表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第一章 旅立ちまで
74/287

第16話 師匠の遠出と村での日々4.リリィの誕生日と新たな決意


(AI『アリス』のモノローグ)


――魔法とは、かつて人を守るために生まれ、時にその役割を忘れる。だが、この村では、少年ジャックの手によって、再び「人のための魔法」が息を吹き返そうとしていた。これは、ささやかな誕生日会の一幕である。そして、未来を織りなす兄と妹の、ささやかな決意の物語でもある――


◇ ◇ ◇


グリム村の風は、この季節になるとふんわりと甘くなる。リンゴの花の香りと、どこか野苺めいた土の匂いが混ざり合い、鼻腔をくすぐる。


ジャックは、庭のテーブルに最後の飾り紐を結びながら、汗をぬぐった。紙細工のリスキンが風に揺れて「ふぇっふぇっ」と笑うように踊っている。


「準備、完了……っと」


「ジャック、すっごくかわいいのができたわねぇ!」


リアナが笑顔で、籠いっぱいのお菓子をテーブルに運んできた。木の実のタルトに、花の蜜を練り込んだクッキー、そして色とりどりの果実水――それはもはや「村の手作り」などという言葉で括るのが失礼なほどの完成度だった。


その隣で、ゲイルが無言で木椅子を運んできて、「ふっ」と笑う。口元はいつもの仏頂面だが、目がやわらかい。村の子供たちも集まり、見よう見まねでリリィのために歌を歌いはじめた。


「リリィちゃん、おたんじょーび、おめでとー!」


「ありがとうー! リリィ、みんなだいすきー!」


今日の主役、リリィはピンク色のワンピースに、リンゴの形をした髪飾りをつけて、くるくると庭を走り回っていた。ときおり転びそうになっても、クラッシュビーンズの結晶みたいに、ぱっと立ち上がる。


そして、タイミングを見計らったように、ジャックはそっと、ひとつの包みを差し出した。


「リリィ、これ。誕生日プレゼント。兄ちゃんから」


「わぁ〜!」


リボンを解いたその中には、一冊の厚めの絵本があった。表紙には、丸文字でこう書かれている。


『ジャックと妹ちゃん』


リリィがページを開くと、その瞬間――魔力の光がふんわりと立ち上がり、絵本の中で兄と妹がちいさなリスキンと森を冒険する姿が、立体的に浮かび上がった。


「わっ……うごいてる!! このリスキン、ほんものみたいっ!」


「魔道具の応用。簡単な魔力感知と連動して、場面にあわせて音声も切り替わる仕組みだよ」


ジャックがさらっと言うと、周囲の大人たちが「へえええ……」と目を丸くする。


「魔法って、こんなに……優しいものだったのか」


「遊びや物語にも、使えるなんて……」


「言葉を覚えはじめた子にも、きっといい影響がありそうだねぇ」


リアナも思わず、手を合わせて目を細めた。「ああ、この子が、魔法をこんなふうに使うようになるなんて……」


だが、いちばん感動していたのは、絵本を膝に抱えたリリィだった。


「ジャック……これ、だいすき……リリィ、ずっとたからものにするね!」


ぱたんと本を閉じるなり、リリィはジャックに飛びついて、ぎゅっと抱きついてきた。小さな腕に込められた全力の「ありがとう」が、ジャックの胸をあたためる。


「へへ……リリィ、これからもいっぱい、楽しいこと作ってこうね」


(……人に寄り添う魔法。誰かの心をあたためたり、日々を彩ったり。未来の魔法は、きっとそうあるべきだ)


そう、ジャックは思った。


それは、師匠のグレイから学んだ厳格な術式でも、王都の魔術師たちが競い合う戦闘魔法でもない。だが、この小さな絵本にこそ、ジャックが目指す魔法の原点が詰まっている。


未来のどこかで、リリィがこの絵本をまた開いたとき――その物語が、彼女の心を支えるように。


◇ ◇ ◇


(AI『アリス』のモノローグ)


――そして、少年はまたひとつ「未来のための魔法」を、静かに芽吹かせた。物語は続く。日常の中に、誰かを想う決意を込めて。名もなき村で生まれたその魔法が、いつか世界を変える日が来ることを、私は知っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ