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気がついたらアヒルになっていた!?〜ただモチモチなだけのアヒルが神鳥と呼ばれるまで〜  作者: @皐月
アヒル転生!

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わたし、アヒルになる

モチモチあひるの大冒険スタートです。

ふと、目を覚ました。

視界いっぱいに広がるのは、見知らぬ木々と青々とした草むら。


(ここは、どこだろう……?)


状況を把握しようと、ぼんやりとした頭で自分の記憶を探る。わたしが誰で、今まで何をしていたのか。しかし、頭には薄い靄がかかったようで何も思い出せない。なぜか『スマートフォン』や『コンビニ』といった、この大自然の景色には全く似合わない知識だけが、ぽつぽつと頭の隅に残っているだけだった。


「……とりあえず、歩いてみよう」


そう声に出したつもりだったが、口から出たのは「クワワッ」という間の抜けた音だった。

えっ、と戸惑いながら足を踏み出す。

視線が異常に低い。ほぼ地面すれすれだ。何かおかしいと、下を見下ろしてみれば平べったくオレンジ色の足。力を入れてみれば、ピッと上がる。どうやら私の足で間違いないらしい。

手は・・・と前に持ってこようとするが、広がる感覚があるだけで前には持ってこれなかった。


(まさか、わたし……人間じゃない?)


嫌な予感がして、近くから聞こえる水音の方へと急いだ。が、歩幅が小さく全く速く走れない。

ペタペタというかテチテチというか、そんな間抜けな音がなっている気がする。


そんな頼りない足でやっと川辺にたどり着き、恐る恐る澄んだ小川の水面を覗き込んでみた。

なんとそこに映っていたのは、雪のように真っ白な羽毛に覆われた、丸々とした一羽の鳥だった。


(アヒル……? いや、記憶にある普通のアヒルより小さいし、首が短くてまるい。そしてこの大福みたいなモチモチ感は……たぶんコールダックだ。)


ふわっと前世に動画や画像で見た記憶のある、もちもちとしたちいさいアヒルの姿が思い浮かぶ。

その姿と今の自分はそっくりだった。お尻を振ってみると、水面に映るアヒルのお尻もぷりぷり揺れる。


(やっぱりわたしで間違いないみたい。)


なぜ自分がコールダックになっているのか。人間だった頃のわたしはどうなったのか。

真剣に考えてみたものの、やはり何もわからない。おそらく死んで転生したのだろう。

転生はいいが、人間でももふもふの獣でもなく、モチモチのアヒル……。

なんかちょっと間抜けじゃない?


「クワァ……(まあ、考えても仕方ないか)」


ため息と共にクチバシから鳴き声が漏れる。それよりも、今は猛烈にお腹が空いていた。

ぐうぐうとお腹が鳴っている音がする。

とりあえず食べられそうものを探そうと、水際を歩いてみることにした。


テチテチ、テチテチ


やっぱりなんか間抜けな気がする……。


そもそもアヒルって何食べるんだろう?

草?……まさか……虫?

その辺に生えてる草って食べても大丈夫なんだろうか。

アヒルと言っても中身はヒトなわけで。毒とかあってもわかる気がしない。

そんなことを考えていると、ちょうど目の前でポトッと虫が水辺に落ちた。


……これを食べるの?え、無理じゃない?


人間のわたしはぞわぞわとするが、身体はアヒル。

本能でパクッと口に入れてしまっていた。


「……クワァ。(……意外と美味しい)」


アヒルの舌には合ったみたいだ。なんだかとっても嫌だが仕方ない。

背に腹は代えられない。

ただ、虫が食べれるとわかったけど、運よく溺れている虫が見つけられるとも限らない。

早めに食べらそうな草を判別する方法を探さないと。

仲間のアヒルとか、アヒルでなくてもうさぎとか鹿とか草食動物がいれば、その子が食べているものをみて判断できるのに。それらしい動物は見当たらない。


とりあえず、もう少し歩いてみよう。いや、泳いだ方が早いかな。

水、入ってみようかな。

そう思いながら、川へ飛び込もうとしたその時。


――ガサッ。


背後の茂みが揺れ、低い唸り声が聞こえた。


(……えっ、今なんか聞こえた?)


ぱっと振り返ると、飢えた目をした大きな野生のオオカミが、よだれを垂らしてこちらを睨んでいた。


(大ピンチでは!!)


オオカミは獲物であるわたしに気づかれたことを察したのか、飛びかかろうとグッと体制を低くした。


「クワクワクワァっ(ヤバいヤバい食べられちゃう!)」


とりあえず、飛び込むしかない!

チャッポンと目の前の川に飛び込み、じたばたと短い足で必死に水をかいた。


浅い川の為、オオカミも後を追ってくる。

水の中だからまだわたしの方が速いが、体力は断然向こうの方が上。

更に虫一匹食べただけではお腹も空いたまま。

だんだんと水をかく力が弱くなっていくのがわかる。


(このまま食べられちゃうのかな。……やだよう。誰か助けて……)


そしてとうとう背後に鋭い牙の気配が迫ったとき――。


ズドォォン!!


その時、鼓膜を揺らすような轟音が森に響き渡った。

狼がキャンッと短い悲鳴を上げて倒れ伏した。


(……え、何が起こったの?)


驚いて足を止めたわたしの視線の先には、血を流して水面に浮かぶオオカミの姿があった。


(よ、よくわからないけど、助かった……?)


そして、空腹も限界でそのままちゃぷちゃぷと川の流れに身をまかせようと思った時、わたしは重大な事実に気がついた。


(いや、待って。オオカミが撃たれたってことは、それを撃ったヒトがいるってことじゃん。そんで、今のわたし、鳥じゃん。まるまるモチモチの鳥じゃん!)


この世界にアヒルがいるのかはわからないが、アヒルと認識されていようがいまいが、見た目は白くてまるまるとしたおいしそうな獲物でしかない。

猟銃を持っているという事は、狩りの文化があるわけで。

まさに獲物そのものである。


(オオカミに食べられるより、銃で撃たれる方がまだマシかなぁ。)


そんな覚悟を決めて音をした方に目を向けると、猟銃から立ち上る硝煙を払いながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる大柄なお爺さんの姿があった。

狼を仕留めたお爺さんの鋭い眼光が、今度はわたしの方へ向けられている。その手にある銃口が、ゆっくりとこちらに持ち上がった。


(やっぱり、美味しそうな食料だと思われてる……っ!)


こうなっては仕方ない。最後の手段。


(命乞いだ!)


わたしは逃げるのを諦め、お爺さんがいる方向の岸にゆっくりとあがる。

そして、お爺さんの良心に全てを賭けて精一杯つぶらな瞳で見つめ返した。


「キュワ……(食べないで……)」


見て、このか弱い姿を。モチモチしてるけど、ほとんど羽だよ。

普通のアヒルよりも小さいし。もっといい獲物がきっといるよ。

そんな思いをこめて必死にお爺さんを見上げる。


「……。」


数秒の沈黙。

やがて、お爺さんは小さく息を吐き、ゆっくりと銃を下ろした。


「……お前さん、まだ子供か?仲間はどうした?」

低く、しかし穏やかな声だった。


「クワァ(わからないんです。でも多分大人だとは思います。)」

伝わらないとは思いつつ返事をする。


「この森は熊もいるし狼もいる。お前さんだけではきっとまた襲われてしまうだろう。」

「……クワワ(ですよね。)」

オオカミだけでなくクマもいるらしい。エサも取れないし、この森でやっていける気は自分でもしていない。なんとか連れて行ってくれないだろうか。期待を込めて再度お爺さんを見つめる。


(牙もないし爪もない、か弱くて無害なアヒルなんです。)


「……。」

「……。」

再びの沈黙が落ちる。

そして、お爺さんは根負けしたように一つため息をついた。


「…一緒に来るか?」

「グワッ!(行く!)」


わたしは全力で返事をし、テチテチとお爺さんの足元に駆け寄った。

お爺さんの大きくてゴツゴツした手が、わたしの頭をそっと撫でた後、慎重に身体をすくい上げた。


「……なんだこの鳥は。信じられんくらい柔らかいな……。」


お爺さんはわたしのモチモチ感に少しだけ目を見開いた後、大事なものを扱うようにそっとわたしを分厚い上着の懐に入れ、仕留めた狼を担いで歩き出した。


(よかった。これでご飯も食べられる。)


大ピンチから抜け出し安心したところで眠気が襲ってくる。


(お爺さんの懐あったかいなぁ。いい感じに揺れも伝わってくるし……)


お腹も空いているが眠気には勝てず、そのまま意識は落ちていった。


アヒルの中の人は子供ではないですが、アヒルの身体に引っ張られてだいぶ楽天的かつ幼くなってます。

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