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21.ミッションを完遂せよ 3/4

その3です。約6000字あります。

21-2は、面倒なら、ジャ~ンプ!でもOKです。

5月6日(水)つづき


21-1.アンブッシュ -伏兵-


 城壁の上から見下ろす街並みは、とても新鮮に見える。城壁の内側には、普段は見上げるだけの城が同じ高さにあり、その向こうにも、俺たちのいる場所から延々と城を囲むように続く第二城壁が見えた。その遥か向うには、内海も見える。


 反対に城壁の外側には、第三城壁(外壁)の外側に広がる街道や光を反射する湖、更に遠くには、山の長い稜線がはっきりと見えた。俺は、始めてみる景色に心を奪われていたため、アニーと手を繋いだままだったことをすっかり忘れていた。


「アニー、実は俺、ここに昇るの初めてなんだ。海が、見えるん………」


「私も、随分久しぶりよ。海の向こうのエーリスには、神殿が、あっ……」


 そう話しながら、向き直った俺たちは、互いの距離があまりにも近いのを見て、やっと手を繋いでいたことを思い出す。二人は、申し合わせたように無言で繋いだ手を見つめた。その時俺は、スノーさんの指示書の続きが、頭の中に浮ぶ。


『城壁の上に登って周りの景色を楽しんだら、次は、いよいよ告白タイムよ。

 打算とか体裁じゃない、リュウくんの正直な気持ちをアニーちゃんにぶつけるの。

 それを、聞いたアニーちゃんからは、真摯な思いが聞けるはずよ。

 告白タイム開始の合図はね、二人が握った手を離すその瞬間よ』


 俺が、顔を上げ視線をアニーに向けると同じようにアニーも俺を見つめる。

(告白って一体何を言えばいいんだ?)俺は、アニーの手を離せないでいた。

二人は、無言のまま、見つめあう。また、スノーさんの指示書が脳裏に蘇る。


『手を離さずに無言で見つめ合ってしまったら、そこで告白タイムは終了よ。

 アニーちゃんが目を瞑ったら、同封の別紙を参照するのよ。

 リュウくんが、知りたがってた事を書いておいたわ♪』


 指示書は、そこまでだった。続きを探したが、落としてしまったのか

何処にもなかった。つまり、告白しなければ、ゲームオーバーということだ。


 アニーの瞼が動きそうになった瞬間、俺は決断した。

アニーの手を握っていた自分の手の力をゆっくりと緩めて手を離す。


「アニー、今日は、本当にありがとう、とても楽しかった。

 こう言うと怒るかもしれないけど、素顔のアニーは、とてもかわいかったし、

 服を選んでくれている時のアニーは、すごく頼りになった。

 目的がなかったら、俺は、俺がまだ知らないアニーの事をたくさん知って、

 もっともっとアニーと親しくなりたいって、思ってたはずだ」


 俺は、一旦話を切り、気持ちを落ち着かせてから、また話を続ける。


「でも、俺は、お告げの人を探さなくちゃならない。

 アニーには黙ってたけど、できれば俺は、その人と結婚して一緒に暮らしたい。

 虫のいい話だけど、できることなら、俺を手伝って欲しい」


 俺は、今アニーに対して思っていることをすべて話した。

アニーは、無言だった。

そして、俺は、アニーに深々と頭を下げた。


「それと、ごめん…なさい。

 実は、このデートそのものが、スノーさんの書いたシナリオなんだ。

 俺は、劇を演じる役者のように、それに乗っかってた。

 行き先も道順も台詞も、スノーさんに指示された通りにしただけなんだ。

 ………なんだか、アニーを騙しているような気がして………」


 本当は、スノーさんの苦労やアニーの笑顔を見れば、これは隠して置くべき事柄だ。しかし、俺のちっぽけだが、融通の利かない良心が、それを許さなかった。

アニーは、しばらく沈黙していたが、やがて話し始める。


「リュウイチ、今私の着ているこの服だけど、スノーさんが借してくれたものよ。

 今日の午前中にスノーさんが、孤児院に来て、午後からリュウイチが誘いに

 来るから、時間を空けて置くように言われたの。

 スノーさんは、『これは、リュウくんのアニーちゃんに対する 謝罪の一環

 だから、おもいっきり楽しんでね』と言ってたわ」


 アニーは、ここで話を一旦切った。

俺は、裁判長からの判決を待つ被告人のように、身体を硬くして続きを待つ。

アニーは、身体の向きを変え、俺に正対すると話を続けた。


「そして今日、私は思いっきり、楽しんだわ。

 リュウイチだって楽しかったって言ってくれたよね。

 あなたが口にしたすべての言葉を、スノーさんが考えたわけじゃないでしょう?

 それとも、さっきの言葉も、スノーさんに教えてもらったもの?」


 俺は、激しく頷き、そして、激しく頭《かぶり》を振った。

アニーは、俺の贈った髪留めにそっと触れると言葉を続ける。


「私は、この髪留めを貰った上に、食べてみたかったケーキまでご馳走になったし、

 リュウイチは、服が買えた上に、かっ、かわいい私とお茶したり、

 手を繋いで散歩までできたでしょう? 何か、悪いことあった?」


 俺は、更に激しく頭《かぶり》を振る。眩暈《めまい》がしてきたが、我慢だ。


「だったら、よかったじゃない!

 もしそれでも、私に負い目があるなら、謝罪の一環じゃなくて、また誘ってよ。

 プレゼントもいら…なくはないけど、負担にならない範囲でいいから。

 それから、神聖魔法の練習も人探しも手伝って上げるわ」

(あなたは、私が思ってた以上に誠実だったし、それと今回は間接で許してあげる)


「ありがとう、アニー。これからも、よろしくな」


 こうして俺は、困難なミッションを満足できる結果で完遂することができた。


~・~・~


 その頃、あるカフェの従業員控室で、ウェイトレスが、拾った封筒を興味深げに開封していた。拾った封筒を直ぐに落とした客に返そうとしたが、その時、『上手なA《キス》の仕方』と書かれた文字が目に入り、思わずポケットに入れてしまったのだ。


『上手なA《キス》の仕方を教えるわね。

 まず、………。そして、…………。次は、…………。

 ついでに、………。最後に、………。コツは、………。

 これで、相手は、メロメロよ。続きは、最後の指示書でね。』


 読み終えた彼女、M子(匿名)は、その内容に思わず顔を赤らめたが、

『最後の指示書』とやらの中身が気になり、仕事が手に付かなくなるのだった。


 もし、リュウイチがこれを読んでいたら、こう言っていただろう。


「スノーさ~ん。俺が、知りたかったのは、『Aスキル』のことですよ~」と。



21-2.イントロゲーション -尋問-


 俺とアニーは、第二城壁の上から海を見つめ、他愛もない話をしていた。スノーさんから貰った最後の指示書は、未開封だったが、今日はもう十分な収穫があった。

指示書を開けて、更に何かを求めると碌なことにならない、俺は、そんな気がした。


「アニー、そろそろ下に降りよう。孤児院に送って行くよ」


 俺が、そう提案すると、それまで、他愛もない話をするばかりだったアニーが、決心したような顔で俺を制止してきた。


「リュウイチ、少し待って……、話があるの。今ここでしか、話せないことよ」


 その時、時計台からの鐘の音が、辺りに5回響いた。午後5時を過ぎた城壁の上には、少し風が出てきたようだ。春向きの装いをしたアニーの身体が、少し震えた。


「わかった。でも、長くなるようなら別の日でもいいぞ」


 俺はそう言って、自分の着ている上着を脱ぎ、アニーの肩に掛ける。


「アニー師匠に風邪を引かれては、魔法のレッスンも覚束ないからな」


 アニーは両腕を交差させ上着の縁を掴むとにっこり微笑み話を始めた。

話は、謝罪から始まり、過去にアニーが、濁りのイメージを掴むのに、

実は、かなり苦労したことが語られる。


「リュウイチ、あなたに幻滅されたくなくて、嘘をついてたの。ごめんなさい」


 俺の顔を見て自嘲気味に微笑む。俺は、それを聞いて頭を振る。

俺が、謝罪を受け取ったことを知るとアニーが続けた。


 一週間経っても、イメージを掴めないアニーは、治療院から呼び出しを受ける。

恐る恐る訪ねると、そこに待っていたのは、当時治療師だったサーヤ院長だった。


「院長先生は、治療師用の服に着替えて、ついて来る様におっしゃったの」


「あの院長は、治療師だったんだ」


 スーリンの件で、俺は、治療師アレルギーになったのか、トゲのある言い方をしてしまった。


「そう。でも、元は孤児院で私と同じような仕事をしていたそうよ。

 何かの件で孤児院を離れて、治療部門の方に転属になったと聞いているわ」


 生粋の治療師でない分マシなのかな?

孤児院の院長の人となりを思い出して俺はそう結論付けた。


「私が、支度を整えて付いて行くと、治療室に待っていたのは、

 ベッドに横たわる重篤そうな患者さんだったわ」


 その後アニーは、治療中患者の手をずっと握っているように言われたそうだ。

そして、治療の前後で何が変わったか感じる取るように言われ、治療が終わると次の人、終わるとまた次の人というように、何人もの患者の手を握り続けたらしい。


 すると徐々に患者の手を取ると、手を離したくなるような嫌悪感を感じるようになり、治療が進むと少しずつ嫌悪感が和らいでいくことが感じられたらしい。


「私は、何か掴めた様な気がして、院長先生にお礼を言ってその日は帰ったの。

 そして、やっと濁りのイメージを掴むことができるようになったのよ」


 俺は、経験に基づいた、具体的な訓練方法を知ることができたので、

かなり舞い上がっていた。


「つまり、俺が濁りのイメージを掴むための訓練には、重篤な患者と

 治療師を用意して目の前で実践してもらうのが近道というわけか。

 で、それをするために俺は何をすればいいんだ?」


「そうね。重篤な患者と腕のいい治療師を見つけることかしら」


「って全部じゃねえか!」


 俺は、思わず乗り突っ込みをした。


「まあ、冗談はさて置いて……」


「冗談かよ」


「治療院の治療室に入れるのは、治療師と助手、患者だけなのよ。

 私は、一応シスター志望だったから助手として治療に立ち会えたの」


「俺には、その手は使えないな。じゃあ、何かいい手はないか?」


「リュウイチが、治療に立ち会うには、自分が重篤な患者になるしかないわね」


「流石に病気になるのは嫌だぞ~。サーヤ院長に治療師役を頼めないのか?」


「この方法の要《かなめ》は、治療の前後での患者の濁りの量の差を感じて

 濁り自体のイメージを掴むことなの。差が大きいほど分かりやすくなるわ」


 そのための腕のいい治療師というわけか。


「それで、原因は不明なんだけど、神聖魔法は、ある年齢を境に急に弱くなったり、

 使えなくなったりするの。だから、引退した院長先生にその役は、無理なのよ」


 患者の方は、兎も角、治療師に心当たりがないとだめなのか。

俺は、じっとアニーを見つめた。


「もし私が、できるぐらいなら、とっくにそうしてると思わない?」


 だよな~。これって、役に立たない知識が増えただけってことか?

そんな考えが浮かんだところに、アニーからの朗報がもたらされる。


「そういう具合に、さっきまでは、本当に何も用意できなかったから、

 あえてこの方法は、教えなかったんだけど、さっきの水筒の水!

 あれがあれば、話が少しだけ変わってくるの」


 アニーは、俺のリュックの中の水筒を指差した。


「あの水は、正式には『神聖水』って言って、簡単に言うと濁りを中和する水なの。

 昨日、あの水筒の水に挿しておいた花が元気になったのは、多分、そのせいね」


「そう言えば、ブリジットさんが、教会の水は、生物を元気にするって言ってたな。

 それなら、治療師が直接治さずにその水を配った方が楽だし、早くないか?」


 何でそんな簡単なことをやらないのだろうか?


「作るのに手間と時間が掛かるから、教会の外の人に配るほど量がないのよ」


 なるほど、貴重品なわけだ。


「実は、昨日リュウイチに持って行ったお水、カーク教会の神聖水だったのよ。

 飲むと『濁り』を感じやすくなると言われているの」


 わざわざ、貴重な神聖水を持って来てくれたのに、それを俺が茶化したような態度を取ったと、アニーは、勘違いしたのか……。


「ごめん、アニー……」


「もう、いいわ。お相子《あいこ》よ」


 アニーは、笑いかけてくれた。


「だから、大きなミサの一般の参列者にだけ、コップに少しずつ配られるの。

 水の効果は有名だから、配られれば皆んな飲むけど、正直苦くて不味いし、

 その割には目に見える効果がないからあまり人気がないのよね。

 毎日飲むのは、飲み慣れた教会関係者でもつらいと聞くわ」


「何、言ってる? この水筒の水は旨いぞ!」


「いいえ、不味いわよ。

 その水筒の水を飲んで美味しいと言った人、リュウイチの他にいるの?」


「…………いない」


「そうでしょう? 正直、リュウイチの味覚が信じられないわ」


 そう言えば、俺が『これで味オンチ疑惑が晴れた』と言った時のスノーさんの表情が微妙だったっけ。いや、待て待て待て、騙されるな。


「ポーションも作り手(レシピ)で色々変わるんだ。神聖水の味も同じじゃないのか?」


 アニーによれば、確かに、作り手のスキルレベルが高いほど、よりランクの高い物ができて、それは、より苦く感じるそうだ。


 また、飲む人の体調でも味が変化するようだ。体の調子が、悪いほど、より苦く不味い味になり、逆に、余り苦く感じない場合は、体調がいいらしい。


「そうだろう。そうだろう。どれどれ」


 俺は、水筒の水の残りを飲み干した。


「やっぱり、旨い。この水筒の水は、レベル1の人が作った物と同じなのさ」


「それが、カーク教会の神聖水の作り手は、確かレベル7だったと思うけど、

 この水筒の水ほど苦くないわ」


「!……じゃっ、じゃあ、俺が絶好調なんだよ、絶対!」


 俺は、すがるような気持ちで言った。


「私は、むしろ極度の味オンチのような気がしてならないわ。

 神聖水を飲んで美味しいって言う人、私は誰も知らないし聞いたこともないわよ。

 前に強く頭を打った事ない? そのせいで、味覚が変わった人の話を知ってるわ」


 ひょっとして、スノーさんを庇った時に頭を打ったのかも。

俺は、泣かないぞ~。でも、早く帰りたい……。

俺が一人苦悩していると、アニーがヤレヤレという感じで話す。


「リュウイチが、色々聞いてくるせいで、話が反れたわ。

 この際、リュウイチの味オンチの話は、どうでもいいのよ」


 アニーは、一呼吸置くと、話の結論を語り出した。


「いい? 重要なのは、この水筒の神聖水は、その苦みからすると、

 濁りを中和する効果がかなり高いかもってことなの。

 もしそうなら、この水筒の水が、腕の良い治療師の代わりになるでしょう?」


「すごいぞ、アニー!! 俺はてっきり、さっきの告白が原因で、

 俺の事をいじめて、憂さ晴らしをしていると思い始めたところだぞ」


「あら!? ばれてたの? だって、ちょっと悔しいんだもん」


 アニーはニヤニヤしながら言った。

マジかよ~。まあ、俺のせいだから仕方ないけど、話題を変えよう。


「アニー、流石に暗くなって来たぞ、そろそろ帰らなくては拙《まず》いだろう?」


 幾ら、院長さんに断って来たとは言え、こんな時間までの外出は認められていないだろう、俺はそう考えていた。


「そうね。これでは、話も出来ないわ。

 それじゃ、ブリジットさんのお宅へ伺いましょう」


「寄り道して、時間の方は大丈夫か?」


「大丈夫。大丈夫」


 随分、軽い答えだな。


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 まとめ


 いよいよ告白タイムです。

 ダメだ、俺は、君をこれ以上騙せない。

 え!?スノーさん監修だって知ってた?


 でも楽しかったから許してくれるの?

 魔法の訓練のお手伝いも人探しの方も手伝ってくれるって?

 よっしゃ! 作戦成功だ。


 でも、寒いな。もう帰ろうぜ。

 まだ、話があるのか。じゃあ、これ着とけよ。


 アニーの昔話か? なるほどな。

 重病人の治療の前後で濁りの量が変化するのを利用してイメージを掴むわけか。

 でも、治療師も重病人も用意できない?

 それじゃ、だめだろう! 神聖水? この水筒の水がか?


 ほう、この水を飲ませると、重病人の濁りが減るってわけか?

 何とかなりそうだな。


 それじゃ、帰るか。

 え? アニーもブリジットさんの家へ行くのか?

 じゃあ、一緒に行こうぜ。


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