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トゥリトプシスガーデン  作者: セイガイハヨシヒコ


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5/5

開戦

「こちらイーグル1。目標地点に到達。現在待機中」

「イーグル2、同じく」

「イーグル3、同じく」

「指揮官殿、全体配置に着きました」

「よし。ネストから告ぐ。全体プランAで突入、目標を奪取せよ」





 茜はまだ私を放さない。私も茜を抱きしめ続ける。お互いに抱き合ってどのくらいの時間がたっただろうかと考えていたとき、バゴオォォンと、地の底から唸り上げるような低く大きい音と共に研究所が大きく揺れた。

「何!?地震…?」

 いや違う。これは地震の揺れ方とは異なっている。第一地震だったとして先ほどの音に説明がつかない。この研究所の敷地内にそう簡単に倒壊するような建物はない。建物が倒壊するほどの地震ならこの部屋だって大きく揺れているハズ。それに…

「…なんだか爆発、みたいな…」

 私をいっそう強く抱きしめる茜の腕は小刻みに震えている。腕はこわばっていて震えを必死に抑え込もうとしているが、抑えきれていない。震えを通して茜の恐怖が伝わってくる。

「っ…!大丈夫、私はここにいるから、放れないから」

「……うん」

 どうすればいい?何が起きてるのか全く分からない。茜を連れて逃げるべきか。いや、ここは研究所の中でも奥の方でセキュリティも他のエリアに比べて高い。下手に動かない方が__

 Pirrrr……

 携帯が鳴る。差出人は足立さん。私はすぐさま携帯を手に取った。

「はい!遠野__」

「みおちゃん今どこ?」

 そう尋ねる足立さんの声は焦りを孕んでいる。こんなに焦っている足立さんは初めてだ。

「茜の部屋です!茜も一緒にいます!」

「よかったぁ。そのままそこにいて絶対動かないこと、いいね?詳しくはことが片付いたら説明する。じゃ!」

 足立さんは足早に電話を切ってしまった。

「…新介(しんすけ)?」

「うん。ここにいろって」

「そっか」

「…あの、茜__」

「大丈夫、怖いけどみおがいるから」

 私たちは身を寄せ合いここで自体の収束を待つことにした。



「状況報告ー!」

「現在第一ブロックA~Cが攻略されました!第一隔壁は展開済み、第二隔壁も展開完了しました。敵の数は不明。確認された数から類推して30~40名ほどと思われます!」

 まずいな。部下からの報告を聞くに思ったよりも侵入してきた戦闘員が多い。

「新介、状況は?」

「梢(こずえ)さん。…ベリーバッドですよ。洒落になんないです」

「だろうな。隔壁封鎖は済んでるみたいだが、今のここの警備だと突破されるのは時間の問題だな。カメラに写ってた奴らを見るに親党崩れで間違いないだろう」

「まあ、こんな派手な真似するのは彼らくらいですよね」

「芽依(めい)が来る前に攻められるとツイてないな」

「瓦礫に埋もれて臨終は勘弁したいですね」

 ドゴオオォォン。

 また爆発音。何回目だろうか。地響きのような音にも慣れてしまってもはや何も感じないが、やはり焦りは隠せない。冷や汗ダラダラだ。

「第二隔壁が一つ突破されました!」

「げ。総員武装は済んでるね?場合によっては中央を放棄して極秘研究棟に立てこもるよ、全員準備ヨロシク!」



 研究所内は絶えず爆発音が轟いている。茜は少し落ち着いたのか震えが軽くなってきた。

「…みお、もう大丈夫。放していいよ」

「…うん」

 茜は腕を解き身体を放す。羽化したての蝶のような優雅さだ。

「ぁ……でも、手は握ってて」

 そう言って茜は私の手に自分の手をするりと重ねてくる。握られた手はしっとりと冷や汗をかいていて、茜がいかに動揺し、恐怖していたのかがわかる。

 しかし「待っていろ」と言われても不安でしかない。けどここが一番安全なのも事実だ。何かしたいが不用意に動けば逆に自体を悪化させてしまう。もどかしいがこの事態を打開する力が私にはない。

 バゴォン!!!

 一際激しい爆発音が耳を劈(つんざ)く。音の大きさからして爆心地はかなり近い。まずい。もしかしたらこのままここにいても…いや、弱気になってはいけない。私が不安の色を表に出せば、それは茜にダイレクトで伝わってしまう。けれど実際どうしたものだろうか。

「……」

 にわかにあたり一帯が静かになる。先程までの轟音が嘘のようだ。妙な静けさに胸騒ぎがする。心臓はざわめき、背筋には脊椎がまるごと百足になって蠢(うごめ)いているかのような嫌悪感が奔る。自然茜を握り返す手に力が入る。それに気づいたのか茜は子をあやす母親のような優しい手つきで私の手を握る。これではどちらが守っていて傍にいるのかわかったものではない。

「ありがとう、茜」

「ううん、このくらいは…ね。あなたがいるからわたしも耐えられるし、頑張れるの」

 茜の声は緊張しながらも穏やかだ。その様子に少し安堵し、私もまた平静を取り戻す。

 コツン。ふと、足音が聞こえてきた。誰もいない廊下に響く足音は幽かに、けれど力強く近づいてくる。コツンコツン…。足音は次第に数を増やしていく。数は増えているのにどの足音もまったくと言っていいほど均質的で生気を感じさせない。まるで幽霊でも歩いてきているみたいだ。

 私と茜は息を殺し、気配を消す。足音が何を欲してこの研究棟を徘徊しているのかはわからないが、見つかっていいことはないだろう。猟犬に追われる兎はこんな気持ちなんだろうか。

 ボンッ

 爆発の音。気づいたときにはドアが消え去っていた。そして驚くほどあっさりと私たちは見つかってしまった。足音の正体は軍人のような恰好をした屈強な人間だった。見るからに重そうな装備をいくつも携帯しているが火器の揺れ動く音はおろか衣擦れの音さえしなかった。聞こえたのは蚊の鳴く声よりも小さな足音だけ。この場所が静謐に満ちていなかったら、少しでも音が鳴っていれば絶対に気づくことは無かっただろう。

「目標確認。情報にない少女がひとり。……ええ、…了解」

「そこの子供、吸血鬼をおとなしく引き渡せ」

 やっぱり狙いは茜なのか。

「……嫌だと言ったら?」

「…何か勘違いしているようだから教えてやるがお前に拒否権はない。おとなしく引き渡さないというのなら射殺するまでだ。お前の命は我々にとって価値のあるものではない」

「それでもNOだね……!」

 死ぬかもしれないけど茜を見捨てて生きることなんて私にはできない。…ここで死んでしまうのは嫌だけど自分の決意を捨てて生きるよりずっといい。

「そうか。では死んでくれ」

 兵は銃を構える。照準を合わせ私に狙いを定める。引き金が引かれようとしたその時、碧い稲妻が私に目の前を駆け抜けた。





 一瞬だった。目にも止まらぬ速さで目の前の男が後ろに倒れ、地に伏した。そのさらに後ろに目を遣ると後方に控えていた同じ装備の男たちも倒れている。いつの間に倒したんだろう。

 目の前には黒いスーツを着込んだショートカットの女性が立っている。手は黒い手袋で覆われていてネクタイも黒い。黒づくめのこの女性が彼らを倒したのだろうか。とてもその細腕であの屈強な男たちを捻じ伏せたとは思えない。

「怪我、ないですか」

 黒ずくめの女性が話しかけてくる。

「えぁ…はい」

 呆気にとられて変な声が出る。何が何だかわからなくて頭が追い付かないがとりあえず敵…ではないんだろう。

 茜の様子が気になって後ろを振り向くと意外にも落ち着いた様子だ。安心より驚きが先に来てしまった。先ほどまでの焦燥はどこへ消えたのか。何はともあれ平然としているなら大丈夫だろう。

「私は阿来(あくる)芽依。来るのが少し遅れましたが梢さんと一緒こちらに異動になった戦闘員です。みおさんと茜さんで合ってますね?」

 そのまま流れるような動作で阿来さんは研究所の職員証を見せてきた。

「…はい」

「おそらく今頃はほかのポイントの制圧も住んでいるハズです。私が二人を守りますので付いてきてください」

 そう言いながら阿来さんはこちらに歩いてくる。

「あなた、何か変」

「茜?」

「歩き方…重心の感じ?がなんか普通の人と違う」

「…まさか武術や戦いとは無縁の人に気づかれるとは思わなかったな。けどそれは後で。今は先を急ぎます、こちらへ」

 私と茜はお互いに頷いて、阿来さんについていった。



「や、無事みたいでよかったよ」

 足立さんは疲れ切った顔で微笑みかける。やはり相当危ない状況だったらしい。

「いやあ~今回ばかりは死ぬかと思ったよお。芽依ちゃんありがとね」

「いえ、むしろ遅くなってすいません」

「や、十分だよ。まとにかく無事でよかったよ思ったよ侵攻が激しくてね、極秘研究棟まで人が行くとは思わなかった。…で、申し訳ないんだけど僕は責任者として後始末があるから積もる話は梢さんから聞いて、じゃあね~」

 足立さんはそのままカートゥーンアニメのように走り去ってしまった。

 少しして梢さんがやって来た。

「無事でよかったよ。芽依もお疲れ」

「いえ、それほどでも」

「さてと。とりあえず場所を移すか」

 梢さんの後について被害を受けていない研究棟の一室までやって来た。

「どこから話したものかな。まあ彼らの正体から話していこうか」

 そう言って梢さんはクッキーを取り出した。なぜ。

「堅苦しいのもなんだ。私も疲れたしおやつの時間にしよう」

 梢さんはガサガサと包装を剥がし中身を出し始める。大量のクッキーは梢さんの好みなのかすべてチョコチップが混ざっている。梢さんはクッキーを手に取りながら話し始めた。

「彼らはセレスティア親党を破門にされた連中、通称親党崩れだ。」

「親党崩れ?」

「アトラス教は知ってるだろう?セレスティア親党はあれの政治部門でな、まあここ数十年は政教分離のあおりを食らって昔ほどのつながりはないんだが。現在のセレスティア親党はアトナビアを中心としてその一帯に勢力を持つ政党だ。」

 アトラス教と言えばヨーロッパを中心として世界に広まっている一大宗教だ。その政治部門…政教一致の時代の名残だろうか。しかしそうなればかなりの力を持っているのではないだろうか。

「セレスティア親党は政教一致時代の名残でな、アトラス教会との今の関係性は複雑なんだが、まあ親党崩れは政治に触れる中で教義を曲解した過激派集団だ。だから18年ほど前にセレスティア新党及びアトラス教を破門された。奴らは自分たちのことを教義になぞらえて『セレスティア親党新鳥派』を自称している。が、親党崩れという通称の方が通ってるな。...早い話がテロリストだ」

「なんで茜を狙ってるんです?」

「それは奴らの教えに関係している。アトラス教には大司教リリーというアトラス教拡大の礎を築いた女性がいる。で、彼女は協会で神聖視される重要な存在で、それこそ神に等しいくらいの存在なんだが、その遺体は今も生前の姿のまま保存されているという話がある。マユツバだが、この遺体が来るときに目覚め世界を救済に導くという教えがある。……つまり大司教リリーの遺体はある種の不死性を孕んでいる」

「!」

「さすがに察しがいいな。親党崩れは不死の薬を手に入れることで神に近づこうとしている」

「……けどなんでこんな派手な方法を?あっち側にも大きな不都合が生じそうですけど」

「そこはそら、テロリストだから。むしろ自分たちの信仰心と正義を派手に示したいんだろうさ。私から言わせれば馬鹿者の愚行だけどね」

 なるほど。確かに合理だけで動く相手ではないかもしれない。……などと言っているうちにクッキーが一箱分無くなっていた。食べるの早すぎじゃないか。

「…そこで、だ。私がこっちに異動するのに合わせてそこの芽依を筆頭としてここの警備強化のために人員を補充したわけだ。……けど芽依、なんで間に合った?予定だとあと五日後の合流だったろ」

「ああそれは__」

「いやいい。わかった、加持の差し金だな」

「あはは…あたりです」

 梢さんは渋柿を食べたかのような顔をしている。その加持という人と何かあったんだろうか。

「あ、先程は助けてもらってありがとうございました」

「あぁ、いいよそんな。あのくらい大したことないし、それが私の仕事だから」

 あれが大したことないのか。芽依さんの様子を見るにどうも本当に大したことないと思っているらしく。未だにこの細身の綺麗な人が私たちを救ってくれたという実感が湧かない。けれど先刻の戦闘を見ても梢さんの紹介を聞いてもやはりすごい人なんだろう。

「改めて私は阿来芽依。二十歳です。気楽に芽依とでも呼んでください、これからよろしく」

「遠野みおです。よろしくお願いします」

「…よろしく」

 茜は芽依さんに警戒心を抱いているらしい。思えば口数が明らかに少ない。さっき芽依さんの動きを気にしていたようだし何か思うところがあるのだろうか。

「…そんなに構えなくてもいいよ……って言っても難しいかもしれないけど」

 芽依さんは困り顔で茜に話しかける。この人の方が年上のハズなんだけど私たちにまで敬語なあたり腰が低く謙虚な人のようだ。

「あなたの体」

「え、ああ。さっき気にしてたね。私サイボーグで、四肢が全部義肢なんだ。もう義肢にしてからしばらく経つから歩き方とかもだいぶ矯正されて普通の人と遜色ないくらいにはなってるんだけど…たまに茜さんみたいに気づく人がいるんだ。やっぱり細かいところまでは隠せないですね。……けど戦闘経験とか武術の経験が無い人に見抜かれたのは初めて。茜さんの情報はあらかじめ貰ってましたから」

なるほど、サイボーグか。義肢の技術が発展した現代だと珍しいわけではないがそれでも決して多いわけではない。サイボーグは義体化した人の中でも軍属や警察の人など荒事に対処する人に足して使われる単語で普通の暮らしをしていればまず目にすることはない。

「じゃあ、さっきの青…緑?みたいな光は……」

「あれは韋駄天_私の両足の機能ですね。電気と磁力を使って二つの力場を発生させて、足の裏の力場と接地面…空中でもいいんですが……えっと、足の裏の力場のすぐ下の空間に逆向きの力場を発生させて、その反発力を推進力に変えて高速移動ができるんです。…なんかすごい速いとだけ思ってもらえばいいかな」

「…なるほど」

「あれ、わかる?私はじめ五カ月くらい仕組みが分かんないまま使ってて、研究者の方以外に話すとだいたい不思議な顔されるから難しいと思ったんだけど……やっぱりその若さでこの研究所で働いてるだけあるね、すごいよ」

「詳しい仕組みはさすがに聞いてもすぐは分からないと思いますけど…」

「いいモノだろう。私と新介、樫月の合作だ。まあメインは樫月(かしづき)だがな」

「これ梢さんが作ったんですか!?」

「少しな」

 サイボーグの研究や技術は少しかじっただけだが素人目にもなかなか完成度の高い品であることは分かる。分野は違えど私も研究者の端くれだ。それに足立さんと梢さんが携わっているならまず間違いなくすごい一品に仕上がっているはずだ。

 しかし樫月さんという人は誰だろう。どこかで聞いたことがあるような気もするが思い出せない。

「ねえ、そろそろいい?」

 その後も茜をよそに機会の話で盛り上がる私たちを現実へと引き戻す言葉が聞こえた。そうだった。私たちは今回の襲撃の詳細について聞くためにここにいるんだった。……けど話を始めたのは茜なんだよなあ。

「悪かった。まあ親党崩れに関してはもう話すことは無い。何人か捕縛できたがあの手の連中は異常に口が堅いからこれから公安に移送して尋問しても何も話さないだろうしな。…ただこれからも似たことが起こる可能性は十二分にある。というか間違いなく起こる。……気をつけろと言ったってどうしようもない話ではあるが気を付けてくれ。」

 なんだかすごい話になって来た。現実味が無いのにどこか緊張を感じてまるで首を大量の風船で絞められて宙に浮いているようだ。

「そしてみおには悪いんだが…こうなってしまったからには学校や自宅への移動は禁止、しばらくここに住んでもらう」

「…………はぃ?」

 本当にすごいことになった。

デャホーデ!セイガイハです。今日「メイドインアビス目覚める神秘」を見てきたんですが大変に面白かったです。クラヴァリはカッコいいし、テパステはかわいいし呪詛船団もワクワクしてもう興奮がすごいです。まあそれは置いといてそろそろ拙作の話に移りますが新キャラ登場になります。今回名前しか出てきていない人も近いうちに出てくると思いますので是非続きを読んでいただければと思います。やはりサイボーグっていいですよね。サイボーグ009が私の中でのサイボーグの原点ですが、攻殻機動隊を見て擬態の設定に胸を躍らせたり人体を機械に置き換えるのはどんな形態であれやっぱりカッコいいです。そんなところであとがきも〆になります。また次回もよろしくお願いします。

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