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東3局5本場:無双

「ロン」


「ロン」


「ツモ」


「ツモ


「ツモ」


 そこからの白夜は鬼神という言葉が適切であろうか。

 もはやタネが割れてしまった余剰牌のすり替え。

 それまでは分からなかったが、一度でもそのネタが分かってしまえば白夜ほどの実力者であれば簡単に見破ることが出来る。

 ゆえに、一色清美は――終わった。


「ロン。その牌で地獄に落ちろ」

「ダブロンです」


 中原みなみも「実戦経験」という面では心もとない。

 しかし、白夜。六道軍星という男と共にありたい。そう思い、そう願い、鍛え続けてきた腕。

 そして、数々の雀荘を出入りしていたために身についた「欲望への嗅覚」とでも呼べばよいのだろうか?

 どうしても「この牌」が欲しいと思う心情を読み切り、危なっかしいながらも致命的なミスだけは犯さない。

 ゆえに、実力でこの二人に勝つことは不可能であろう。


「白夜様。トリロンですので流局でございます」


 そう、麻雀というものは極論を言うと「運ゲー」なのである。

 運以外の要素をできるだけ塗りつぶし、最後に残った純粋な「運」だけをぶつけ合う格闘技である。

 この運という不確定要素の前では、実力者でさえも無為に終わることもある。


「白夜様。天和でございます。ゆえに、私がトップで終了ですね。清美さんがこんな状態ですので、10分ほどお休みをいただいてもよろしいでしょうか。よろしいですね」


 運だけで成立する手役であれば、こうして実力者であっても無力になる。

 それが、麻雀の楽しさでもあり、怖さでもある。


――


「……途中までよかったのに、なんであの場面で天和なんですかっ!!」


 中原みなみが悲痛な絶叫をあげている。

 無理もない。

 圧倒的に有利に進んでいた状況。

 それをたった1手で逆転されたわけだから。

 麻雀で勝つための手段は、誰よりも早く上がる。そして、誰よりも高く上がる。

 突き詰めるとこの2つしか手段はない。

 例えるのであれば、白夜の打っていた手はボクシングで言えばジャブを連打しているようなもの。

 一撃の重さは無いが、あとで手遅れになるほどのダメージを蓄積させる。

 対して、先の一色字美はアッパーカットで一撃ノックアウトを狙うようなものである。


「あぁ、一色姉はイカサマしてたからな。お前が見破れるかな? って試したけど無理だったみたいだな」


 こともなげに言う白夜。

 その顔は、常の自信を喪失し感情を読めない目ではなく、自身が勝つことを確信している自信に満ち溢れていた。


「……イカサマですか?」

「あぁ、余剰牌入れ替え。もはや芸術のレベルだ。俺も一瞬指摘するのが遅れて指摘できなかったから通した」

「そんなのされたら、もう勝てないんじゃないんですか?」

「勝てるよ」

 

 もはや白夜の中で「勝つ」という事は確定事項である。

 あとは「どう勝つか」という詰めの段階なのであろう。

 どうやったら、一色姉妹の心を折り、脳を破壊できるかという段階なのだろう。


「まぁ、一番いいのはこの休憩時間で帰っちゃうことなんだけどな。あいつらに付き合ってやる理由も必要もないからな」


 そこで、白夜は一息つく。


「……あいつらはここで終わらせる。この因縁と因果はここで絶つ」


 白崎舞を勝てるはずの戦いで失った後悔。

 それをこの場で終わらせる決意。

 ゆえに、白夜は鬼となった。


「休憩が終わった後、あいつらはもう一度も上がれない。俺が全部上がる」

「……軍星さん、まさかイカサマしないですよね?」

「あいつらと同じレベルに落ちろって? 冗談。普通に勝てるんだよ。普通に打てば」


 漢の意地と誇りをかけた戦いの終焉は近い。


「そういえば、みなみ。お前よく牌を4枚も残したな。カンもしないで。役無いじゃねーか」


 白夜はみなみがイカサマを指摘したことを思い出し、質問をする。

 自分と、茂索の二人で見破ることが出来なかったイカサマ。

 それを見破ったファインプレー。それが無ければ、展開は厳しかったかもしれない。


「……なんか、声が聞こえたんです。『その牌は捨てないで』って。なんかおかしいですよね。緊張で私おかしくなっちゃったのかなって思ったんですけど、結果としてああなったんですよ」

「ちなみに、どんな声だった?」

「……女の人です。多分20歳くらい? 優しそうな声でした」


(軍星、勝って)


「……………………舞か? 舞なのか!?」


 その声はかつての恋人。

 そして目の前には自分のことを慕ってくれる人。

 もはや、白夜が負ける要素は無い。

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