一緒
野球を見ながら食べるホットドッグはやっぱり美味い。今は時間もたっぷりあるし、たまには球場まで足を運んでみるか――と思ったら。
「……なんでヴァルは、当然みたいな顔で俺の隣に座ってるんだ?」
「これが野球、ですか。初めて観ました」
「野球見たことないのか? 人生3割損してるぞ」
ヴァルは相変わらず無表情でテレビを見つめている。そんなに見入るもんか? まあ日本の野球も悪くない。応援の迫力がすごいな。
「人生の3割……。私は約6年分、損してたんですか……」
マジメに受け取ってんのか。ジョーク通じないタイプかこいつ……?
「お、打ったぞ。これは入るんじゃないか」
カメラが白球を追う。球はスタンドに吸い込まれ、テレビから大歓声が響いた。……やばいな。こんないい試合見てたら、ビールが飲みたくなってくる。
「ビールなら冷蔵庫に入ってますよ。取ってきましょうか?」
心読まれた!? いや、顔に出てたか? てか、冷蔵庫ももう買ってんのか。もしかして俺のやること、もう何も残ってないんじゃないか?
ヴァルがキッチンから缶ビールを持ってきた。ラベルには『サンシャインブリュー』。日本じゃ売ってない、俺のお気に入りだ。
「なんでこれがあるんだよ!」
「個人輸入する予定です。これで毎日3本飲んでも、1年はもちます」
いやどんだけ輸入する気だ! 3×365=……1095本だぞ!? 完全に業者じゃねぇか!
「輸入はキャンセルしてくれ……」
ヴァルは無表情のまま頷く。
「わかりました。キャンセル料がかかりますが、どうされますか?」
「……は?」
「今回の支払いはグレイヴ名義で行いましたので」
ちょっと待て。それは俺が払うのか!? てか、なんで俺名義で支払えるようになってんだよ!
「わかった。キャンセルしといてくれ。あと、勝手に俺の名義使うな……」
「かしこまりました」
本当にわかってるのか……? また何かやらかしそうで不安だ。試合はタイガースが7点を取って大差の勝利。ホームランも2本出たし、ビールも結局3本飲んでしまった。
「俺、シャワー浴びてくる。その間、余計なことするんじゃないぞ」
ヴァルにビシッと指をさす。どうも、あいつには常識が通じない。
「義手と義足は外さないのですか?」
……言われて気づいた。
「俺のは防水仕様だ。問題ない」
シャワーを浴びる。落ち着いてシャワーなんて、何年ぶりだろうか。暖かくて気持ちいい。……って、シャンプーもボディソープもちゃんとあるじゃないか。まあ、ある分には困らないが。
――バンッ!
勢いよく風呂場の扉が開く。
「リンス、忘れてますよ」
「うわぁぁぁっ!」
振り向けば、無表情のヴァルが俺の体をじろじろと見ている。
「何見てんだよ! とっとと出てけ!!」
おっさんの裸を無表情で見つめる少女とか、絵面が終わってるだろ。どうしてそんな平然としてられるんだ、ヴァル!
リンスを置いて、彼女は無言で去っていった。……あいつ、常識ってもんがないのか?
俺が風呂から出ると、今度はヴァルがシャワーへ。俺はテレビでニュースをつけた。ちょうどメジャーリーグの試合の報道。おっ、ヤンキース勝ってるな。
「上がりました」
「おう、そ――」
振り向くと、ヴァルが真っ裸で立っていた。
「おいバカ! 服着ろ! せめてタオルで隠せ!」
「なにか問題でも?」
問題しかねぇよ! 見られるの、嫌じゃないのか? やっぱりこの少女、どこかズレてる……いや、ズレすぎてる。
「とにかく、服を着ろ! いいな!」
「わかりました」
ヴァルはそのまま歩いていった。気配も音もなかったのに、近づいてくるときだけはなぜか耳元に現れる。
「寝室なら、2階ですよ」
耳元でささやかれ、俺は情けない声を漏らしてしまった。
「ひゃっ……!」
気配ゼロって、なんなんだよお前……。
ヴァルは俺の腕をつかんで引っ張る。痛いって! お前、力強すぎるんだよ!
「ここです」
案内された寝室には、40万はしそうな高級ベッドが置かれていた。……この支払いもCIAが――?
「いえ、このベッドはグレイヴの金で買いました」
「へ……?」
俺の40万が……。めまいがしてきた。なんで俺の名義でそんな買い物できるんだよ。
「では、寝ましょう。グレイヴ」
「待て、一緒に寝るのか?」
「……? そうですが」
そうですが、じゃねぇよ。33歳のオッサンが17歳の少女と同じベッドなんて、アウトすぎるだろ!
「俺はソファで寝る。ヴァルはここで寝ろ」
「一緒に寝ないんですか?」
キョトンとした目で見られる。……なんだ? 俺が間違ってるのか……? いや、違うだろ。
「あーもう。わかった。一緒に寝るよ。それでいいんだろ」
どうせ説得しても無駄だろう。俺は諦めてベッドに入る。ヴァルも当然のように隣へ。……この状況で無表情を貫く神経がすごい。
新生活、まだ一日目だってのに、どっと疲れた。……にしても、こいつ、ヴァル。
一体、何者なんだ――?




