お茶会前日
お茶会の招待状を破棄することもできずに、お茶会まであと一日という今日。
「く……っ。」
「おー。」
「凄いです、お嬢様!!今日は一つも当たってないですよ!!」
「……、当然よ。このくらい、できるわよ。」
額に汗を浮かべるお嬢様にステラさんが称賛の拍手を送る。
私はというと、投げていた布の端切れを拾い集める。
「このくらいの速さなら見切れるようになりましたね。」
「でもまだナイフはすべて避けられないわ。」
「鉄扇で叩き落とすことができるようになっただけ進歩です。そろそろ先が尖ったナイフで試しましょうか。」
「今までのナイフも充分尖ってたと思うのだけど……。」
「何言ってるんですか?今までのは角を落として丸みを帯びたナイフですよ。人間にはギリギリ刺さらない程度の強度しかありません。」
「……後ろのマットには刺さってるのだけれど。」
「そりゃあ……ヒトじゃありませんから。」
あくまで人に影響がないものを用意しただけでソレ意外は……ねぇ?
一応、壁とか床に傷がつかないようにマットを用意したわけだけど。
訓練に使った道具をテキパキと片付けている横で、ステラさんが湯浴みの準備をしていて。
「お嬢様、準備できました。」
「ありがとう、ステラ。」
ステラさんがお嬢様を連れて浴室へと消えて行く。
何回でも思うけど…………部屋にお風呂があるって、良いよね。
湿気対策大変だけど。
片付けを終えて、固まった身体を伸ばしているとノック音が聞こえて。
「ガーディナです。ユリア嬢に文をお預かりしました。」
「私に?」
扉を開けば、ガーディナ様が手紙を一通差し出して来て。
「コースター辺境伯からお手紙が。」
「ありがとう。」
「それでは。」
ガーディナ様が立ち去って行くのを見送り、手紙を確認する。
──お茶会は欠席しなさい。王妃じゃないから──
「ほほう……?」
お父様ってば、本当に耳が早いと言うかなんというか……。
出て行った領民全員の居場所を把握してるくらいだからとは思っていたけど。
王都での仕事は全部私に任せると言っていたのに、心配しすぎじゃないかしら?
まぁ、私が王都に出てきて日が浅いというのは理由の一つかもしれないけど。
「王妃じゃないなら、誰だろう……?それはそれで、興味ある……と、裏にも何か書いてる。」
ひっくり返せば、ロイドの字で。
──入学したら詳しい話するから──
どうやら、領地の方で情報を手に入れたらしい。
ということは、子爵領を整備している時に何か出てきたのかな?
じゃあ、お茶会はドタキャンでいっか。
「うん、気が楽になった。」
手紙をポケットにしまうのと同時にお嬢様とステラさんが戻って来て。
「お嬢様、お飲み物は何がよろしいですか?」
「そうね……。何かさっぱりしたものをお願いできる?」
「かしこまりました。」
「お願いね、ユリア。」
お嬢様たちには明日がお茶会であることを伝えてあるから、今晩はガーディナ様が私の代わりにお嬢様の身辺警護につく。
外の守りは少し心もとなくなるが、お嬢様の身の安全が第一だから。
何より、私がやっぱりお茶会行くのやめましたテヘペロとか言ったらお嬢様たちに怒られること間違いないし!
ココは大人しく、一度王都の邸に戻って当主代理としての仕事を片付けることにしましょう。
王都の邸に戻れば、いつもと同じように温かく迎えられる。
ココは何回帰って来ても温かい場所だ。
「ユリア、明日お茶会なのよね?ドレス何着か出しておいたけど……。領主様から手紙が届いたの。ユリアのところには届いた?」
「届いたわよ。明日のお茶会欠席しなさいって。」
「私のところには、ユリアが興味本位で参加するって言い出しかねないなら、気絶させてでも引き止めてくれって書かれてたわ。」
「実の娘に実力行使も厭わないのね、お父様。」
というか、そこまでして行かせたくないってよっぽどのことじゃない?
「気になるわね。」
「やっぱり?領主様がそこまで言うのって珍しいものね?」
「うん。」
コースター辺境伯は中枢にも王家にも関わらないことが知れ渡っている。
コレで私が王妃に接触したら、コースター辺境伯の立場は王家と親密に見える……?
「あぁ、なるほど。そういうことか。」
お父様は私とお嬢様、殿下の関係を知られたくない。
そして私も、お嬢様の傍に居る理由を知られるわけにはいかない。
今なら子ども同士、馬があっただけと言い訳が効く範囲内。
「ユリア?」
「お父様たちの真意はわからないけど、なんとなくソレに通じる意味は見つけたわ。」
「え?」
「ソフィア。明日、ガゼル貸してくれる?」
「良いけど…………。何する気?」
「街を探索に。悪いけど、ソフィアは念の為明日一日邸から出ないで。庭の手入れは、裏から出入りして行って頂戴。」
「何、誰かに狙われてる?あの変態教師?」
「あの変態教師かその黒幕か……。断言はできないけど、邸に見張りが居る可能性はある。ソフィアと私の繋がりをココで紐づけてしまうと、調べ物に影響が出るかもしれないでしょ?」
「…………確かに。調べ物は私とガゼルでしてるから、直接的に私達の繋がりがあると疑っては居ても、証拠はない。だから、ガゼルね?」
ソフィアの問いかけにニコリと微笑めば、呆れたようにため息一つ。
「危ないことはしないでよ?」
「なるべく努力はするよ。」
「約束しなさいよ……。」
「さて、そうと決まれば早速。ガゼルと話をしましょうか。ガゼルは?」
「今日はパシってないから邸の中に居ると思うわ。」
ソフィア中心で動いてるのかしら、ガゼル。
あまりの従順さに、マルクル様が見てビックリしなければ良いんだけど……。
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