東1局8本場:告白
「白夜さんっ! 私を彼女にしてくださいっ!!」
「……断る。言っただろう。俺は大切な人をつくらないって。お前みたいな俺の人生に不要な人間の相手をしている時間も、余裕も、理由もない」
昨日、逃げ出したくせに、この女は何を言ってやがる。甘いんだよ。
「……なら、白夜さん提案です。私と賭けをしませんか? 私が勝ったら、白夜さんの彼女にしてください。私が負けたら、最後に『麻雀の歴史展』でデートしてください。それで終わりにして、私は二度と白夜さんの目の前に現れません」
「……俺へのメリットが薄すぎないか? 拒否する」
白夜さん――軍星さん――は、やさしい。
だから、私みたいな、白夜さんの言うところの「もぶきゃら」である私が、必要以上に関わらないことでその命を守ろうとしてくれている。
食堂はなおかにいるほかの客が「痴話げんかか?」というように、興味本位の目で見てくる。
俺は睨みつけて、その目を追い払う。
「……あれー? 白夜さんってもしかして、自信ないんですかー? すご~く麻雀が上手いっていうのに、単なる一人の女子高校生の挑戦もウケられないほどザコなんですかぁ~?」
私は煽る。
人間を怒らせて本音を聞き出そうとするのは、情報を得るための常とう手段。
だから、あえて煽る。
「……そんな安い挑発にノるかよ」
「まぁまぁ、白夜よ。お前の実力なら、嬢ちゃんくらい簡単に倒せるだろ? 倒して、最後に1回だけデートしてやって幸せな思い出だけ残してやったらどうだ?」
シゲさんが俺に向けてそう言う。
確かに、シゲさんの言う通りか。
この一回で、この邪魔な女が二度と現れなくなるなら……。
「……仕方ない。受けてやる。 ……ただし、実力差がありすぎるからBルールで良いならな」
Bルール。
要するに強いほうの持ち点を1万点にするハンディキャップバトル。
当然3万点以上獲得しないといけないのはそのまま。
「……いえ、それでは納得できません。Aルールでお願いします」
Aルール。
一切のイカサマも、ローカル役も、ハンディキャップもない。要するに、普通の麻雀。
一番実力が試されるルールであり、ゆえにこそ一番残酷なルールでもある。
「……お前ごときが俺に勝てると思ってるのか?」
「勝ちますよ。そして、白夜さんの彼女になります。なってみせます」
「無礼んな」
「そっちこそ、私の本気と執念と根性を否定するな」
そして、対局が始まる。
□■□■
「……聴牌。俺の勝ちだな」
中原の打ち方は、どちらかというとネット麻雀をよくやりこんでいるという印象だった。
ゆえにこそ、ある意味で「素直」な打ち方。
だからこそ、絡め手を用いれば簡単にハメて打ち取ることが出来る。
「……私の負け」
決して打ち筋自体は悪くない。
だが、残念ながら実力差がありすぎた。
「……約束通り、一度だけデートをしてやる。それで終わりだな」
「……わかりました。時間は、また、連絡します」
そいつは泣きながら帰路へと着く。
結局、ノーテンで終わった。大事な勝負で勝てないやつは、こちらの運まで下げてくるから浮揚なんだ。
「白夜、どうだ。久しぶりに負けた気持ちは?」
「……シゲさん、何言ってるんですか? 俺の勝ちじゃないですか」
「嬢ちゃんの捨て牌をよく見てみろ。お前が負けたという理由がわかる」
シゲさんに言われて俺は河を見る。
そして、驚愕する。
「……なんで、これを宣言しなかったんだ」
「さぁな。まさか『知らなかった』わけではないだろう。その真意は、嬢ちゃんにしかわからんな」
唯一、手牌で完成させない手が麻雀には存在する。
それは、対局開始から字牌と言われる、東、南、西、北、白、發、中。
それに加えて、老頭牌と呼ばれる萬子、索子、筒子の1と9の牌を誰にもポンやチーという横取りすら許さずに捨て続けることで完成する役。
流し満貫
「ワシと雀荘のスタッフはお前たち二人の戦いだから、口を挟まなかった。そして、嬢ちゃんは和了を宣言しなかった。お前は悲劇の主人公みたいな面をして、人の河も見ていない。素人以下の打ち方をした。少しは恥ずかしいと思うんだな」
「……あのアマ舐めやがって」
「それが、お前の限界か」
突如、俺の腹部にダメージが来る。
シゲさんに殴られた。そう気が付いたときには、足払いをかけられて転び、頭を足で押さえつけられていた。
「お前、もう生きなくていいよ。もし、生きたいなら、少しくらい周りを見ろ」
そう言い残し、シゲさんも帰っていった。
「……そんなこと言われても、俺は死にたいんだ」
夜は更けていく。
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