表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/132

12.手助けと謎解きと配達と

5300字弱と少し長めです。

12-4は、設定の解説なので、軽く読み飛ばして大丈夫です。

後書きにジャ~ンプも可です。


 裏設定とも言える内容ですが、リュウイチが、もし新生児から転生していたら、母親は、スノーさんでした。スノーさんは、それもあって、リュウイチを実の息子のように感じています。スノーさんの行動は、その設定に基づいて書いています。


4月26日(日)つづき


12-1.手助けをしよう


 俺は、一日の仕事を終えて、教会の孤児院からブリジット家に向かっていた。

すでに閉まりかけた店の前を何軒も通り過ぎる。現代日本と違い、日が暮れても営業している店は少ない。酒場や宿屋を除けば、他は少し注意を要する職種となる。


 前世の記憶がある俺にとって、危険を見分ける目は、同年代の日本の少年よりは、絶対に上だと確信できるが、果たして、この国の同年代の者より上なのだろうか?

重い脚を懸命に運びながら、道を急いでいると横合いから声が掛かった。


「あっ、あの~、すっ、すいません!」


 これが、ドスの利いた男の声やその手の女の声だったなら、無視して脚を早めていたと思うが、澄んだ少女の声を無視できるほど、俺は冷徹にはなれなかった。


 俺は、反射的に立ち止まり、声の主の方を見る。フードを目深に被った少女のようだった。フードのせいで、口元しか見えないが、口の左下に小さな黒子見える。

幼い姿に反し、その黒子が、俺には何だか妖艶に見えた。


「何か用か?」


 俺は、警戒するように聞き返す。


「おっ、お花を買ってもらえませんか?」


 少女は、籠に入れた花を見せる。チューリップに似た白や赤や黄色と色取り取りの花が、10本程あったが、元気なく萎れかけていた。

そして、少女も同様に萎れかけている。


「萎れているようだが?」


「いっ、一本1Gですが、13本全部で10G――銅貨1枚で結構ですので」


 俺は、頷き銅貨を1枚出して渡し、代わりに花束を受け取った。

そして、孤児院からの帰り際に渡された手作りのお菓子を取り出し、少女に手渡す。

それは、俺が遠慮したチョコレートの代わりにと、孤児の少女がくれた品だった。


「頂き物だが、よかったら食え」


「あっ、ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 何だか久しぶりに心からのお礼の言葉を聞いた気がする。

俺は、それに答えて片手を上げると家に急いだ。


 途中、噴水広場に寄り水筒の大蓋を取り外し中に水を入れた。

全くの気休めだが、そこに花束を挿して、水筒を手に持ったまま歩き出す。



12-2、お土産の謎を調べよう


 俺は、ブリジットさん宅に到着しドアを数度ノックする。

飛んできたかのようなタイミングで、スノーさんがドアを開けてくれた。


「ただ今戻りました」


 俺は、家に入りながら、スノーさんに帰宅の挨拶をする。


「お帰り、リュウくん! 遅いから心配しちゃったわよ。ご飯は食べてきたの?」


 俺の帰りを心配しながら待っていたようだ。


「孤児院でご馳走になったんですが、出来ましたら何かお願いします。

 それとこれ、初めての報酬が出たので、日ごろの感謝の印です」


 俺は、持っていた花束を水筒から抜いて、スノーさんに急いで渡す。

リュックからは、孤児用とは別に買った粒が大きめのチョコレートを5個、銅貨1枚也を取り出し一緒に渡した。この2つの買い物で俺のサイフは空になっていた。


「花は、ちょっと萎れ気味なんですが……」


 スノーさんは、うれしそうに微笑んたが、目の淵に涙が光っていた。


「リュウくん、ありがとう。とっても、とってもうれしいわ。

 あなた~リュウくんが………」


 スノーさんは、リビングに走って行ってしまった。


 俺は、中庭の井戸に寄って体を綺麗に拭くと花を入れていた水筒をよく洗い、新たに井戸水を汲んで、食堂に向かう。台所では、スノーさんが、うれしそうに料理をしていたようだ。俺は、暖かい料理をお腹いっぱいご馳走になった。


 遅めの夕食後にリビングに向かうと、ブリジットさんが俺が買ってきたチョコレートを食べている。


「ただ今帰りました」


「お帰り、リュウイチ。気を使ってもらって悪いな、美味しく頂いてるよ」


 ブリジットさんもうれしそうに礼を言ってくれた。


「日ごろから何かとお世話になっているお二人に、ささやかなお礼です」


「はは。気にするな」


「そうよ、気にする必要なんて無いんだから。

 ねえ、見て! リュウくんにもらったお花、花瓶に挿したの」


 そう言って、スノーさんは花瓶に入れた赤、白、黄色の色取り取りの花を持ってきて、壁際の物入れの上に飾った。


「どう? まるでさっき摘んできたばかりのように、瑞々(みずみず)しいわ」


 ……? ちょっと待て、萎れかけた花だったはずだ。

俺は、スノーさんが持ってきた花瓶の花を良く観察すると、確かに……。


「スノーさん、その花、本当に俺が持って帰ってきた花ですか?」


 俺は、思わず問いただしてしまった。


「そうよ。リュウくんがさっきプレゼントしてくれたお花よ。

 男の人からお花をもらうのなんて、久しぶりだわ」


 スノーさんは、ブリジットさんの方をちらりと見る。

俺は、狐に摘まれた気がして、花を手に入れた経緯を正直に話した。


「リュウイチの優しさは美点だが、少なくともこのカークでは、暗がりから声が

 掛かったら無視した方がいいな。身の安全があっての優しさだと私は思うよ」


「そうね、リュウくん。女の子からお声が掛かっても明るい所だけにしなさい。

 リュウくんに何かあったら、私、すごく悲しいわ」


「ご心配掛けました。これからは、気をつけます」


 心から心配してくれている二人を見て、叱られているにも係わらず、俺は少しうれしくなった。


「この花ですが、俺が見た時は確かに萎れていた筈なんです。

 そうでなければ、値段を割り引くなんて絶対しないと思うんですけど」


「花の方は、暗がりだったので見間違えたか、値段の方も、遅い時間になって

 客が捕まらないと考えた少女が値引きして、リュウイチに全部押し付けたと

 見るのが、まあ常識的な考え方なんだが……」


 とブリジットさんは、前置きした上で、更に話を続ける。


「リュウイチが、その花を買ってから帰って来るまでの間に、

 花に何か特別なことをしたり、されたりしなかったかい?」


 ブリジットさんの論理的な思考の手伝いもあって、俺の水筒に花束を挿してきたことを思い出した。


「あのリュウイチが持っている変わった水筒に挿してきたのか?

 ちょっと、水筒を見せてくれないか」


 ブリジットさんは、商人の顔になって俺に頼んできた。


「見せるのは、いいですけど、売りませんよ」


 俺は、エルエルにこの水筒を借りているだけで、もらったわけではない。

ニヤニヤしながらも、そう確認してから、先ほど水を補充した水筒を差し出した。


 スノーさんは、ブリジットさんの指示で、コップを2つ持ってきた。

ブリジットさんは、それぞれのコップに水筒から水を注ぐと、スノーさんと二人で飲んだ。


「普通の水だな」


「そうね、何の代わり映えもしないうちの井戸水ね」


 俺は、ブリジットさんがテーブルに置いた水筒を取って、一口飲む。

美味いな~。こっちの水はどこの水でも大抵美味い。カルキ臭い水道水を飲んでいた俺が、そう感じるのは、仕方がない事だろう。


 ブリジットさんは、また考えを巡らせているようだ。


「リュウイチ、この水はスノーが言うように、うちの井戸の水でいいんだな?」


「そうです。ここに帰ってきてから、水筒を洗って水を入れ替えました」


 俺は、中庭の井戸で身体を洗った後に水を汲み直している。


「じゃあ、その前――花束を挿していた時に入っていた水は、どこの水だ?」


「あれは、広場の噴水の水です。水筒が空だったので、噴水の水を入れて、

 気休めに萎れかけていた花束を挿してきたんですよ」


「噴水の水か~~。あの水が特殊という話は、聞かないんだがな。

 全く他の理由か、それとも……」


 ブリジットさんは、考え込んでしまった。

俺は、その様子を見ながら、大きな欠伸をする。

それを見たスノーさんが、就寝を進めてくれた。


 スノーさん曰く、ブリジットさんに付き合っていると夜が明けてしまうそうだ。

俺は、ありがたく休むことにして、客間に引き上げようとするとスノーさんが、俺の耳元でぼそっと呟いた。


「リュウくん、その女の子、本当にヒトだったの?」


 俺は、背筋が急に寒くなった。

その様子を見ていたスノーさんが、いたずらっぽく言う。


「怖かったら、添い寝して上げるわよ?」


 丁重に断り、一人でベッドに入ったが、すぐに寝てしまったようだ。



4月27日(月)


12-3.ボロダー商店を手伝おう


 次の日、ぐっすりと眠った俺は、清々しい気持ちで目を覚ました。

約束通りスノーさんの乱入はなかったようだ。別に寂しくないぞ。

時間を確認すると昨日より少し遅めだったので、急いで身支度を整え、食堂に行く。


 今日は、スノーさんが料理をしたようだ。ただし、時間の関係で1回しか、お代わりができなかった。スノーさんは少し残念そうな顔をしているようだ。


 俺は、スノーさんが作ってくれたお弁当と、顔を洗った際に水を入れ替えた水筒とを昨日買ったリュックに詰め込み、サブバッグを襷掛けして、家を出る。


 昨日と違い、今日はボロダーさんの店に直接向った。

すでに店は、開いていたが、相変わらず、客はいない。


「ボロダーさん、おはようございます」


 ボロダーさんは、いつもの定位置に座り何か作業をしていた。


「リュウイチか、サブバッグを持って来い。中身は空にしてあるな?」


「ハイ、大丈夫です。昨日は、早速このバッグに助けられました」


 そういいながら、ボロダーの所までサブバッグを持って行き手渡す。

俺は、孤児院での屋根の修理の話をした。ボロダーさんは、その間サブバッグの設定を変更しているようだ。


「……という訳なんです。それから、奥さんのルネさんが教えてくれたお土産、

 とても好評でした。お礼を言って置いて下さい」


「前にも言った通りバッグは、ここに来る前に空にすれば、好きに使ってええ。

 土産の事は、カカアに伝えとく。配達じゃが、今日は15件じゃ。大丈夫か?」


 ボロダーさんは、俺にサブバッグと今日の配達伝票、配達先の地図を渡しながら、そう聞いてくる。


「はい。毎週月曜は、仕事の日と決めているので、一日中でも大丈夫ですよ」


 俺が、そう答えると、若干安堵したようにボロダーさんが、説明してくれた。


「ワシは年中無休じゃが、世間では日曜に休むんじゃ。

 だから、月曜の配達量が増えるのじゃよ」


「そうでしたか。では、早速配達に行ってきます」


 俺は、増えた配達先の件数を考えて、駆け足で配達先に向うことにした。

当然、昨日より終了時間が遅くなったが、アイテムの名前と物が一致してきたことと、思ったよりも配達先同士の距離が近かったこともあり、3時前には終った。


 店に帰ってくると、昨日と同じようにサブバッグを渡し、納品と伝票の突合せを行ってもらった。今日もどうやら、間違いなく配達できたようだ。



12-4.ポーションとメディスン


 俺は、ボロダーさんから、アイテムについて色々教えてもらうことになっていた。

だが、この店に置いてあるアイテムだけでも千種類以上あるそうで、取り合えず、店の中で目に付いた商品の詳細から始めることになった。


 最初は、定番のポーションからだ。大きくは、回復系、能力上昇系、解毒系の3種類ある。同様のポーションでも作り手やレシピの違いで、多くのブランドがあり、「○○のポーション」と呼ぶそうだ。それぞれ、得意分野が違うらしい。


 だが、冒険者の嗅覚か、男の性か、女性の名前が冠されたポーションに人気が集まるようだ。この店の配達物の中にも、ジェーンという女性名のブランドポーションが、結構な量、含まれている。


 一方、店内の「ジェーンのポーション」販促用のポスターは、傷み具合を見ると十年以上前のものだ。ジェーンさんて今何歳なのだろうか?


閑話休題


 さて、ポーションの効果を更に細分化すると、回復系は、体力回復、魔力回復、傷回復の3種類で、原液の希釈割合を変えて売っているようだ。


 飲んだ場合は、即効性があるが、一定量以上の服用は難しい。飲み過ぎると、水でお腹がパンパンになるそうだ。

 外傷に掻けた場合は、普通の傷なら直ぐに治るが、魔物の特定部位により受けた傷は、軽い止血効果しかなく、すべての外傷が治る神聖魔法には及ばないらしい。



 能力上昇系も細かくは、身体強化、魔力増大、自然回復力増大の3種類があり、濃度が濃いほど上昇幅は大きいが、比例して使用後の疲労が大きくなるようだ。

この副作用が原因で使用頻度が低いため、やや高価らしい。



 解毒系は、魔物が引き起こす、毒、麻痺、気絶、混乱、等の状態異常回復薬だが、その状態ごとに汎用の解毒薬はあるものの遅効性らしい。

個別に魔物専用即効性解毒薬があるため、かなりの種類の解毒薬が存在する。



 次に水薬のポーションに対し、粉薬のメディスンは、流通や保管の関係から水の入手が簡単な場所でよく利用されるそうだ。


 特に一般の病気には、何にでも効く「万病薬」には、高価な物から安価な物まであり、安い物は治療師のお布施よりも安いため、低所得者層にも利用がしやすい。


 ただ、この万病薬の開発は、一般庶民にとっては、いい事ばかりだったが、教会関係者である治療師と開発を行った薬師はもちろん、調剤を行っている薬師の間に、かなりの軋轢が今尚残っているらしい。


 俺は、その事実をしばらく後になってから、知ることとなった。


-------------------------------------------------------------------

 まとめ


 孤児院からの帰り道、花売りの少女発見!

 全部買ちゃおう、お菓子もあげちゃおう。

 花が萎れちゃってるのはご愛嬌。水筒を花瓶代わりにお持ち帰り。


 ただいま、スノーさん。

 初給料で、花束とチョコ買って来ました。

 あれ!? この花、萎れてたはずなのに、 何でこんなに元気なの?


 ブリジットさんは推理する。水筒の水を調べるんだ……ってただの水か。

 待て、花が入っていた時の水とは違う!

 噴水の水……あれにそんな効果はないはず。うむむむ……。

 考え込んじゃったよ。さて、明日も仕事だ、おやすみ~。


 あ~あ、よく寝た。よし仕事仕事。今日も配達頑張ります。

 やっぱ、休み明けは荷物が多いね。やっと終わったよ。


 それでは、勉強、勉強。ポーションは、大きく3種類で迷宮用ね。

 メディスン? ああ粉薬のことね。こっちは、一般用。


 へー、普通の病気にはあんまり神聖魔法が効かないのか。

 その際は、安価な物から高価な物まで色々揃ってる万病薬の出番です。


-------------------------------------------------------------------


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ