第五十一話
翌朝の会議でも外部での販売の話が出た。皆、商会の子女である。自分たちの商品が外で通用するのか興味があるらしい。
特に下着に関しては外部での評判も高く、女性陣は売れる確信を持っている様だ。
一方、この世界での識字率は高くない。小説がどの位受け入れられるのかは未知数だ。識字率100%の学院だからこその売れ行きと言う見方もある。
その他の商品は値段が安いのでそれなりに通用するとユーリは考えている。これはアトマス商会で培ったユーリの商売感である。
小説は学院内でブームになり、早くも新刊の要望が多数寄せられている。また、ミステリーに関しては『ネタばれ禁止』と言うルールが暗黙の了解で出来た様だ。
「さて、今日も昨日同様口コミで売って行くよ。外部での販売については校長先生に相談してみるよ。あと、下着と本の新作も考えて置くので要望があったら放課後の会議で伝えてね。」
「解ったわ。じゃあ皆行くよ~」
「「「了解!」」」
皆が部室を出て行くとユーリは校長室へ向かった。
外部で販売したい事を伝えると校長は何やら思案顔になる。
「外部で販売となると店を構え誰でも商品が買える状況を作りたいと言う事で良いのかな?」
「そうですね。商会の子女が部員に多いので新規に商会を作る気はありません。あくまでも校内で販売している商品を外部でも販売したいと言う話です。」
校長は例の手紙の件は一切話さない。貴族学院名義で届いたが、多分何処かの貴族が儲け話の匂いを嗅ぎつけて裏で糸を引いていると考えている。貴族に商品の販売権を奪われるのは阻止しなければならない。
「販売は人を雇って、その人にさせなさい。君たちは表に出ない様に。それが条件だ。」
「構いません、もともと僕らだけでは学院内で手一杯だったので人を雇うつもりでした。」
「そうか、ならば許可しよう。話はそれだけかね?」
「はい。ありがとうございます。」
これで商品が外部でも買えるようになれば貴族学院からも何も言って来なくなるだろう。校長は安堵の表情でユーリが出て行ったドアを見つめた。
やる事が決まればユーリの行動は早い。
まず、新作の本から手を付ける。1冊目は「ドラゴンスレイヤー」と言う英雄譚、小さな村で生まれた少年が冒険者になり、様々な苦難を乗り越え最終的には竜を倒し貴族に叙されると言う超王道作品だ。
2冊目は「閉ざされた山荘」と言うミステリー、魔物に襲われ山荘に逃れた3組の冒険者12人の中で殺人事件が起こると言うサスペンス風味のミステリーに仕上げる。試験的に叙述トリックを導入してみた。
3冊目は「禁断の恋」と言う恋愛物。これはロミオとジュリエットをベースにこちらの世界の貴族の風俗を取り入れ完成させた。
とりあえず1000冊ずつ3000冊をアイテムボックス内で作成する。
次は下着の新作だ。前回は年齢的に中高生向けのデザインにしたが、今回は若干年齢の高めのデザインも取り入れる。これは外部での販売を考慮した結果だ。ただ、全てを年齢高めに設定るするとセクシーになり過ぎるので、ティーン向けのデザインも半分は取り入れている。前回は大人し目にパステル調にしたのでビビットな色も数枚作る。
今回も10種類作ったので1000枚ずつ1万枚をアイテムボックス内で作成した。後は女性陣がどんな希望を持って来るかで少しデザインや色をいじる事になるだろう。
部員の皆は昼になると部室に集まりユーリの出す軽食を食べる事が多い。今日は味噌ラーメンである。学食でも美味しい食事は取れるのだが、ユーリの出す軽食は無料なので自然とお昼になると部室に集まる。
「流石に昨日売りまくったので、今日は下着の売り上げが若干少ないわ。」
「本の方は順調だよ。口コミでミステリーが面白いって言う評判でミステリーの売れ行きが昨日より多いかな。」
「あとは、男性で恋愛物を買って行く子が増えたかな。多分姉妹に頼まれたんでしょうね。」
「順調みたいだね。こっちも順調だよ。校長先生から商品の外部販売の許可を貰ったよ。」
「おお。本当に許可が下りるとは。」
「でね、店は学院と商店街の中間辺りが良いと思うんだけど、使えそうな物件を探しておくよ。あと、商店のオーナーはイルミに頼むよ。」
「私に?」
「うん。商業ギルドに書類を提出するだけだから、お願い出来るかな?」
「解ったわ。商業ギルドは何度も行ってるから任せて置いて。」
「お金は僕が出すから心配しなくて良いからね。それから人を雇う事になるので店が決まったら皆で面接をします。皆、商会の子女なんだから、人を使う事を覚えないとね。」
「マジかよ~、この年で人を使う事になるとは・・・」
「って言うか面接って何するの?」
なんかアトマス商会を立ち上げた時の事を思い出すユーリであった。その後、午後の授業と販売を終え、放課後の会議になっても、皆の興奮は収まらなかった。
午後の販売も午前とあまり変わらない結果だったらしい。ユーカ達に下着の希望を聞いてみるが、あまり具体的な要望は無いらしい、とりあえず新作の10枚をテーブルに出して、評価を聞いてみる。
「これが新作の下着なんだけど、どうかな?」
「なんか、前のよりちょっと大人っぽい?」
「そうですね、デザインが前より斬新です。」
「こういう派手な色も結構売れるかもしれませんね。」
概ね好評な様だ。これでやる気を出して貰えれば前の様に売れるだろう。
「とりあえず10種類あるから5000枚渡すね。自分たちの気に入ったものがあったら先に取って置いてね。」
「うう、20枚もあると朝何を穿くか悩みそう。嬉しい悩みだけど。」
完全に10種全部貰うつもりだ。
「あと、本なんだけど、アルト、読んだ感想は?」
「王道の騎士物語も面白かったですけど、ミステリーが凄かったです。物語を書くだけでも大変なのに話にトリックを入れると言う発想が凄い。あと、作品ごとにまるで別人のように作風が変わっているのに驚きました。」
「僕も読んだけど、語り口が堅苦しくないのが良いね。軽妙な文章なので読みやすかったよ。」
こちらもおおむね好評だ。新作の用意がある事を知らせると驚かれた。
「まだ、2日しか経ってないのにもう新作を書いたんですか?」
「まあね。こっちも3冊あるので、読んで感想下さい。」
そう言ってテーブルの上に人数かける3冊の本を並べる。
「これも明日から口コミ掛けて下さい。」
女性陣男性陣のマジックバッグに各500冊ずつ1500冊を入れて行く。
「それから、明日の朝は用事があるので早朝会議は無しで!」




