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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第7章 別れたる思い
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7-4 明ける未来は光か闇か


◆エスティール


 舞台になっている世界、および大陸のこと。3つの小大陸が、創世の湖を中心に置く形で接続されて形成されている。

 

◆カジャーン

 

 エスティール南東側の小大陸。西側は中立地帯であるカシュナート高原と砂漠が広がっており、砂漠に位置するファーマーンが最盛期は小大陸全体を支配していた。バイハラはこの小大陸の東部、大陸全体の南東の果てに存在する。

 

◆イーズ

 

 エスティール北東側の小大陸。南部の肥沃な土地は帝都カハンを中心にドゥネ=ケイス本土領で、北部の雪原地帯にその傀儡と化したウィンダリア王国が存在する。

 

◆プレイリア

 

 エスティール西側の小大陸。中央に位置する、エルフの拠点であるアーサレの森を境に、北はホークガルド王国、南はアイラン王国領となっている。

 

◆ドゥネ=ケイス戦役


 80年前から10年前まで続いた、魔神を信仰するドゥネ=ケイスと人間勢力との戦争。かってのドゥネ=ケイスの指導者であった魔神『ン=ドゥ』が打倒されるまでを前期、その10年後に現在の大ハーンが全権を掌握したあとを後期として分けることが出来る。

 

◆バイハラ

 

 カジャーン小大陸東端に存在する大都市並びに都市を中心とするドゥネ=ケイスの自治領。かっては共和制の独立国だった。

 

◆ディナールとディルハム

 

 ドゥネ=ケイス領内の貨幣単位。1000ディルハム=1ディナール。

 

◆バイハラ一等市民

 

 バイハラ市民のうち毎年高額(50ディナール)の市民税と市民軍への2年の従軍経験のある者のみが一等市民として市民公会の参政権を持つ。

 

◆バイハラ二等市民


 市民税を支払えないが取引税などの形で税を納めており、そこから参照される形で登記される市民の事。ドゥネ=ケイスによる占領以後は受けられる公共サービス等の面で一等市民との差が埋まりつつある。

 

◆バイハラ市民公会

 

 かっては共和国の最高機関であった一院制議会。現在は総督府の監督の元で自治を受け持っている。

 

◆自治領総督府

 

 現在のバイハラ自治領の最高機関。市民公会に対する監督権と、その決定に対する拒否権を行使することでバイハラを間接的に支配している。

 

◆帝都カハン

 

 ドゥネ=ケイスの都。かってはウィンダリア王国の都であったが、ドゥネ=ケイス戦役の開戦以降は小鬼オークの制圧下にある。

 

◆サハルカハン

 

 かってウィンダリア王国が遷都を前提に建設したカハン近郊の都市。ドゥネ=ケイス戦役の中で幾度も戦場と化し、中でも20年前の虐殺の凄まじさは語り継がれている。現在は小鬼オークと人間の街区が互いに交わらない形で街壁内に存在している。

 

◆貴族

 

 ウィンダリア、アイラン、ファーマーンの3つの古王国には、それに仕える貴族階級が存在する。エスティールで『姓』を持つのは彼らだけである。


 

―――――――――――――――――――――



「ねえねえチェザレアお姉ちゃん、姓ってなに?」


 半小鬼ハーフオークの女の子が、教科書を読みながら翡翠色の髪の少女に問う。

 

「産まれたおうちの名前よ。昔立派な事をした家の人は、おうちの名前を持ってるの。レーラも立派な事をすれば貰えるかもね」


「でもチェザレアお姉ちゃんは立派だけど、おうちの名前持ってないよね?どうして?」


 レーラの向かいに座ってお勉強をしていた、半小鬼ハーフオークの男の子がそこに突っ込んだ。


「そうね、だけどバイハラにはおうちの名前を残す制度が無いの。そのうち、何かできるかもしれないわね、テッド」


 テッドはどこか納得していない顔だ。


「でもさ、でもさ、昔立派な事をした人でも、今のおうちに立派な人がいるとは限らないでしょ。そんなのよりチェザレアお姉ちゃんの方が立派だよ」


「ふふふ、ありがとう」


 チェザレアが柱の時計に目をやると、午後8時を過ぎていた。

 

「あら、もうこんな時間。さっ、そろそろしまいにしましょう」

 

「はーい!」

 

 レーラとテッドを含めた孤児たちは、教科書をしまってそれぞれの寝床へ戻る。

 

「お姉ちゃん、良いお年を!」


「良いお年を……」

 

 パタパタとあわただしい足音を立てながら、孤児達は自分達のベッドへ入っていった。

 

 一人になった部屋の中で、チェザレアは遥か北にいる5人を想う。

 

「……うまくやっているかしら」


 特にルジェとカーラは半ば無理やり連れて行った形だ。

 

 彼らに苦難を伴う冒険クエストを与えたのは自身。しかし、その成否とは無関係に、彼女は一行の無事を風の精霊に祈った。

 

「クォーターの私の祈りを、精霊は届けてくれるだろうか……」

 

 小鬼オークは精霊たちの1万年に及ぶ歴史の中で、つい十数年前に転向した改宗者だ。

 

 過行く水精の年を思い返しつつ、チェザレアは今後の為の計画を練る。

 

「……一歩先は、破滅への道か……」


 ノートに筆を走らせる。

 

「お父様を通じて、市民公会内にシンパを築き上げつつあるのはいいのだけど……」

 

 派閥の指導者として、あの5人が帰還しない最悪の可能性も考えなければならない。

 

「もし、大ハーンがそれを、人間との再戦を望むとしたら……」

 

 チェザレア自身はそれを望まない『独立』の文字が頭をもたげる。

 

 隣の寝室から、孤児たちの寝息が聞こえてくる。

 

 自分は彼らの為に戦っている、それを誰にも否定させたりはしない。

 

「……」

 

 ふと、彼女の意識に、あの青髪の青年の姿が入り込む。

 

「……どうして、すんなり私のものにならないの?あなたに他に道はないのに……!」


 頭をよぎった彼の姿を振り払い、少女は思案を重ねた。

 

 

 夜が更け、年が明ける。

 

 

― 天精の年、1月


 チェザレアはまだ、自らに待ち受ける過酷な運命を知らない。

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