秘密・・・
「一歩ずつ前に進もう。何度でも立ち向かっていける。振り向けば仲間がくれる愛に守られている・・・」
「楽しいことは忘れて、辛いことだけ残る・・・?零さんはそれを承知したのか?」
つぅーっと汗が流れた。鬼衣瑠は俯いたままだったが、コクリと頷いた。オレは少し驚きながらも環の方を振り向いた。環なら何か知っているような気がしたから。
「何で?何で零さんはそんなこと承知したの?楽しいこと消えちゃうんだよ!辛いことだけって・・・」
オレは零さんに会ったばかりなのに、こんなに必死になっているのかわからなかった。でも、オレはそんな人生は嫌だと思ったのだろう。環が鬼衣瑠に「云ってもいい?」と囁いているのが聞こえた。「・・・云ってやれ」その答えを聞き環は口を開いた。
「れーちゃんには、楽しい思い出なんて一つもなかったの。両親の顔も知らなかったの。拾われたのは公園の花壇。でも、施設でも誰とも仲良くならなくて職員も呆れていたんだって。暴力もあったみたいよ。−零-って名前は何も持たずに生まれてきたから零って意味なんだよ。こんな人生人間界で過ごしても楽しくないかられーちゃんは、ここに居るの。人生すべてが辛いことだから・・・」
人生誰でも楽しい事が有り、その中に辛い事がある・・・そう思っていた。でも違うんだ。そう思うと、頬に涙が流れる。ポロポロと自分でも困るほど流れている。その涙を拭いながらオレは鬼衣瑠の言葉を聞いた。
「同情すんじゃねぇ・・・。これが零の運命で、選んだ道だ。それに、あいつは強いからな!!」
彼の笑顔はオレの涙を止めることができた。零さん、あんたは本当に強いんだろうな。オレはいつの間にか笑っていた。
「んじゃ、私行くね!むっくんも笑ったことだし。班長に報告する事もあるから」
じゃーね!とオレたちに手を振り環は出て行った。そして、オレは環から聞いた魔物などを封印することの話をした。
「あっ!もうそこまで知ってるのね。なら、話がはやい。睦が思った通り睦も魔物を封印してもらう。そのために、明後日くらいからまた修行をする。水を完全体にさせてやる!」
あぁ・・・・また地獄が始まるのか。オレは遠い眼で鬼衣瑠を見ていた。そして、まっしーが居ないのに今気づいた。
「なぁ、まっしーは?」
「あぁ、会長のとこ行ってる。あいつここだとオレの秘書みたいな感じだから」
ふぅん・・と答えオレは頬杖をつきソウルを出して遊んでいた。ガツンと頭を叩かれた。イッテと鬼衣瑠を見ると、いきなり話を始めた。
「睦・・・ここでそして、ここの住民と恋に落ちても意味ないからな」
なぜ、そっちの話になったのかはわからないが、少し興味がわいてきた。
「何で?」
「ここでは、母親も父親もいない。子供も産めない。オレたちはあの木から生まれる」
鬼衣瑠が指を指している方向を見るとそこには大きな木があった。
「あれから生まれたのか?」
「まぁな!あれは-生命樹-と云う。だからオレらは結婚なんてしない。睦、この世界回ってみて気づいた事なかったか?」
え?気づいたことねぇ・・・。オレは頭を整理させる。あっ、一つあった。多分・・
「お年寄りがいない?」
「正解!!よく見てたな。オレたちは成長が止まるんだ。生まれたときに何歳で止まるかを聞かされる」
この世界なんでもアリだな。なんか楽しくなってきたぞ。
「鬼衣瑠はもう止まってるのか?」
「・・・トップシークレットだ!」
・・・・・ケチ!でも、地獄(修行)が始まる前に結構ここのこと知りたいな。
「ねぇ!もっと聞きたいんだけど。ここの事・・」
鬼衣瑠は、はぁーとため息を吐きそれでも苦笑していた。オレがこんなに聞くとは思わなかったのだろう。
「研究室ってとこ行け!そこに誰かいるから・・そいつに聞いて来い。あいつなら大丈夫だ。」
そう云いオレの背中を押した。
オレは迷いながらも「研究室」にたどり着いた。鬼衣瑠め・・!場所くらい教えてくれてもいいのに。
「失礼しまぁー・・・」
ドアを開けたらそこは・・・・一面煙で覆われていました。何なんだ??
「おいっ!開けるな!ノックをしろ!てか、この煙吸うなよ。吸ったら5秒であの世行きだ!」
煙の中から声が聞こえた・・・え?あの世って!急いで口を押さえた。その声の主は煙を吸う機械で吸っている最中だった。
綺麗に煙がなくなると、そこは研究室と云うより図書館と云ったほうがいいくらいだった。
「君は・・・・?」
オレをガン見しているその人は、またまた整った顔で眼鏡をかけていた。黒髪だ・・。人間かな?
「それより君・・・煙ちょっと吸ったでしょ?顔色悪いよ」
「ええぇ!」
「嘘うそ!いい顔色してるよ。」
その人はやさしく笑っていた。その笑顔は、自然と人を笑顔にしていた・・・。




