第九十七話
「バートさん。ライビット商会の店舗部分の半分をパン屋さんにしませんか?」
「パン屋ですか?今でもパンは扱ってますが?」
バートさんは意味が解らないと言った感じで答える。
「小麦粉に種類がある様にパンにも沢山の種類があります。通常パン屋さんで扱ってるパンの種類ってどの位ですか?」
「パンと言えば食事の時に食べる丸パンと、サンドウィッチにする長パンの2種類位ですね。食堂などに卸している所は丸パンでもサイズが店によって違うって話は聞いた事がありますが、種類と言うなら2種類です。」
「なるほど。では、パンに種類がある事を世間に広めましょう。その為のアンテナショップとしてのパン屋をライビット商会で展開すると言う事で如何でしょう?」
「アンテナショップですか?」
「卸を行わない店舗ですね。目的は新しい種類のパンの宣伝です。これによってパン専用の小麦粉の必要性が広く伝わる事になります。」
「なるほど、小麦粉の宣伝の為にあえてパン屋を展開する訳ですね?」
この世界の主食はパンである。基本、朝と晩の2回は確実にパンを食べる。その為パンの消費量は高く、小麦粉もそれだけ消費されていると言う事だ。現代日本で言うなら小麦を扱う商会は米問屋に相当する。
そんな話をしているとユーカとイルミがやって来た。3時を回ったらしい。
「何?真面目な話?」
イルミが3人の様子を見てそう言った。特にチェスカさんが心配そうな顔をしてるのが気になったのだろう。
「バートさんの商会でパン屋をやろうかって話だよ。」
「パン屋?あれ?ライビット商会ってパン売ってるよね?」
イルミもこの調子だ、やはりパンの種類ってあまり無い様だ。
「じゃあ、今日のおやつはパンにしよう!」
テーブルに大きめのお皿を1枚出して、まずテーブルパンを1つだけ置く。
「これだけ?」
ユーカがおやつと聞いて目を光らせたのだが急に曇る。
「味見だよ。まずはこれを食べて下さい。」
言われた通りに4等分して皆で食べる。
「あ、そうだ、冷たい飲み物の目途がついたので出しとくね。」
そう言ってソフトドリンクのボトル缶を6本並べる。
「わぁ~出来たんだ。ユーリ君さすが!って冷たく無いよ?」
イルミがコーラの缶を持ち上げてすぐに気が付いた様だ。
「本当だ冷たく無いですね。」
ユーカも他の缶に触ってみる。
「それは開けて注ぐと冷たくなるんだよ。その状態だと時間が停止してるからね。」
ユーリは4人の前にグラスを出す。
「缶から直接飲んでも冷たいんだけど、グラスに注いだ時に一番良い温度になる様に調節してあります。」
4人がボトルの蓋を開けてグラスに中身を注ぐ。
「本当だ。冷たい。」
「一応昨日言った値段で卸せるように作成しました。アルコール類もちゃんと用意しています。ライビット商会、ベンマック商会、雑貨屋イルミの3店舗で販売します。ただし、雑貨屋イルミではアルコールは販売しません。卸値は売り上げの20%にしましょう。」
「解りました。」
「異存は無いわ。」
「ではパンの試食の続きです。」
そう言って次はバゲットをスライスして皿に出す。
「これは歯ごたえがありますね。」
「でも、甘みが少ないから食事に合うかもね。」
続いて、クロワッサンや食パン、デニッシュ、コッペパン等を出して行く。
「こんなに色々なパンがあるんですね。」
「次からは甘いパン行くよ。」
まずはメロンパンからだ。
「これは、パンと言うよりお菓子ですね。」
「うん。菓子パンと言うジャンルだね。」
あんパンやジャムパン、クリームパン等を出して行く。
「軽食として受けるんじゃないかな?」
イルミがそんな発言をする。
「次はしょっぱいパンだね。」
そう言って、カレーパン、ピザパン、コロッケパン等の総菜パンを出して行く。
「これは甘い飲み物に合うかも。」
チェスカさんがようやく笑顔を見せた。
更にサンドウィッチ各種、パニーニや、チーズフォカッチャ等を出して行く。
「う~、もうお腹いっぱいだよ。」
ユーカがダウンした。
「しかし、本当に色々なパンがあるんですね。」
「中身を変えればまだまだ種類は沢山あるよ。これだけの種類があればパン屋を店舗にする意味があるって判るよね?」
「良く解りました。ライビット商会の半分って言うのも納得です。」
バートさんが出されたパンをまじまじと見ながら言った。
「では、明日でも改装しましょう。ドリンク売り場もついでに作っちゃいましょうか?」
「そう言えば、アルコールをまだ見せて貰ってませんが?」
その言葉に、ユーリはアルコール類7種類をバートさんの前に並べて見せる。基本ソフトドリンクと変わりはない。容量は400CCに統一した。統一規格の方が作るのが楽だからだ。
「バートさんはアルコール強い方なんですか?」
「いや、それほど強くはありませんね。ただ、商会で働いていると結構呑む機会があるので、それなりには呑めます。」
「じゃあ、冷たいエールを試してみて下さい。」
そう言ってグラスを出し、ビールを開けて注いで行く。
「本当に冷たいですね。冷たいエールって初めて飲みます。エールは温い物だとずっと思って居ました。」
そう言って一口呑むと、続けて一気に飲み乾した。
「冷たいエールがこんなに美味い物だなんて。」
バートさんがビールに感動している。
「そう言えば、ユーカとイルミの魔力量と知力なら、氷魔法は1週間もあれば習得できるよ。」
「「え?」」
「じゃあ、今まで温い飲み物で我慢してたのって?」
ユーカが唖然とした顔で聞いて来る。
「ん~、もっと早く相談してくれれば教える機会あったんだけどね。」
「いや、そのおかげで新製品が完成したんだから良い事なんじゃない?」
チェスカさんがフォローしてくれる。
「だいたい、ユーリ君が忙し過ぎるのが悪いんだよ。」
「いや、僕が一緒に居たら冷たい物出してって言って。氷魔法覚える気なんてならないでしょ?」
「ん~、そうれもそうか・・・」
ユーカとイルミが納得できない顔でいる。
「まあ、新製品も出来た事だし。頑張って売って行こう!来月には小説も出るし。『聞く物語』の第3弾も出るしね。忙しくなるよ。」
「来月と言えば、ユーリ君の誕生日もあるね。」
「それを言うならイルミもだろう?」
「あら?2人共14歳になるの?」
チェスカさんが話に入って来た。
「チェスカさんは成人したばかり、バートさんは16歳ですよね?思えば若い商会ですよね。」
「確かにそうね。」
「体が良くなった事はご両親に話されたんですか?」
「いや、あれは話せないでしょう?でも、毎日ここへ来てるし、新しい生地の提案をしたりしてるから、調子が良いのは気付いていると思うよ。」
「嫁に行けとか言われませんかね?」
「ん~、すぐには言わないだろうけど、その内言って来るかもね。」
チェスカさんの言葉に、何故か焦りの顔を見せるバートさん。ユーリたち3人はその様子をニヤニヤした顔で見ている。
「バートさんも商会の会頭になったのですから、縁談の1つ位来てませんか?」
「いや、うちは兄がまだ結婚してないからね。」
バートさんが目に見えて動揺している。イルミとユーカは必死に笑いをこらえている。
「お兄さんはお幾つですか?良ければ縁談をお持ちしましょうか?」
「あ、兄は今年18になったばかりです。なんでも、父の知り合いの娘さんから縁談が来てるそうなので近い内に見合いをするんじゃないでしょうか。」
「ほう?となると結婚も近いかもしれませんね。そしたら次はバートさんの番ですね。」
「え?あ、僕はまだ16になったばかりなので、結婚はまだ早いんじゃないかと・・・」
堪え切れずにイルミとユーカが噴出した。何故かチェスカさんも笑っている。
「何故、皆笑ってるの?」
バートさんの言葉が更に笑いを誘う。




