第五十三話
「え?『魔法学院販売部』じゃ駄目なの?」
イルミが何を当然な事を?と言った感じで答えて来た。
「いや、それじゃあ何の店か解らないんじゃないか?」
「じゃあ、ユーリはこの間行った下着屋さんの店の名前覚えてる?」
「ん?いや、覚えてないな。」
「店の名前なんてそんなもんだよ。大抵の店が主人の名前を店名にしてるけど、そんなのいちいち覚えてる人誰も居ないって、商会ならともかく商店は売ってる物で、肉屋とか洋服屋とか呼ばれる事が多いわ。だいたい庶民は看板の文字が読める人もそう多くないしね。」
なるほど識字率の問題が関わって来るのか。確かに自分の名前程度なら書けるって言う人が殆どらしいからな。でも少なくとも字が読める人間は居る。そういう人たちから見て『魔法学院販売部』はどうなんだろう?
「皆の意見は?」
「僕も店の名前に関してはあまりこだわる必要は無いと思うよ。うちの店は何屋になるのかな?」
「なんだろう?売ってる商品から行くと『雑貨屋』かな?」
「ならば『雑貨屋ユーリ』とかで良いんじゃない?」
「ん~、僕の名前は出したくないな。じゃあオーナーの名前を付けて『雑貨屋イルミ』にするかな?」
「私はそれでも良いわよ。」
と言う事で適当に決まってしまった。『雑貨屋イルミ』まあ、語呂は悪く無いかな。
「じゃあ早速店舗に行ってみるかい?」
6人でぞろぞろと連れ立って歩いて行く。店舗までは15分と言った所だろう。商店街の方向へ向かって歩いて行くと、10分程度で店がぽつぽつと点在し15分歩くと、一般の家より商店の方が多くなる。この一角に『雑貨屋イルミ』がある。ちなみに両隣は普通の家である。
「ほら、見えて来たアレだよ。」
ユーリが指をさすと皆の目の色が変わる。どんな店か見定めようと言う目だ。
「へぇ。意外に綺麗な外観ね。悪く無いじゃない。」
「そうですね。清潔感があって好感が持てます。」
「今、鍵を開けるからちょっと待ってね。」
そう言ってユーリが引き戸のカギを開け、皆を中に引き入れる。
「お、中も綺麗だな、こんな良い物件が残ってたのかい?」
「まあ、魔法で多少いじってるけどね。」
「なるほど、そう言う事ね。」
5人はそれぞれ興味がある場所を見て回る。狭い店なのでさほどの時間は掛からない。
「店は基本店員を雇って任せるので、皆は客の視点で見て欲しい。何か気になる点はあるかな?」
「下着もここで売るんでしょ?男性客が居たら買いづらく無いかな?」
「一応入って左側に男性用の商品と本を置く予定で、中央のカウンターが鏡や口紅などの小物、そして向かって右側にカーテンで仕切りを作って女性用品の売り場を作る予定なんだけど、どうかな?」
「なるほどね、一応は考えているみたいね。悪くは無いけど、下着は下着だけにした方が良いかも。男性でも女性用のシャンプーや石鹸なんかを買って行く人も居ると思うし。」
「言われてみればそうだね。解った、そんな感じで店を作ってみるよ。」
一通り用件は済んだので、イルミに商業ギルドに登録しておくように言って解散にする。続きは明日の早朝会議でする事になるだろう。皆が帰った後、鍵を閉めたユーリは『雑貨屋イルミ』と言う看板を掲げた。
翌日登校すると既に部室には何人かのメンバーが居た。実際に店舗を目にしてやる気が溢れているらしい。
「雑貨屋も気になるだろうけど、そっちは人に任せるんだから、自分たちは学院での販売頑張ってね。」
「解ってるんだけど気になってね。」
珍しくルーカスのテンションが高い。話をしているうちにメンバーが揃った。
「さて、今日も販売頑張って下さい。商品の補充は大丈夫かな?足りない物があったら言ってね。」
「足りない物じゃないけど、ポーチと手鏡の種類を増やせないかな?皆が同じ物って言うのはちょっとって言う声が多くて。出来ればあと3種類位欲しいかなと。」
「デザインを変えるだけなら簡単だよ。じゃあ昼までに作って置くね。」
「助かるわ。店で売るとなるとデザイン1種類じゃ少ないでしょ?」
「確かにね。それから販売する時に欲しい新製品の情報も収集してね。」
一同頷くと部室を出て販売に向かう。ユーリは部室に残りポーチと手鏡をデザインする。
お昼になると部室に皆が集まる。今日のメニューは手軽に食べられる物と言う事でハンバーガーとポテトにする。
「ポーチと手鏡作って置いたよ。手鏡が3種類かける300個ずつで900個、ポーチは値段が高いから3種類100個ずつにしておいたよ。」
「ありがとう!既に予約取ってあるから、これ食べたら渡しに行くね。」
「下着の在庫は大丈夫?」
「はい、今日一杯は大丈夫だと思います。」
ユーカがマジックバッグの中身を確認しながら答える。
「男性陣はどう?」
「順調に売れてるよ。在庫も問題無い。」
こちらはルーカスが答える。
「キルケとアルトはどう?だいぶ慣れたかな?」
「そうですね。だいぶ慣れてきましたが、1年生がちょっと気になります。」
「気になるって?」
「はい、上級生や同級生は問題無いのですが、1年生は私たちに声を掛けずらい子も居るようです。こちらから声を掛けても恥ずかしがって逃げてしまう生徒も居ます。多分、彼女たちも商品は気になっているはずなんですが、上級生の私たちに遠慮があるようです。」
「そんな事があったのかぁ。確かに学年が上がるごとに新入生から見たら声を掛けづらい存在になって行くんだろうね。1年生の部員も考えてみるよ。」
キルケの発言に配慮が足りなかったかなと少し落ち込むユーリであった。




