第七十九話
その頃、アースフィアの砦では祝勝会が大々的に行われていた。懸念していた食料もルーイン男爵が何とか3万人分は確保した様だ。ユーリが置いて行った2万人分と合わせれば4万人の兵士たちが食べるのに十分だろう。お酒は戦争中は飲んでいないので十分ある。
エールで乾杯した後は無礼講だ。上司部下関係なく騒いでる。貴族達は1か所に集まりゆったりとした時間を過ごしている。
ルーイン男爵がユーリから貰った冷たいビールを総指揮官のヘルムウッド辺境伯に差し出す。受け取った辺境伯はその冷たさに驚く。
「冷えたエールとは」
「子爵が置いて行った物です。飲むともっと驚きますよ。」
ヘルムウッド辺境伯がビールを飲む。
「これはこれは、冷えたエールがこんなに美味いとは。もう温いエールは飲めんな。」
「王都では皆こんな美味しい物を飲んだり食べたりしてるんですかね。食事も食べると驚きますよ。」
そう言ってルーイン男爵は辺境伯の前に唐揚げとフライドポテトの皿を置いた。
「美味いなぁ。これなんか只のジャガイモだろ?特別な調味料も使っていないのに何故美味い?」
「ですよね。私も驚きました。さすが王都は進んでると言った所ですかね。」
そこへ向かいの席に座っていた貴族が口を挟んだ。
「いや、私もここへ来る前に王都に寄ってから来たが、こんな料理は出なかったぞ。」
「すると子爵が特別なのか?そう言えばあの子爵どう思う?」
ヘルムウッド辺境伯がルーイン男爵に尋ねる。
「結局、子爵一人で戦争を回避しちゃいましたね。相当な実力の魔法使いなんですかね?3キロの距離で落雷を落とす魔法使いなんて聞いた事無いですから。」
「あの子爵ならたぶん帝国軍を瞬殺出来たんじゃないかな?それをあえて回避に努めた。」
「そう言えば、災害級の魔物は瞬殺してましたね。」
「しかも余裕でな。もし子爵が本気になったら帝国どころか世界征服だって可能かもしれんぞ。」
「それはいくら何でも・・・」
「そう考える貴族がいてもおかしく無いと言う話だ。幸い子爵は賢いからそう言った誘いには乗らないだろうが。敵に回ったら王都など一瞬で落ちるぞ。」
「強すぎる戦力だと?」
「ああ、折角知己を得たのだ。誼を結んでおくに越した事は無い。間違っても敵に回すなよ。それに美味い物も食いたいしな。」
「ですね。あ、美味い物と言えば、子爵の置いて行ったお酒なんですが、美味いですよ。」
そう言ってマジックバッグからウイスキーを1杯取り出す。
「氷の入った酒か?ふむ、これは酒精が強いが美味いな。未成年で酒が飲めないと言っておったが良い酒を知っているとは。ますます友誼を結ばないとな。」
お酒の量は足りているが、ユーリの置いて行ったビールとウイスキーは大人気で次々と男爵の元へ貰いに来る。
「そう言えば子爵は2万杯では無く、2万人分と言って居たが。どれ位の量を置いて行ったんだ?」
「酒も食事も私の基準なら3万人分は入ってますね。宴会が盛り上がった時の事を考えれば2万人分と言うのも納得できる数かと。」
「それだけの食事と酒が入るマジックバッグは最早国宝級なのでは?」
「言われてみればそうですね。後で子爵に返さないと。」
「それは止めて置け。返せとは言わなかったと言う事は、子爵にとっては取るに足らない事なのだろう。」
「そうですね。デザインも特別凝った物では無いし紋章も入っていませんから。ありがたく使わせてもらいます。」
「世の中は広いって事かな。あんな規格外な子供に会ったのは初めてだよ。」
一方、王都ではユーリが山積みの課題の上で唸っていた。王都に居ない間に使用人が増えてて吃驚してると、グラストフの領主館の執事も決まっていた。更にグラストフでは代官のセッテンが町作りを始めており。鉱山跡から新たな鉱脈が出た事も旅商人を通じて王国中に広めていた。皆、優秀なのは良いがユーリは何処から手を付ければ良いか迷ってしまう。
とりあえず落ち着く為にアトマス商会や大地の恵亭等を回り帰って来た事を伝える。ついでに変わった事が無かったか聞いて行く。その後新しい使用人に挨拶をし執事のフロッシュに料理人を後2名増やすように伝える。それからグラストフへ転移し新しい執事に使用人を集める様に命じる。更に料理人は5名雇う様にと付け加える。その後セッテンの所へ行き。今後の打ち合わせをして、鉱山の件を褒めて置く。すぐに王都へ引き返し父上に戦争終結の報告をした。
父上はあまりにも早い戦争終結に驚いていた。
「自重はしたのだろうな?」
「自重ですか?」
「そうだ、貴族の連合軍だ、お前の力を知れば取り込もうとする輩が居るかもしれない。」
「ん~多分大丈夫でしょう。大した魔法は使いませんでしたから。」
「本当か?ちゃんと話してみろ。」
それから、一部始終を2時間程掛けてじっくり話した。父上は時々頭を抱えていたが、何かやらかしたかな?
「もう、何から突っ込んでよいか解らん。やり過ぎだ。この話が出回ればお前を取り込もうとする、あるいは排除しようとする輩が続出するだろうな。」
「え?そんなにやらかしましたか?」
「やらかしたじゃ済まんレベルだ。いっその事国王陛下に囲って貰え。」
「え~、国に縛られるのが嫌で色々苦労して隠してるのに?」
「隠れておらん。お前の常識は世間の常識とずれている事をまず知れ!」
どうやら盛大にやらかしたらしい。しかし自覚の無いユーリには頭の中に?マークが幾つも並んでいる。
常識を知れって言われてもなぁ。一応この世界の常識は『賢者の叡智』でマスターしたはずなんだけど?だいたい元の世界には魔法なんてなかったし、魔法がある時点で常識を覆されてる訳で、それに神様にも好きに生きれば良いって言われてるしね。つーか、僕の存在自体がチートの塊のようなもんだしね。これでも自分ではかなり自重してるつもりなんだけどね。いっその事自重するの辞めちゃうか?
ヤバい、思考がだんだん暴走して行く。一旦家に帰って寝よう。




