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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
幕間6 魔神王降臨
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幕間6-1 魔神王降臨す?



― 天精の年、7月12日 ハーマンシュタイン



 3ヵ月の長きに渡る包囲戦で、既に食料は付きかけていた。

 

 徴発しようにも、既にアルバート一人の手の届くところにある食料は使い果たしている。

 

 今は夏期だからまだ持ちこたえているが、雪が降り始めれば餓死者と凍死者で街はあふれかえるだろう。

 

 

「…………」


 王城内の食堂。アルバートにとって誤算だったのは、=ドゥネ=ケイス側の体制立て直しの早さと、そして、何よりウィンダリアという地理条件だった。

 

 チェザレアと同じく2月に実権を掌握した彼だったが、ドゥネ=ケイスにとって最前線であり豊富な経済力と駐留軍が存在したバイハラと、辺境であったハーマンシュタインでは条件が違ったのだ。

 

 それでもアルバートは兵士の徴募を行い、また傭兵を集い、3月初旬には玉石混合ながら1万名程の軍隊を築き上げた。そして、魔神信仰派の混乱に乗じてカハンへの侵攻を開始したのだが……

 

 街道を通ってカハンの前門要塞へ総攻撃をかけたはいいものの、クラウザーは主力をアルバートに当てて消耗させる愚を避け、開拓都市パランニールとハイネル湖左岸からハーマンシュタインへ攻め上がって、物量とそれを支える兵站を生かした両翼作戦を展開。

 

 こうなってはアルバートとしても本拠地を奪われないために後退せざるを得ず、4月にはハーマンシュタイン城下に追い詰められた。

 

 アルバート個人の武勇で敵の強襲こそ何度も撃退したものの、ツンドラ地帯ゆえに徴発できる食料は限られ、兵士達の脱走が相次いでいた。

 

「母様、おれは父にも、貴女にも及ばない男だったのか。……」


 彼もまた結社の一員であったから、=ドゥネ=ケイス側にも彼らが手を貸していること、そしてミストラル自身の最終目的もそれとなくは知っていた。

 

 しかし、

 

「傷だらけの華、我らが総大主教グランドマスターよ。おれもまた、貴女にとって単なる兵士ポーンの駒の一つに過ぎなかったと言うのか……」


 あの時、彼女自身が簒奪に手を貸した時、アルバートは自身が彼等にとって最大の手駒であることを確信していた。

 

 しかし今、彼は自身にとってかませ犬に過ぎないだろうと思っていた、ドゥネ=ケイスの残党に追い詰められている。

 

 ……アルバートは、おがくず入りのパン(それでも、君主である彼の為にまさしく絞りだされて用意されたものである)を食いつめつつ(食料の渇望に、貴族としての本来の食事のマナーも失われつつあった)、降伏以外に次善の策がないか考えを巡らしていた。

 

 

 

 一方、=ドゥネ=ケイス側の陣地。

 

 

 この日、最前線に大ハトゥンが姿を現した。

 

「どうか?」


 包囲軍司令官である鬼巨人トロールのダッダが答える。


「ハッ。敵の食料は既に尽きているものの、今だ降伏を受け入れません。アルバート王の武勇が最後の希望となっている模様です」


「なれば、それを断てば良いですね……私はこの地で魔神王の降臨を準備します」


 カトリーヌから降臨の言葉が出ると、黄緑色の肌をした巨人は驚いて、


「こ、ここで、ですか?魔神王の降臨を?」


 と、巨体に似つかわしくない間の抜けた返事をする。


「そうですよ」


 彼女の後方には、10名の有毛種の魔術師が控えている。

 

「では、早速始めます、ダッダは離れて下さい」


 大ハトゥンは、その場にオーブを置くと、有毛種たちに魔法陣を組むように指示する。

 

 有毛種たちは、地上を杖でひっかき魔法陣を形作っていく。

 

「EL……DOALG……」


 マナが、魔法陣に集まり始めた。

 

 

 

「陛下ッ!!敵包囲網後方にマナが集中していますッ!!」


 アルバートの側近の魔術師、枢密院議長『巧緻』のノリッジが食堂に入り報告する。彼はウィンダリア最高位の地精魔術師にして官僚であり、カーラが多用する『ウォール』の魔法の生みの親である。

 

「……大ハトゥンと、いよいよ魔神王の御出ましやも知れぬ。……守りを固めよ」


 アルバートの持つ精霊器『天剣アインヘリアル』では、天の魔神王『ガム=ド』にはまかり間違っても手傷を与えられまい。アインヘリアルがマナを吸って天属性の刃を形成する以上、それは同じ属性の『ガム=ド』には通じないのだ。

 

 せめてアル=サイードの愛弓であり、天属性を食らう地の精霊器『地弓ジャムシード(例の『エスティールの封印』のテクストには違う名前で記載されているが……)』ならば、水の魔神王『ダ=ジム』をその弱点たる天属性のアインヘリアルで鎮めた赤毛のジャックのように……

 

「……無いもの強請りしても仕方あるまいて」


 アルバートは覚悟を決めた。ここで逃げる選択肢はない、魔神王を倒すか、死ぬかだ。

 

 彼の手元には、アナーリから奪った『空の器』が、黒い輝きを放っていた。

 

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