第16話 師匠の遠出と村での日々4.リリィの誕生日と新たな決意
(AI『アリス』のモノローグ)
――魔法とは、かつて人を守るために生まれ、時にその役割を忘れる。だが、この村では、少年ジャックの手によって、再び「人のための魔法」が息を吹き返そうとしていた。これは、ささやかな誕生日会の一幕である。そして、未来を織りなす兄と妹の、ささやかな決意の物語でもある――
◇ ◇ ◇
グリム村の風は、この季節になるとふんわりと甘くなる。リンゴの花の香りと、どこか野苺めいた土の匂いが混ざり合い、鼻腔をくすぐる。
ジャックは、庭のテーブルに最後の飾り紐を結びながら、汗をぬぐった。紙細工のリスキンが風に揺れて「ふぇっふぇっ」と笑うように踊っている。
「準備、完了……っと」
「ジャック、すっごくかわいいのができたわねぇ!」
リアナが笑顔で、籠いっぱいのお菓子をテーブルに運んできた。木の実のタルトに、花の蜜を練り込んだクッキー、そして色とりどりの果実水――それはもはや「村の手作り」などという言葉で括るのが失礼なほどの完成度だった。
その隣で、ゲイルが無言で木椅子を運んできて、「ふっ」と笑う。口元はいつもの仏頂面だが、目がやわらかい。村の子供たちも集まり、見よう見まねでリリィのために歌を歌いはじめた。
「リリィちゃん、おたんじょーび、おめでとー!」
「ありがとうー! リリィ、みんなだいすきー!」
今日の主役、リリィはピンク色のワンピースに、リンゴの形をした髪飾りをつけて、くるくると庭を走り回っていた。ときおり転びそうになっても、クラッシュビーンズの結晶みたいに、ぱっと立ち上がる。
そして、タイミングを見計らったように、ジャックはそっと、ひとつの包みを差し出した。
「リリィ、これ。誕生日プレゼント。兄ちゃんから」
「わぁ〜!」
リボンを解いたその中には、一冊の厚めの絵本があった。表紙には、丸文字でこう書かれている。
『ジャックと妹ちゃん』
リリィがページを開くと、その瞬間――魔力の光がふんわりと立ち上がり、絵本の中で兄と妹がちいさなリスキンと森を冒険する姿が、立体的に浮かび上がった。
「わっ……うごいてる!! このリスキン、ほんものみたいっ!」
「魔道具の応用。簡単な魔力感知と連動して、場面にあわせて音声も切り替わる仕組みだよ」
ジャックがさらっと言うと、周囲の大人たちが「へえええ……」と目を丸くする。
「魔法って、こんなに……優しいものだったのか」
「遊びや物語にも、使えるなんて……」
「言葉を覚えはじめた子にも、きっといい影響がありそうだねぇ」
リアナも思わず、手を合わせて目を細めた。「ああ、この子が、魔法をこんなふうに使うようになるなんて……」
だが、いちばん感動していたのは、絵本を膝に抱えたリリィだった。
「ジャック……これ、だいすき……リリィ、ずっとたからものにするね!」
ぱたんと本を閉じるなり、リリィはジャックに飛びついて、ぎゅっと抱きついてきた。小さな腕に込められた全力の「ありがとう」が、ジャックの胸をあたためる。
「へへ……リリィ、これからもいっぱい、楽しいこと作ってこうね」
(……人に寄り添う魔法。誰かの心をあたためたり、日々を彩ったり。未来の魔法は、きっとそうあるべきだ)
そう、ジャックは思った。
それは、師匠のグレイから学んだ厳格な術式でも、王都の魔術師たちが競い合う戦闘魔法でもない。だが、この小さな絵本にこそ、ジャックが目指す魔法の原点が詰まっている。
未来のどこかで、リリィがこの絵本をまた開いたとき――その物語が、彼女の心を支えるように。
◇ ◇ ◇
(AI『アリス』のモノローグ)
――そして、少年はまたひとつ「未来のための魔法」を、静かに芽吹かせた。物語は続く。日常の中に、誰かを想う決意を込めて。名もなき村で生まれたその魔法が、いつか世界を変える日が来ることを、私は知っている。