闘志
朝、陽の光で俺は目を覚ます。
「……あれ、ヴァルはどこに行った?」
隣で寝ていたはずのヴァルがいない。どうしたんだ? 目をこすりながらベッドを降りると、下の階から物音が聞こえた。おそらくヴァルだろう。俺はリビングへと歩を進める。
「グレイヴ、おはようございます」
ヴァルは朝食をテーブルに並べていた。トースト、目玉焼き、ウィンナーにフルーツサラダ。完璧な朝食だ。
「コーヒーも淹れますよ」
そう言って、ヴァルはコーヒーメーカーを操作している。……もはや勝手に買われた家電に驚く気力もない。この状況は、受け入れるしかなさそうだ。
ふと、ヴァルの服装に目をやる。……学校の制服か? まさか、こいつ学校に通ってるのか? 嫌な予感がよぎる。もしヴァルが学校でやらかしたら──いや、それ以前に未成年と一緒に暮らしてるってバレたら俺は……。
「ヴァル。お前、学校行ってるのか?」
「……何か問題でも?」
問題しかねぇよ。もし同居がバレたら、未成年者誘拐で逮捕されるかもしれない。せっかく日本まで来たのに、それじゃあ台無しだ。
「いいか、あまり目立ったことはするなよ」
「分かりました、グレイヴ」
表情が一切変わらないから、本当に理解してるのかは分からない。
「では、学校へ行ってきます」
ヴァルはそう言って、重そうな鉄製のカバンを持ち上げた。
「おい、なんだそのカバン?」
「これですか? 武器が入っています」
学校に持っていくなよそんなもん! 止めようとしたときには、すでにヴァルの姿は消えていた。……マジかよ。
⭐︎
ヴァルは学校に到着し、教室へ向かう。そして無言で自分の席に座った。
「あ、ヴァルさんだ……。あの子、変わってるよね。無口だし……」
クラスメイトたちの噂話が耳に入る。いつものことだ。気にする必要はない。
体育の授業になった。今日は50m走。
「ヴァルさん、6.64秒!? 速すぎ!」
周囲がざわつく。何がそんなに驚くのか分からない。これくらい、手加減すればよかったか……。グレイヴの言葉が頭をよぎる。
『あまり目立つなよ』
「……目立ってしまった」
そう思いつつも、あまり気にしていない様子。
「立ち幅跳び、2メートル79!? 飛びすぎでしょ!」
今回は手加減したはずだった。なのにまたしても目立ってしまった。どうすればいいんだ。
「すごいよヴァルさん! 陸上部に入らない?」
体育教師に肩を掴まれ激しく勧誘されるが、面倒なので断った。
放課後。帰宅途中、ヴァルの背後から車が近づき、突然引きずり込まれる。
「ターゲットを拘束した」
車内にはアサルトライフルで武装した男が4人。言葉はロシア語──目的は不明だ。車は街外れの廃工場へと向かっていく。
⭐︎
ヴァルの帰りが遅い。道草でも食ってるのか? 俺は野球中継を見ながらそんなことを考えていた。すると、スマホが振動する。
「ん? なんだ?」
ロシア語で送られたメッセージに、一枚の写真が添付されていた。
『お前の女を人質に取った。今から1時間以内に指定の場所に来い。さもなければ殺す』
写真には椅子に拘束されたヴァルの姿が映っている。
「……はぁ。今ちょうどいい場面だったのに」
俺は頭を抱える。面倒ごとを引き起こすタイミングが最悪すぎる。だが、助けに行かないわけにもいかない。仕方なく、立ち上がった。
⭐︎
指定されたのは、街外れの廃工場。外には武装した兵士数名。装備を見る限り、ロシアの特殊部隊──おそらくスペツナズ。
俺は息を殺してスニーキング。背後から近づき、兵士の首をひねって無力化。武器は現地調達が基本だ。奪ったのはグローザ。9×39mm弾を使う、ロシアの特殊部隊仕様のアサルトライフル。敵がスペツナズなら納得だ。
「いたぞ! グレイヴだ!」
……ちっ、見つかったか。すぐさま近くのコンテナ裏へと隠れる。飛び出しざまにグローザで敵の頭を撃ち抜く。
「ぐっ……!」
音からして、あと2人か。残弾は半分以上ある。問題ない。
飛び出して一人の足を撃ち抜き、もう一人が焦った隙に頭を狙って射殺。もがいているやつにも、トドメを刺す。
「捕虜は取らない主義なんでな」
そう呟き、俺は廃工場の中へと進んだ。




