第六十一話
まずは『竜の聖地』を目指す。目に見える範囲で転移を繰り返し、1日に30キロくらいは稼いだかな?だがここから先は山や森が多いので身体強化魔法で山林を駆け抜ける。夕方には転移で家に帰り、また翌朝続きの行程を駆ける。この方法で180キロの距離を5日で辿り着いた。
辿り着いたは良いが、『竜の聖地』に近寄れない。常に数匹のドラゴンが飛んでいて近づこうものなら攻撃される。
(ふむ、どうしたものか・・・)
視覚を誤魔化す魔法はドラゴンの超感覚を欺けないだろう。あとは、地下を進むか?
とりあえず地下に洞窟を掘りながら強い魔力の感じる方向へと向かって行く。この方法だとドラゴンの姿が見えないので魔力の強さだけが頼りになる。一番魔力の強いドラゴンの真下まで行き、辿り着いたら一気に飛び出し、そのドラゴンと共に転移で王都の近くまで飛ぶ。我ながらおおざっぱな作戦だとは思うが、他に方法が無い。無関係なドラゴンを倒して回ったらドラゴンと人間の戦争になってしまうだろう。
地下50メートル位の場所を掘り進んで行くと明らかに他のドラゴンとは桁の違う魔力を持ったドラゴンが居る。多分、これがイルミの言っていたブラックドラゴンであろう。
他のドラゴンは魔力量50万前後、しかし、1匹だけは200万近くある。他のドラゴンに気付かれる心配は無いが、最後の一匹だけは要注意だ。気付かれない様に慎重に進んで行く。
1時間程かけて慎重に進んだユーリは例のドラゴンの真下に辿り着く。ここからは時間が勝負だ。一瞬でドラゴンの真下に飛び出し、目的のドラゴンに触れて転移の魔法を使用する。転移の魔法は触れていないと連れて行く事が出来ないのだ。
ドラゴンは動く気配が無い。ユーリは50メートルの距離を一気に詰めるべく魔力を高める。これで気付かれたら失敗だ。魔力が体の外へ流れないように魔力操作をする。
ユーリは地面を蹴り、真上に飛ぶ、土砂が降りかかるが気にしない。一気に50メートル上がると魔力の塊にぶつかりそうになる。ほんの僅かに右手にずれる。この時点でドラゴンもユーリの存在に気付く。時間との勝負だ。巨大な黒いドラゴンの体の横をすり抜ける様に飛び出すユーリ。姿を確認すると同時に相手に何もさせずに近づき体に触れる。触れた瞬間ドラゴンとユーリは消えた。
転移は成功だ。だが問題はここから。王都まで1キロと言った場所に出た。ドラゴンはまだ戸惑っているが、ユーリが王都の方向へ短く転移すると。ドラゴンの瞳に怒気が現れる。
それにしてもドラゴン大きすぎないか?ユーリは予想していた以上の巨大さに戸惑っていた。ブラックドラゴンは全長50メートル程度と聞いていたのだが、このドラゴンは70メートルはあるだろう。
この距離ならば王都の外壁の物見塔からもドラゴンが確認出来るはずだ。ユーリは、暫くここにドラゴンを足止めする予定だ。早く気付いて王都が騒ぎになってくれれば作戦成功だ。
5分程睨み合いを続けるが、一向に動きが無い。こうなったら転移で誘導して王都の上空をドラゴンに飛んでもらうか?
そんな事を考えていると。王都で何やら動きがあった。だがユーリには何が起きているのか解らない。国王の元まで知らせが行くのにどの位の時間が掛かるのだろうか?
この距離でもドラゴンがブレスを吐いたら王都に被害が出る。
(どうする?賭けに出るか?)
貴族になるのが目的だ、ここは派手にドラゴン退治を演じて見せよう。ユーリは転移で更に王都の近くに飛ぶ。外壁から50メートルも離れてない位置だ。ドラゴンが追うように飛んでくる。
どうやら王都はパニックになっている様だ。騎士団も魔法師団も姿が見えない。ドラゴンがブレスを吐く予備動作をしたのでユーリは城壁の上へ転移し、更に30メートル間隔で空を飛ぶように転移しドラゴンを誘導する。ドラゴンはブレスをキャンセルして追いかけて来る。ここまでは予定通り。
ユーリは王城の位置を確認し、王城から500メートル位の位置に転移する。地上150メートル位の位置にプロテクトの魔法で足場を作りそこでドラゴンを待つ。
ドラゴンはゆっくりと飛行し、あと300メートルと言った所でブレスの予備動作に入る。ブレスは魔法では無くスキルだと聞いた事がある。つまり属性が無い。属性が無いと言う事は物理攻撃と同じと言う事だ。
ユーリは物理障壁の魔法を張りブレスに対抗する。一応魔法障壁も内側に張って置く。直径10メートル位の球状のブレスが彗星の様に尾を引いて飛んでくる。ユーリは障壁を45度に傾けてブレスを真上に弾こうと試みる。
しかし、思ったより衝撃が大きく45度以上に障壁が傾いてしまい、10キロほど北にある山の方で爆発が起こった。
(やばっ、遊んでる場合じゃないな。)
ユーリは勝負を決めるべく、プロテクトの魔法でドラゴンを覆いつくす。最初は直径200メートル。更に内側に直径150メートルのプロテクトの魔法を重ね掛けする。これを繰り返し、ドラゴンが身動きできなくなったところで、『永久凍土』の魔法を掛ける。暴れる事7分でドラゴンは沈黙した。死んでいる事を確認するためにアイテムボックスに収納した。アイテムボックスは生きている生物は収納出来ないからだ。
ゆっくりと足場のプロテクトを下げて行き地上に辿り着く。近くにいた市民を避難誘導している騎士団らしき人物に声を掛け、ドラゴンを退治したことを告げる。
「ドラゴンを退治した?君が?馬鹿な事を言ってる場合じゃ無い。早く避難したまえ。」
「そのドラゴンは何処に居るんですか?」
「え?いや、そう言えば、何処かへ行ってしまったのか?」
「だから倒したって言ってるじゃないですか。証拠もありますので誰か偉い人に取り次いで下さい。」
「君は何者なんだ?まだ子供の様だが。」
「カザフ・オーバルバイン伯爵の息子ユーライナ・オーバルバインです。」
「オーバルバイン伯爵の、これは失礼いたしました。」
伯爵の爵位が効いたのか、どうやら騎士団長に取り次いで貰える様だ。




