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浸透世界のデリット  作者: 朝露 壱
第一章 魔術師アルト・クレッシェード
9/9

1―8 「グレイシア・バーン」

「・・・―――では、外出時間は4時までです」


そういわれて手渡されたのは外出許可証だった。

何時もどおりの服を着て、今日は気晴らしに外出しようと思っている。

たまには、特に昨日の事で頭の中を整理したいため、それくらいの自由は構わないだろう。

俺はアウローラ王宮の門を潜りぬけ、久し振りの城下町を歩く。

色んな人々が行き交う中、怒声の様な物が聞こえた。

俺はその怒声が聞こえてきた裏路地を覗き込んだ。


「―――このクソガキがッ!」

「ッ・・・ぐ・・・っ」


俺と同じくらいの少年が腹を蹴られ、うずくまっていた。


(っつぅか、俺、止めた方がいいんじゃないのか・・・!?)


「ちょっ・・・何してんだっ」

「他人には関係ねぇっ!離せ!」


再び暴力を振るおうとする男に、俺は右手を自分の胸の前に当てる。


「《風魔の精霊(アーリア)》」

「!」


―――ドンッ


男の身体は風に舞い、そのまま壁まで吹っ飛ばされる。


(ヤッベ・・・やりすぎた・・・?)


顔を歪めて男は起き上がった。


「・・・ッ化け物・・・」

「!」


忘れかけていた言葉だった。

何だか突きつけられたみたいで、再度教えられたようで気持ちが悪くなった。

・・・気が滅入る。男は去り、残ったのは俺と、少年だけだった。


「・・・大丈夫か?」


俺は目の前に座り込んでいる少年に手を指し伸ばした。

少年は顔を挙げ、俺を睨みつけるように見る。


「・・・誰も、助けろ何て言ってねぇ!」


(・・・!?・・・魔力・・・!)


微かに少年から感じる魔力に、俺は一瞬だけ驚いた。


「へぇ、お前、魔法使えんのか?」

「・・・ッ」

「・・・さっきの男。・・・ずいぶんな魔法使い嫌いなんだな」

「・・・あの男は、俺の親父だ」

「・・・ふぅん」


興味なさげに俺は溜息を吐いた。

コノ世界では良くあることだった。魔法は今こそ認められ始めてきたが、やはり魔法使いを異端視する者は多く、突然《覚醒》した者を拒絶する事が多い。

・・・それが自分の子供ならなおさら、認めたくはないだろう。


「・・・魔法が使えるようになってから、突然変わった。・・・ハッ・・・」

「・・・」

「それくらいの、魔法が使えるってだけで見放すような親だとは思わなかった・・・。・・・お前、魔法騎士団なんだろ?周りは魔法使いを優遇する者ばかりでさぞかし幸せだったんだろうなぁ・・・!」

「違う」


俺はキッパリと言い放ち、面倒くさいと思いながら口を開いた。


「元々俺はこの国の人間じゃないし、《魔法騎士団》で育った訳じゃない。俺は国から《迫害》を受けた者だ」

「・・・《迫害》・・・?」

「国を追放された」


あっさり言いのけた俺に、少年は驚いた表情を見せる。


「・・・じゃあ、お前も俺と同じなんだな」

「そうとは限らない。俺はお前と違って《迫害》された。お前はまだ《迫害》されてない」

「《迫害》されたも同然だろう・・・?これじゃあ・・・!」

「・・・誰が魔法を使う奴は悪い奴だ、って言った?魔法は、使う奴によって善か悪か決まるんだ。・・・お前の魔法、人の為に使え。幸せか不幸せかなんて、自分の行動で変わるもんだ」

「・・・」

「じゃーな」


―――残った少年は、人気のない裏路地でグッと口を結ぶ。


「・・・そうだ、お前の名前、まだ聞いてなかった」

「・・・俺の名前はグレイシア・バーンだ」


そっか、と呟いて。

俺は少年の顔を再度見て、裏路地を辿ってその場を後にした。





「・・・やはり、あの少年だったか・・・」


―――アルト・クレッシェード。

幼い頃から魔術師としてエルドに育てられ、エルドを護り続けてきた者。

その魔力はいまだ未知数で、計り知れない。

魔術師という肩書きさえも、疑問を覚えるような少年だ。

俺は溜息を吐いて、誰にも言わない独り言を呟いた。


「・・・だが、彼自身、魔族が敵だという認識は弱い・・・」

「失礼します。陛下・・・」

「どうした?」


部下の男は数秒黙り込んだ後、ようやく口を開いた。


「その、アウローラ騎士団のクロウ・ファインダーが・・・」

「・・・通せ」


部下はいそいそと下がり、扉は開く。

その扉の前に立ったのは、《勇者の末裔》クロウ・ファインダー。

彼は、何も知らない。・・・アルト・クレッシェードの事を何も。

金色の髪はかつての《英雄》を思わせ、最近では《勇者の生まれ変わり》とまで言われ始めた。

クロウは凛とした透き通る声で言葉を発した。


「何の用でしょうか。陛下」

「・・・アルト・クレッシェードという少年の事だ。・・・今回の出来事で、伝えなければ成らない事が出来た」


すると彼は思いっきり顔をしかめて、俺の顔を見た。

・・・明らかに、何か感づいているようだが、それにしたって知らないことは多い。

彼はもしかすると、アルト・クレッシェードがいつか話すとでも思っているのだろうか。


「・・・彼は十年ほど前、この国から《迫害》を受けた」

「!」

「・・・詳しくは話せないが、・・・その後、エルドの森へと追放され、そのまま放置され、今の今まで俺は死んだと思っていた。・・・お前が今回、連れてきたという《アルト・クレッシェード》は、同名の別人だとさえ思っていた。・・・だが、今回の出来事で、確信が持てた」

「・・・アルトをどうするつもりですか?」


微かに感じる殺気。


(・・・相当お気に入りのようだな)


俺は少し含み笑いをしすると怪訝そうに彼は俺を見た。


「何ですか?」

「いや、君がそんな表情をするとはね・・・。あぁ、別に他の人間には喋らないつもりだ。安心しろ。・・・それに、喋ったって俺に徳は無いしな。・・・それどころか損ばかりだろう」

彼は安心したようにス・・・ッと表情を和らげる。

「彼の《力》は戦力になる。それに、彼は面白い」


黙り込んだまま、クロウは部屋を出て行った。

今話した出来事を、きっと彼は誰にも、当の本人にも話さないだろう。

昔から、そういう奴だ。

俺は少しだけ愉快に笑って、眼を閉じる。

―――十年ほど前。

アルト・クレッシェードという異端の少年が一時的に保護されてきた時の事を思い出す。

懐かしく、辛い記憶。

今はまだ、話さないほうがいいだろう。

時が来れば、いずれは話す必要が来る。


「・・・陛下ッ!!」

「どうした?」


慌てて駆け込んだ部下を見て、俺は緩んだ顔を元に戻す。

すると後ろから先ほど出て行ったはずのクロウまで入ってきた。

駆け込んだ部下は息を乱して必死に話そうとした。


「・・・何・・・?」

「・・・!」





「・・・ハァァー・・・」


アルトは深く溜息をついた。

色とりどりの服を着た人々が町を行き交う中、黒い服装のアルトは若干目立っている。

そんな事を気にもせず、気だるそうにもう一度溜息を吐いた。

昨日の出来事を思い出すたびに気が滅入って、憂鬱な気分になる。


(・・・そういえば、アイツ、大丈夫か・・・?)


先ほどであった少年を思い出し、更に気が滅入った。

ガクゥッと再度、肩を落としてフラフラと街中を歩いていると、向こう側から何か怒声と悲鳴の様な物が聞こえてきた。


「・・・!?」

「キャァァァァッ!」

「皆さんッ早く非難をッ」


人々が非難していく中、開けた視界に移ったのは、真っ赤な色の火焔。

建物を燃やしながらその炎は広がっていく。


(災害?)


―――ドンッ


「!?」


襲い掛かる炎に俺は顔を歪め、建物の中を眼を凝らして見てみた。

―――炎の中心。

即ち燃え盛る家の様な建物の中に居たのは、頭を抱えてうずくまっている少年らしき人物。

年は俺とさほど変わらないだろう、あの、先ほど裏路地で話していたあの少年だった。

彼は虚ろな表情を見せ、顔をゆっくりと上げた。


「アルト君!?何で此処にッ・・・」

「レイス!コレは・・・!?」


レイスに近付こうと、手を伸ばした瞬間炎が襲い掛かる。



(・・・暴走・・・!?)



―――《暴走》というのは、魔法使いや魔術師に良くある事だ。

魔力を持った者が精神状態が不安定になると起きる現象で、魔力をコントロールできなくなり、自我を失くす。

酷い時は、自分の人格が崩壊するまでに至る。

・・・俺は右手を眼にかざして、短くヒュウッと空気を吐いた。


「アルト君ッ!何でキミ、此処に・・・」

「・・・ちょっと散歩してた途中だったんだよ。それよりレイスこそ何してんだよ・・・」

「・・・ッ暴走している少年が居るって突然召集されて来たんだよ」


すると魔法騎士団らしき人員たちが一斉に詠唱をし始めた。


「・・・アイツら、何してんだ?」

「・・・彼を、あの少年を危険対象として攻撃する」

「・・・あ゛ぁ゛?」


俺は、胸の中に怒りが湧き上がるのを感じた。

俺は、一歩ずつ少年に近付く。


「アルト君ッ」


―――このままでは、詠唱が完了したと同時に魔法が少年を襲う。・・・それどころか、自分の作り出した炎に飲み込まれてしまうだろう。

強力な紅蓮の炎は絶え間なく俺に襲い掛かり続け、俺はソレを避ける。


「アルト君ッ」

「・・・ッおい!しっかりしろ!」


少年の手を握ろうとすると、言葉が頭の中に入り込んでくる――。



《―――化け物》



「!」


次には映像が頭の中に流れ込む。





―――人々が嫌悪を表すまなざしで少年を見る。


―――避けるように、少年を拒絶する。


―――暴力が襲い掛かり、言葉で傷つける。



《気味が悪い・・・》


《この化け物》


《・・・アンタなんか×××!》



―――ドウッ



「!」


炎が目の前を襲い、映像と言葉は断絶される。

目の前で頭を抱えながら震える少年の頬には、雫が伝っていた。


「・・・」


俺は少年の手を握った。

既に自分の炎で身を焼き、手は火傷だらけになっているその手を握り締め、眼を閉じ、詠唱を始める。


(辛かった、だろうな)


俺とは違う形で《傷》を負い、背負ってきた、今まで魔法の使える、異端視される自分を責めてきた。

ソレゆえの暴走。

後ろから、レイスの声が聞こえる。

レイスはどうやら、魔法の詠唱を騎士団員達に辞めさせたようだった。


『う、あガァアァアアアァアァアァッ!』


(・・・風の精霊・・・少しだけ力を貸してくれ。・・・コイツの魔力を、すべて飲み込む・・・!)


ズンッと、何かの力が身体に圧し掛かった。

魔力を極限まで高めて、少年の溢れた魔力を俺が吸収する。


「ぐっ・・・」


今にも吐きそうなほどの魔力が一斉に俺の身体に流れ込んできた。


(耐えろ・・・!)


炎が次第に消え、同時に自分の身体から圧力が消えて行った。

―――身体が自由になると同時に、少年の身体は俺にもたれかかる形となる。

転びそうなのを堪え、俺はその少年の頬をぺちぺちと叩いた。


「・・・お前は・・・」

「・・・おっはー」


手をヒラヒラさせ、俺はドッと後ろに倒れこんだ。


「・・・ッ・・・疲れた・・・」


流石に、限界だったらしい。

―――正直言うと、《魔力吸収》なんて魔術は、初めて使ったのだけど、案外上手くいった。


「アルト君!」

「・・・ッハァァ・・・全然休まった気がしねぇ・・・散歩に出かけたのに・・・」


少年の両手を掴んで、そのまま意識を集中した。

周囲には具現化した風の精霊たちが踊り、傷を癒していく。


「・・・流石に、回復は1人が限界です・・・」

「・・・なぁ、お前の名前は?」

「・・・アルト・クレッシェード・・・」


自分の名前を言ったところで、俺はそのまま意識を暗闇に落としてしまった。





――――目を覚ますと真っ白な天井が真っ先に見えた。



(・・・うぁ、俺、あのまま寝てたのか・・・)


自分の魔力の無さと体力の無さに幻滅する。

まだボォッとして釈然としない頭。

すると扉が開き、そこからクロウが入ってきた。


「・・・アルト。お前、一日中眠ってたんだぞ」

「あー・・・」


俺は意識を何とか起こす。

一日中ってことは・・・結構寝てたんだな・・・。

溜息を吐いたクロウは、パンッと手を叩く。



―――扉が開き、そこから1人の少年が入ってきた。



その少年は蒼い髪に蒼い目で、俺をジッと見た。

蒼い瞳は何処までも深海を思わせ、ずっと向こう側が見えない。

一体、彼の眼には俺は、どう見えているのだろうと、思ってしまう。

そして俺は、彼に対して口をあけたまま固まった。


「・・・は?」

「改めて紹介する。今回から《お前の》専属部下になった―――」

「グレイシア・バーンだ。・・・よろしく」

「・・・は?」


二回目の疑問符を口にして、俺は思考回路が真っ白になって行く中。

少年は俺に対し、笑顔を浮かべる事は無かったが。


「・・・助けてくれたお礼だ」

「・・・」


そういって、グレイシアはソッポを向いた。

俺は口をパクパクさせながら精一杯思考を動かす。

え?何?つまり俺がグレイシアの上司って事?え?


「判ってるじゃないか。お前がこれからコイツの面倒を見ろ」

「・・・ハァァァァァァッ!?」

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