第七十二話
代官邸を辞したユーリは鉱山跡を見学した。場所はセッテンに教えて貰った。鉱山跡を魔法でサーチしてみたが既に鉄は尽きている様だ。僅かに残っている部分も無い訳では無いが、産業になるほどの量は取れないだろう。
資源と言えば王都には資源が無い。しかし王家の直轄地には鉱山が幾つかある。そこから金や鉄を採取して王都まで運んでいる。王国の領土は4割が人が住める平地で残りの6割が山林だ。山林には魔物が出るので住むのは難しい。しかもその6割の半分が大樹海なのだ。大樹海には通常より凶暴な魔物が出る。冒険者も大樹海にはあまり近づかない。
考えようによっては大樹海を我が物にすればこの国の3割の資源を手に入れられると言う訳だ。
大樹海を安全にサーチする方法があればな。って、空か?この世界に空を飛ぶ乗り物は無い。実質空は無法地帯だ。確か魔術書に空を飛ぶ魔法があったはず。久しぶりに『賢者の叡智』を使い魔法を創造する。飛行魔術『フライ』だ。取得するのに50万程魔力量を消費した。
実際に浮いてみる。魔法で自分をドローンの様に動かす感覚だ。慣れればもっとスムーズに飛べるだろう。転移よりも魔力の消費量は多くない。もう1つ『マルチタスク』と言う魔法を造る。これは同時に複数の魔法を操る魔法だ。これが無いと飛びながら魔法が使えない。これで大樹海を飛びながらサーチが可能になる。
暫く樹海の入り口付近で練習してから大樹海へ向かう。大樹海を海に見立ててソナーの様にサーチを展開すると、様々な物がサーチに引っ掛かる。目標を絞り込んで資源に限定してみる。すると細かな点の様な引っ掛かりがあったので真上まで飛んで思い切って引き抜いてみた。巨大なルビーと思われる原石だった。なるほど、この大きさでこの反応か、もう少し大きな反応に絞ってみよう。更に絞り込みを掛けると北東に1つ反応があった。真上まで行ってみるとかなり大きな鉱山っぽい。さて、何の鉱山かな?10センチ四方にターゲットを狭め反応の中心辺りを転移の要領で手元へ取り寄せてみる。茶色い石?鑑定してみると鉄鉱石だった。
「お!最初から当たりじゃん!」
詳しくサーチを掛けると10キロ四方位の埋蔵量がある。これなら十分だろう。鉄鉱石のある場所を地図にマーキングして置く。一旦転移でグラストフに戻り、鉱山跡に戻る。鉱山跡の内部500メートルの位置から10キロ四方を切り取り大樹海の適当なところへ転移させる。そして、先程マーキングした地点へ転移し。鉄鉱石が多く含まれる10キロ四方を切り取り鉱山跡の切り取った穴に転移させる。これで完成だ。グラストフは再び鉄の街になるだろう。
まだ、魔力に余裕があるので町の拡張もやってしまおう。まず東に行き人の流れを見る。昼過ぎなのでそれ程人通りは多くない。まず東へ10キロ南北に10キロの魔法障壁とプロテクトを張る。そしてその内部の道路部分を高さ10メートルの障壁とプロテクトで隔離する。この辺りはほぼ平野なので邪魔な樹木だけ、大樹海に転移させる。残った土地はガイアコントロールで更地にして行く。およそ5分程度の出来事だったが、王都へつながる道を歩いていた者や馬車に乗っていた者は異変に驚いていた。同じ事を西でもやる。これでグラストフの町は2回り位大きくなっただろう。
疲れたので一旦王都の自宅へ転移で戻る。
何故か解らないが、イルミが居た。
「あれ?なんでイルミがうちに来てるの?」
「ユーリ君良かった。学院から直行したんだけど、留守だって言うからどうしようかと思ってたの。」
「何かあったの?」
「ユーカがね、病気らしいの。詳しくは解らないけど、教会でハイヒールを掛けても治らなかったらしいよ。」
この世界では病気になったらまず教会へ行く。薬屋はあるが医者は居ない。薬屋の薬師が医者の役目もはたしているらしい。
「ヒールは体力を回復させるだけだからねぇ。詳しくは行ってみないと解らないな。フロッシュさん馬車を用意して!」
「畏まりました。」
フロッシュさんが馬車を用意している間に着替えて来る。イルミに冷たい紅茶を飲ませ落ち着かせてから。2人で馬車に乗り込んだ。御者にリッツヘルム商会へ行くように伝える。伯爵家より近いので20分は掛からないだろう。
リッツヘルム商会に着くと、何があるか解らないので馬車を待機させて商会へと入る。
イルミがまず対応に当たる。
「ユーカさんのクラスメイトです。少しで良いので会えませんか?」
そう言うと、ユーカのお母さんが奥から顔を出した。
「わざわざ済みません。ユーカなんですが、伝染る病気かもしれないので会うのはちょっと。」
「では、症状を教えて頂けませんか?もしかしたら治せるかもしれません。」
イルミに代わってユーリが応える。
「症状ですか?」
ユーカの母親は藁にも縋る思いなのだろう。子供の2人に丁寧に話してくれる。
「最初は高熱が出て、その後、体のあちこちに水泡が出て来て。すぐに教会で見て貰ったのですが、ヒールでは無理だと言われハイヒールを掛けて貰いました。一時的に元気にはなったのですが、また夜には高熱が出て、水泡は増える一方で。今はぐったりとしています。ユーカは死んでしまうのでしょうか?」
「大丈夫です。それは『水疱瘡』と言う病気で子供が良くかかる病気の1つです。国立図書館の書籍にもちゃんと乗ってますよ。余程幼い子供か老人で体力の無い方で無い限り死ぬ事はありません。ただ熱が高いと体力を消耗しますので。ぐったりするのはそのせいでしょうね。」
「良かった。じゃあユーカは助かるんですね?」
「そうですね、このままでも良いのですが、やはり会わせて頂けませんか?家族の方まで倒れては大変ですし。」
ユーカの母親は2人を奥の部屋に案内してくれた。前に会議をした応接室だ。
暫く待つと父親に抱えられたユーカがやって来た、お母さんも一緒だ。
「イルミ、ユーリ君、来てくれたの?」
細い声でユーカが笑顔を見せる。
「熱で苦しいんだろ?無理するな。」
そう言うとユーリは右手をユーカに向ける。
「パーフェクトヒール」
そう、唱えた瞬間、ユーカの両親は驚き、ユーカは安心した顔になった。
「どうだ?」
「治ったみたい。体のぶつぶつも綺麗に消えてる。」
「パーフェクトヒールって君は一体・・・」
ユーカの父親が訪ねて来る。
「これは失礼しました。ユーカさんのクラスメイトでユーリと言います。」
「君がユーリ君いや、ユーリ様と言うべきか?ユーカから話は聞いています。」
「ユーリ君で良いですよ。その話は日を改めてゆっくりしましょう。僕らは今日はこれで帰ります。」
「娘を治して頂ありがとうございます。」
「あ、そうだ、体力がだいぶ落ちてると思いますので、これでも食べてゆっくりさせてやって下さい。」
そう言ってクリームシチューが入った鍋とふわふわのパンの入った袋をテーブルの上に置く。もちろん家族3人分だ。
「じゃ、また学院でね!」
イルミと2人で手を振って店を出て行く。




