「プロローグ」
「・・・」
エルドと呼ばれる大樹の側。
ソコに、1人の少年が座り込んでいた。
エルドはその少年を見る。
エルド、と呼ばれる樹は代々世界中から崇められる世界樹だ。
この世にたった一本しかない、世界を支える樹。
そして全ての精霊を司る象徴でもあり、別名、『精霊王エルド』と呼ばれている。
エルドは人間達を護る精霊だ。
人間を何年も見ている。
そして、その少年は左目が青いのに対し、右目の色は、血の様な真紅だった。
エルドは瞬時に理解する。少年は人間の国を追放されたのだと。
何故、理解したのかは記憶を詠んだりなんだりして判った事だが・・・。
一番の理由は、その赤い右目が関与していた。
きっと、その右目が原因で追放されたのだろう。
少年は、人間の年齢にして6歳程度だろう。きっと、自分が置かれている状況も判らないだろう。
少年は無表情のまま、エルドを見上げた。
悲しそうに表情を歪ませる。
エルドは人間の姿になる。
本体は勿論、樹だが。
エルドは少しだけ微笑んで、少年に言う。
「君の名は?」
「・・・アルト。アルト・クレッシェード」
「おいで。僕がキミを護ろう。アルト・クレッシェード君。僕の名は、エルド。よろしくね」
エルドは出来るだけ優しい微笑を少年に。
少年は無表情のまま、エルドを見上げる。
◆
「アルト。おはよう」
「・・・朝っぱらから人間になってんじゃねぇよ・・・。魔力とか、最近失ってきてんだろうが・・・」
半分寝ぼけながら、黒髪の少年は答えた。
森の奥深く。
エルドと呼ばれる大樹の直ぐ側。
木造で出来た小屋に、1人の少年が住んでいた。
少年の名は、アルト・クレッシェード。
エルドの森で暮らす者で、年齢は16だ。
アルトはベッドから起き上がって、あくびをしながら手洗い場までフラフラと歩いていく。
蛇口をひねると肌には調度いいと思う程度の冷水が流れ出た。
「・・・フワァ・・・」
大きくあくびをして、アルトは顔を洗うと台所まで歩いた。
「エルド。何か食べたい物とかあるか?」
「・・・僕は精霊なんだけどねぇ」
エルドと呼ばれた緑色の髪にエメラルド・グリーンの瞳をした青年は、苦笑しながら木製の椅子に座っていた。
青年はエルドと呼ばれた世界樹の人間の姿である。
「じゃあ、パンとコーヒーを貰おうかな」
「本当にそんなんで満足なのかよ・・・」
「僕は精霊だよ?本当は何も食べなくても生きていけれるんだ」
エルドのそんな言い分を無視したアルトは、彼の前に食パンとコーヒーカップを置く。
コーヒーカップからは湯気が出ていた。
エルドは手を合わせ、「いただきます」と言うと食パンを少しだけかじる。
アルトも向かい側に座ると自分の分のパンをかじった。
「そういえば。魔術の勉強は進んでる?」
「まーな。大体の事は習得できたつもりだけど」
「そっか」
コイツと喋っている時、唐突に会話が途切れる事がある。
アルトは溜息を吐いて、エルドの顔をうかがった。
本人は魔力を失いつつあり、大分身体も衰退と衰弱を始めていると言っていたが、とてもそんな風には思えないほど普段と変わらない表情をしている。
「剣の修行もしないといけねぇなぁ。最近、魔物が増えてきてるらしいし。・・・っつぅか、いつまで人間の姿になってんだよ。お前今、魔力の使いすぎって寿命を縮ませる行為にも等しいんだろ」
「・・・まぁね」
「・・・だったら早く本体に戻れよ」
「そうだね。・・・心配してくれてるの?」
「なわけねぇだろ」
フイッと顔を背けるとエルドはクスクスと笑った。
◆
「・・・最近、魔物が多くなってきているな」
「・・・魔王の出現、も、大きく関係しているんでしょうね」
フレイア王国、フレイア王宮内。
貴族の様な服装をした長身の男がもう1人の、一見どこかの戦士の様な姿の女性と廊下を歩きながら会話する。
「・・・全く、迷惑極まりないな。魔王なんつぅのは」
「全くです」
「そういやぁ、アイツはどうした?えーっと、なんつったか・・・」
「あぁ、あの《勇者》の血筋を受け継いだ・・・」
「そうだ。近々、エルドの樹を訪れるそうだ・・・。だが最近、エルド周辺は魔物が手ごわく多いらしいから誰も近づけないんだがな」
「・・・何をしにいくんでしょうね。あんな、魔物が居るだけの森に」
男は少し考えるそぶりをし、たった一つの仮説を見出す。
「もしかしたら、エルドの加護、かもしれんな」
「エルドの加護、ですか」
「あぁ。・・・まぁ、『精霊王エルド』の加護は、不可欠になってくるだろうしな」
「・・・噂をすれば」
女性は後ろを振り向き、背後に立っていた青い髪に青い眼の若い優男を見て微笑んだ。
「エルドの森に、何しに行く気なの?」
「・・・さっきそこの男が言ったとおりだ。・・・『精霊王エルド』との契約、及び加護を受けに行く」
そういうと男は女性の隣を通り過ぎていった。




