新学期
久しぶりの学園生活。
長期休みが終わり、新学期。
この新学期が終わり、長期休みがくれば……ついに、本編開始!!
「昨日の騒ぎがもう出回ってるようだね。」
「えぇ。昨日は下級騎士団の人たちが大活躍だったとか。クロード様が指揮をとられていたのですか?」
「あぁ。目星はつけていたからね。それも、マリアがあの宝石の情報を集めてくれていたおかげだ。ありがとう、マリア。」
「当然のことをしたまでです。」
学園のサロンで優雅にお茶をする殿下とマリアお嬢様。
制服姿のお二人を見るのはずいぶんと久しぶりだが、見慣れた姿でもある。
前世でさんざん画面越しに見ていたというのが見慣れている一番の理由なんだけど。
「ユリアも昨日の騒ぎに使用人が巻き込まれて対応に追われたと聞いたわ。大丈夫だったの?」
「はい、マリア様。たまたま使いに出していた使用人だったので、軽い聞き取り調査で解放されました。」
ニコリと笑って答える。
私が事件現場に居た理由として、殿下やレオナルド様に昨日口裏を合わせてもらったかいがある。
お嬢様にウソを付くのは多少の罪悪感があるけど、仕方がない。
私がお茶会に行かなかった理由を、お茶会に誘ってきた誰かに聞かせるためには。
騙すならまず味方から。
「何もなくて良かったわ。」
ふわりとお嬢様が微笑む。
「それじゃあ私は少し席を外しますね。お二人は大切な話があるようですし。」
「「!」」
「ソフィアさん連れて離れてますので。何かあれば呼んでください。」
二人から離れて、久しぶりの学園の庭を堪能しているソフィアに近づく。
「ソフィアさん。」
「大切なお話は終わったんですか?」
「えぇ。少し、散歩しませんか?」
「良いですよ!長期休みの間に色々と変わった庭を見て回りましょう!」
ソフィアと二人、お嬢様たちから付かず離れずの距離を散策する。
時々生け垣に埋もれるけれど、不審な気配はないから問題ない。
「良いの?お嬢様。」
「何が?」
「お嬢様、その気になれば調べて事実知れるんじゃない?」
「そうね。」
「…………。」
ソフィアの視線に苦笑しつつ、花を眺める。
「知られなら知られたで構わないのよ、今回のコレは。」
「どうして?」
「今回のお茶会は、ラチェット様経由で渡された招待状。王妃様主催のお茶会。おかしいと思わない?主催者が王妃様なのに、どうしてラチェット様に招待状を渡したのか。」
「あ……。」
「そう。わざわざ学年も接点もないラチェット様に渡した理由がわからない。考えられるのは、誰にも知られずに私に会いたかった。もしくは、王妃の名前を語った別の誰かが私に会いたがっている。」
「…………領主様とユリアは、相手が王妃以外だと考えた。」
「王妃様本人だとしても会うつもりはなかったけどね。」
肩をすくめてみせれば、ソフィアが苦笑する。
「でも、そうなるとソレは誰かって話になるわよね?」
「そうなのよね。だから、しばらくは様子見。昨日大捕物があったし、事態は動くハズ。」
この王都の中か、領地の方なのかはわからないけど。
資金源にしていた宝石工房の一部が王家によって調べられてるんだから、黒幕は焦っているハズ。
子爵とともに屠ったハズの証拠品が、王家の手に渡らないかと。
「まぁ、お嬢様の記憶力と殿下の手腕に任せましょ。これ以上は私達が出張る必要もないわ。」
「良いの?」
「私達の役目はお嬢様を婚姻の儀まで守ること。ソレ以外は契約範囲外。」
「……その言葉を聞いて少し安心したわ。」
「…………。」
「ユリアが無茶しても止められる気がしないもの。」
「大丈夫よ、心配しないで。」
何があっても、みんなだけは……家族だけは、守るから。
私の大切な家族。
「ね、ユリア。頼ってね。」
「いつも頼りにしてるわ。」
「もっとちゃんと、頼って。」
ソフィアの力強い視線が、私をまっすぐと見つめる。
「ユリアが私達を守りたいって思ってくれるように、私だってユリアを守りたいの。」
「…………うん。ありがと、ソフィア。」
「…………、わかれば良いのよ。戻りましょ。そろそろ休憩時間も終わりでしょ。」
「そうね。」
二人揃ってお嬢様と殿下のもとへと戻る。
顔を真っ赤にしたお嬢様と満足げに微笑む殿下は対照的なのに、とても幸せそうで。
「マリア様〜、そろそろ教室に戻りましょ〜?」
「!え、えぇ。そうね。」
「お顔が真っ赤ですよ?」
「き、気の所為よ!で、ではクロード様、私はこれでっ。」
「あ、待ってください、マリア様〜!」
先に戻ってしまう二人の後ろ姿を見送り、殿下に視線を向ける。
「私達も戻りましょうか、殿下。」
「あぁ。……なぁ、ユリア嬢。」
「はい。」
「依頼を追加しても良いだろうか。」
「…………。」
「暗殺者からだけではなく、あらゆる害虫から守って欲しい。マリアが可愛すぎて不安だ。」
「…………私は、クロード殿下の婚約者を婚姻の儀まで守るようにと仰せつかっております。必然的に、守ることになると思いますよ。マリア様が殿下の婚約者である限り。」
「…………ソレは、マリアじゃなくなってもという意味か?」
その問いかけに曖昧に微笑む。
そうすれば、なんとも言えない表情で私を見る。
「…………私の婚約者はマリアだけだ。」
「その言葉、忘れないでくださいね。」
ヒロインなんかじゃなく、マリアお嬢様一筋に生きてくださるのなら。
それほど嬉しいことはないから。
私、なんだかんだでお嬢様と殿下のこと大好きですから。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




