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半亜人(ハーフ)と共に行く精霊世界ーエスティールに吹きあがる炎  作者: 水素(仮名)
第17章 愛は流れない
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17-9 6月の儀式



― 天精の年、6月24日



 選挙がひと段落し、ドゥネ=ケイス共和国は新たな体制へ変革した。

 

 共和国大統領に、元外相兼首相代行マクガイダ。

 

 市民公会の議席、定員100名中『保守派コンサーバー』62名、『国民同盟ナショナレ』24名、『新市民派ポプリスタ』14名。

 

 庶民院の議席、定員100名中『新市民派ポプリスタ』45名、『国民同盟ナショナレ』44名、『保守派コンサーバー』11名。

 

 『国民同盟ナショナレ』と『保守派コンサーバー』の連立により、共和国首相には『保守派コンサーバー』のマインツ議員が就任する。

 

 党重鎮となったセトも庶民院議員となり、内閣に国防相としてその座を占めた。

 

 逆に言えば、彼は国家の重鎮として、もう自由に動けないことも意味する。

 

 

 それらよりはるかに目立たないバイハラ市長選挙の結果は、始まる前から決まっていた。

 

 ……そして、そんな事よりはるかに重要な出来事が、ルジェとチェザレアには6月の末に待ち構えていたのだ。



― 天精の年、6月30日



 エスティールにおいて、別に6月はその出来事に相応しい月ではない。

 

 しかし、その月の間に二人はその式を済ませておきたかったのだ。

 

 『流血の6月』の余波に震える市民にも、その結末としてせめてもの明るいニュースを振りまいておきたかった。

 

 

 精霊の代理人として、その契約を見届ける役割はセトが請け負った。彼自身もその出来事を済ませて置きたかったが、この二人を優先したかったのである。

 

 他の閣僚も軒並み出席している。……そして、バダラカと孤児たち(ビビッティは留守を任された)。


「……チェザレアお、お姉ちゃん……」


 ダーラが、チェザレアに頭を下げると、


「ご、ごめんなさいッ!!」


 言ったとたん、彼は式場を飛び出していく。


「……全く」


 迷子にはならないと思うが、バダラカにそれとなく探すよう指示するチェザレアだった。


 

 そして、カーラ、アナーリ(この式に出る為帰国を見合わせていた)、ディアナ。二人の関係者は軒並み出席していた。

 

 そして、ルジェの両親も……

 

「……本当、半年前とは他人だな。誇らしい、何て月並みな言葉では言い表せねぇ」


 父の言葉に、


「変わらないよ、俺は。」

 

 さらっとルジェは、返す。

 

「こ、この、このバカ息子が……」


 父は、この言葉と共にルジェを殴り飛ばすつもりだった……だけど、流石にもう、それは出来ない。

 

 にぎった拳が、震える。

 

「まだ俺を殴り飛ばす気概があるなら、アルフの為に殴ってくれ。アイツを騒乱に巻き込んだのは、紛れもなく俺だから」


 ……殴れない。

 

 父の震える手を、ルジェは抑えてぎゅっと握った。

 

「ばか、息子が……それは、アルフの親の仕事だろ……」

 

 彼は涙を流しつつ、来賓席へ戻る。

 

 

 心残りだったのは、チェザレアの父ヴァシリーを案内出来なかったことだ。

 

 彼の行方は、依然として知れない。

 

「…………」


 

 こうして、黒いタキシードが似合わないルジェと、煌びやかなドレスが似合うチェザレアが、セトの立つ演壇に上る。

 

「汝、ルジェーロ=ドミットル・デ=マィオーニに問います。汝はこの女を愛し、生涯を共にすることを精霊に誓いますか?」


「誓います」


「汝、チェーザレ=アージュ・ム=バイハラに問います。汝はこの男を愛し、苦楽を共にすることを精霊に誓いますか?」


「誓います」


 ……僅かな沈黙の後。

 

「では、誓いの接吻を……」



 こうして、バイハラ市長ルジェと、その妻にして秘書チェザレアが誕生した。

 

 この日、沈黙を続けていた海上都市アクエリアもバイハラに使節を送り(戦乱の状況を見て、いずれがドゥネ=ケイスの後継者となるか見定めようとしていたが、双方がそれを放棄したことで自国の立場もまた独立勢力として確保しようとしたようだ)、互いに講和。大陸東側の戦乱は、ハーマンシュタイン包囲戦を除いて終結した。

 

 同時にドゥネ=ケイス共和国もその役割を終え、国号を『バイハラ共和国』へと戻す国民投票を行い、承諾された。

 

 平穏がエスティールを包んだかのように、多くの人々には見えた。


― 天精の年、7月6日


 市長夫妻の主催で、今度はセトとカーラの結婚式が執り行われた。


 新郎新婦の身長差のせいで、誓いの接吻がうまくいかなかったことだけが心残りとなったが、祖国を守った英雄たちの新たな門出を人々はほほえましく見送っていた。国民同盟ナショナレ幹部の結婚という事もあって、(党首であるルジェの結婚式よりも)多くの党員が出席している。


 憲兵隊により南街区と北街区の治安維持機構も整備され、北街区の復興も始まり、他国からの侵略の可能性も結果的に排除された。チェザレアの望んだ世界、半人ハーフだろうと普通の人間や小鬼オークと共に平和を謳歌できる世界が、少なくともバイハラでは実現したのである……


 それが、見せかけだけのものだとしても。


 次の、そして最大の火種が結果論とは言え彼らの戦いが一因でばら撒かれた事に気づいている者は、ほんの一握りだった。


9章までを第一部とすれば、この17章までを第二部としてこれで終結となります。ここで、見かけ上ほぼ完全なハッピーエンドとしてストーリーを完結させる案もありましたが、やはり、まだまだルジェとチェザレアには地獄に付き合ってもらおうと思います。

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