第三十三話
「あなたひょっとして、アトマス商会の関係者?」
イルミさんが問い詰める様に質問してくる。
「半分正解で半分外れかな?」
「何よそれ?」
「アトマス商会の関係者だと何か問題でもあるの?」
ルーカスとユーカは完全に話についていけてない。2人も商会の子供と言う話だからアトマス商会の事は知ってるはずだ。
「アトマス商会は実態が掴めないのよ。画期的な商品を驚くべき低価格で販売する謎の商会。砂糖の値段を塩の値段より下げたのもあの商会って言う話だわ。」
「へぇ。巷ではそう言う噂になってるんだ?」
「あなたが関係者なら、是非色々お話を聞いてみたいわ。特に仕入れ価格とか、料理の発想とかね。」
「ああ、時間が取れたらね。ルーカスとユーカも知りたいの?」
2人は揃って顔を横に振った。
「この2人は商会と言ってもジャンルが違うからね。ルーカスは材木を扱ってる商会だし、ユーカは次女なので花婿探しに忙しいって感じかな。」
「へぇ~。じゃあイルミさんは商会を継ぐの?」
「そうね。私の家は私と妹の2人しか子供が居ないから婿を取って商会を継ぐ事になるわね。」
「じゃあ、イルミさんもユーカさんも婿探しに学院へ来たの?」
「そう言う訳でも無いんだけどね。やはり魔法は覚えたいから、婿探しは良い人が居ればって感じかな。」
魔法学院は貴族の次男三男が多いので貴族や商会の娘にとっては婿探しに都合が良い。しかし、大部分の生徒は真面目に魔法目的で通っているのも事実である。これが学年が上がるごとに魔法の才脳の無さに気付く者から順番に婿探し、嫁探しに切り替わって行くのだ。ユーカの様に最初から婿探しと割り切っている者少数居る。
「ルーカスはどうなの?」
「僕は材木を乾燥させる魔法を覚えたくてね。まだ12歳だし、結婚は実感が湧かないよ。」
「だよね。僕も結婚は20歳位までに出来ればよいかなって思うよ。」
するとイルミがやれやれと言った顔でユーカと顔を見合わせる。
「ユーリは人気が出ると思うよ。貴族なのに気取ってないし、庶民に声かけて来るしね。ユーカなんかもう候補に入れてるんじゃない?」
「え?マジで?」
何故かユーカが真っ赤な顔をしている。これはロックオンされたか?
「処で話は戻るけど、食事はどう?アトマス商会ではレシピや調味料を販売してるけど、実際の所どの程度広まってるのかな?学院の食堂がこのレベルって事は、あまり受け入れられてない?」
「そうねぇ。家庭レベルにはかなり浸透しているみたいよ。ただ、一部の貴族や、こう言った伝統のある場所では受け入れがたいと言う事実もあるみたい。」
「そうか、確かに貴族の中には保身的な人も多いからねぇ。ユーカの家ではどう?」
「私の家でも、調味料や砂糖は普通に使う様になりました。でも先程のチーズバーガーの様な料理は初めて食べました。」
「僕の家もそうだね。実家では砂糖が普通に料理に使われています。月に一回はアトマス商会に砂糖を買いに並ぶのが母親の恒例になってるようです。」
家庭レベルでは塩より安い砂糖は新しい調味料として確実にその地位を築いている様だ。アトマス商会の常連さんには料理店も多い。となると、庶民レベルでは問題なくユーリの作戦が功を奏している様だ。問題は貴族かぁ。
「貴族はともかく、この学院の食堂に美味しい食事を定着させたいんだけど、何かアイデアは無い?皆、5年間この食事に耐えられる?」
「値段を考えなくて良いなら方法はあるわよ。」
「え?どんな?」
「この食堂の定食と同じ銅貨2枚で美味しいお弁当を販売するのよ。」
「なるほど、一考の価値はあるな。正直料金は考えなくて良い。只で配っても構わない。」
「只で配るって、あなた商人ですの?」
只はともかく、お弁当はありだ。問題はお弁当は温かくないと言う点だ。温かいまま提供する方法もあるが、買った方がすぐに食べるとは限らない。日本のほか弁と同じ悩みだ。また、弁当と言うフォーマットにすると提供出来る料理に限りが出ると言うのもある。汁物や生ものはNGだ。
「弁当販売をすると言ったら手伝ってくれる?」
「アトマス商会の秘密と交換なら。」
イルミはブレないなぁ~。感心するユーリであった。
「多分、一緒に弁当販売すれば、アトマス商会の秘密は見えてくると思うよ。」
この答えに3人は唖然とした。こんな事で、あのアトマス商会の秘密をバラすと言っているのだ。
「やるわ!」
「私も、やらせて下さい。」
「ぼ、僕もあるよ。」
「ありがたい。じゃあ、早速、放課後にでも色々決めちゃおうか?」
こうして、学院でも美味しい食事普及活動を開始するユーリであった。
「そう言えば、さっきのチーズバーガー何処から出したの?」
「いや、そんな事より午後の授業始まるけど大丈夫?」
「って、大丈夫じゃな~い!!」
4人は急いで教室へと戻るのであった。アイテムボックスの事はいずれ教えるつもりだが、今、食堂でバラすと誰が聞いてるか解らないのでユーリは安全策を取ったのだ。
こうして、午後の授業を受け、放課後に作戦会議をする4人組の姿が連日見られるのであった。
試行錯誤三日の末弁当は完成した。問題はこれをどう売るかと言う事だ。実を言うと購買部でも弁当は販売されている。こちらの弁当は銅貨7枚するが、教室や図書室で勉強しながら食べる者も結構な数居て、売れている。
ここへぶつけてみては、と言うのがイルミの作戦であった。食堂の入り口で販売すると言う案も出たが、4人にその勇気は無かった。




