからは実力行使といかせてもらうよ」
「焦ってるのか?時間ではなさそうだし……回数によるリミットか?」
煽り口調でリテネを挑発しながら、少しずつ優位に立っていく。
「黙れ!」
ついに感情を少し表して、リテネが高速の炎と電気を放ってきた。
その攻撃とほぼ同時に、フラマの重心が沈んで、投擲ナイフが髪を切る。
「そっちは任せた」
俺に背を向けて、玲人はリテネの攻撃を受けることに専念する。
「分かった……」
フラマに負けた記憶が一瞬頭をよぎるが、無理矢理頭の奥に押し込んで息を吸う。
……世界から音が消え始める。
二個目の投擲ナイフを払った。
強い金属音が鼓膜を打ち、ナイフが強く壁に叩きつけられる。
こちらの鉄パイプのリーチ差をものともせず、フラマは素早く密着展開を作ろうとする。
その軌道上に拾った投擲ナイフを投げつけた。
力任せの全く飛ばない投げ方。
……それでも、彼女の動きを遅らせるには十分だった。
彼女のわずかな迷いの中で、パイプを槍のように使い、自分のリーチを維持する。
当たれば儲け物。外しても彼女はおそらく引いて仕切り直し。
俺にとって、部の良い賭けのはずだった。
ただ、突き出した瞬間。彼女は視界の中にはいなかった。
……脳が動くよりも先に反射的に体が動いた。
電気の速度で体を引く寸前、左腿をナイフが掠めた。
……あの速度でも当たるのかよ……!
微かに血が滲むが、それを気にする前に追撃が来る。
体勢が崩れている俺にとどめを刺すように、顔へのナイフ。そして、低姿勢から回し蹴りが繰り出される。
ナイフは運良く後方に逸れ、同じように姿勢を低くして、力の差でなんとか回し蹴りを受け切った。
前はこの2連で即座に負けた。ただ、今は見える。
即座に受けた手で、回し蹴りの後隙に胸元に拳を叩き込む。
明らかな当たった感触があった。
ただ、その直後にフラマは倒れることはなかった。
代わりに、俺に殴った左手に深々とナイフが突き刺さっていた。
……
少し遅れて痛覚が仕事を始め、痛みで右手のナイフを取り落とす。
……刺さったナイフがどこから飛んできたのか考える暇はなかった。
ただ、理解させられた。
バランスの崩れた一瞬の間に、真下。
地面から足が伸びてきて、俺の顔を蹴り上げた。
あの回し蹴りの後、フラマは回転に身を任せ、あえてバランスを崩したのだった。
壁に頭から吹き飛ばされ、四肢から力が抜けて、赤い血が瞳に流れ込む。
「チェックメイトだね。流羽人」
体が自分のものではないかのように、何も動かない。
一直線にナイフが来ているのに……体が……
……今しかない。
回し蹴りの後隙すら消す彼女の、物理的な隙を突くことは不可能だ。
それでも、彼女は今、もう一つに隙を晒した。
……完全に動かない敵へのトドメ、チェックメイト。
その状況に勝利をすでに確信してしまっている、彼女には精神的隙があるはず……。
動かない体を無理やり動かして、心臓の位置を僅かにでもずらす。
……彼女の音速とも感じるそのナイフは、僕の心臓寸前で止まった。
俺の震える右手が、赤く染まりながら、ナイフの刃を握りしめていた。
フラマが勘付き、ナイフから手を離そうとしたが、もう遅かった。
「Another world……破壊し尽くせ……」
全てが鉄でできたフラマのナイフに、命を奪わずとも、失神には十分すぎる電気が体を駆け巡る。
フラマはそのまま体を小さく痙攣させながら、リエル達の隣に倒れ込んだ……
……終わったか……
頭からの出血で意識が朦朧としている。
……
「流羽人、何やってんだよ!早く」
顔の前を火の玉が通り過ぎて、薄れた意識が戻った。
使い物になるかも怪しい右手で、の血で装飾されたナイフを左手から抜く。
「まさか……こうなるとは。現実とは面白いね」
リテへが上着を脱ぎ捨て、大きく首を回す。
「余裕ぶってられんのもあと少しだな」
玲人が再び、拳銃に弾を詰める。
「あぁ……壊してやるよ」
ナイフを持ち直して、俺は大きく息を吸った。
時間が固まり、部屋には僅かな静寂が訪れた。
……1発の発砲音、電気と炎の弾が同時に飛んだ。
……1月投稿予定が、文章が合わなかったりテストが挟まったりと、伸びてしまいました……
次章投稿も未定ですが……別作品が先に公開されるかもです。




