17-4 愛を取り戻すために
初弾の直撃と共に、『ガル=ディ』の本体は大きく軋む。
「な、……何お、した……」
インコの頭が、ガイアスの声で訪ねる。
― 刹那
二発目、呪文により初速を強化された上、重力加速度を遮断された直径40cm球状の砲弾が、『ガル=ディ』に直撃した。
『ガル=ディ』が大量の血を流しつつ揺らめく。マナによる浮力を増し、高度を上げようとするが……
「次です!!1番砲、2番砲は再装填を開始、弾道計算をやり直して!3番砲、4番砲射撃用意!同時に呪文詠唱用意!」
アナーリの陣頭指揮のもと、ファーマーン神官団の呪文詠唱と砲兵隊の弾道計算が同期されていく。
砲術士官が弾道計算を終える。重力加速度はフェザーの魔法で打ち消すことが出来る為、空気抵抗、気圧といった他の諸条件を考慮に入れた数値となる。
「角度を仰角45度に修正!……敵がこれ以上高度を上げたら、こちらの砲では取れる角度が足りません!」
「それをさせない為にも、3番砲、4番砲、点火!」
「ラ=クラウレア=フィン…」
砲口に火種が放り込まれ、同期して砲弾に呪文が掛けられる。2門の同時射撃によって、『ガル=ディ』は遂にその中枢に直撃を受ける。
砲弾には神官団により『命中せよ』という祈りが込められていた。精霊の加護により、計算された弾道はさらに僅かながら『ガル=ディ』へ当たるように修正され、確実な命中を保証するのである。
「5番砲、6番砲用意!!」
『ガル=ディ』は状況に気付き、魔法で砲兵陣地を攻撃しようとするが、
「ラ=セレスティア=ビステ、汝の力で汝らの力から守れ、マジックシールド!」
天魔法は火魔法に次いで神官団の得意分野。ほとんどが鳥の頭でも詠唱可能な低級魔法であったことも手伝い、そのほとんどが強固な何十もの魔法防御網を突破できなかった。
「5番砲、6番砲、点火ッ!!」
止めと言うべきだった。
「あががががが……」
大量の血を失った『ガル=ディ』は、巨体を維持するための5つの心臓のうち3つを砲撃によりまた破壊されていた。一時上昇しようとした高度も、今や地上すれすれを維持するのがやっと。
……しかし、皮肉というべきか。あのペリカンの頭だけは無傷である。
『ガル=ディ』には最後の手段が残されていたのだ。
「き、貴様らぁ!!何てことを、何てことをするんだぁ……」
『ガル=ディ』はペリカンの頭の、嘴を開ける。
「貴様らの『国家元首』様に!!!」
戦場中に聴こえるよう、『ガル=ディ』の声は大音響で響く。
くちばしの中には、気を失ったチェザレアの姿があったのだ。胸から上だけを肉の壁から出した状態で。
「コイツの肉体はもう俺の肉体と連結してる、俺なしじゃ生きられないだよ、アハハハハハハハ!!!!どうだ、それでも俺に止めをさすか?いや止めじゃないな、俺は肉体が滅びても精神だけになり魔界に戻るだけだが、コイツは死ぬ。死に損だな、アハハハハハハ!!!」
『ガル=ディ』がかろうじで保っていたガイアスとしての人格は崩壊しており、魔神の純粋な狂気だけが木魂している。
「惑わされるなッ!肉体が連結された以上もうお嬢様としての人格はあの肉体には残っていない。……1番砲、2番砲、再装填は完了したな、撃てッ」
アナーリは砲撃を続けようとする……が……
「だ、駄目だ……撃てない、撃てねぇよ……」
砲兵たちは、火種を入れる事を拒否する。……例え失策があっても、チェザレアは彼等の指導者だったのだ。
「人格が残っていないだぁ、ハハッ、じゃあ聞かせてやろうか、コイツの声をよぉッ!!」
チェザレアが意識を取り戻す。
「……みん、な……」
流される、涙。
「……そうか、もうすぐ魔神を倒せるのね」
自分の心臓を動かしているもの、生命維持が魔神によって行われているのを、チェザレアはそれとなく察した。
「チェザレアッ!!」
魔神の落着地点に急いだルジェが、魔神に飛び乗ろうとする。彼に襲い掛かる、魔神の首を切り裂いて。心なしか、その表情に生気が戻る。
「ルジェ君……」
「今助けてやる。そこで待ってろ」
短剣にワイヤーを付け、高度を何とか上げようとする魔神の肉体に突き立てる。
「もういいの。私は結局、屍の上には立てなかった」
魔神は高度を再び上げ、ベルトに接続されたワイヤーはルジェを吊り上げた。
「それを踏み越えるんだ、俺たち二人で、こんなところで死にたくないだろ!」
ルジェはワイヤーを伝い、魔神へとよじ登る。
「……」
地上では、『ガル=ディ』の鳥の首による攻撃が再び激しさを増していた。
「見ろ、魔神殺しのルジェが奴に飛び乗ったぞ!!」
「チェザレア様は奴に任せろ、俺たちは……俺たちは、権威者、どうかご指示を!」
兵士の声を聴き、それを目視確認したアナーリは指示を下す。
「……首に対しては踏みとどまって応戦。……本体は……本体は……」
さしもの彼女も、非情になり切れなかった。何より、『*虚無*の欠片』がこの状況にどんな答えを出すか、彼女は見てみたかったのだ。
「苦戦しているようだね、アナーリ」
後方から、聞き覚えのある声がする。
「セト、どうやってここに?」
振り返ると、馬に乗ったセトが姿を現した。
「砲の操作はカーラでも出来るからね、彼女に権限を移してきた。意外と彼女、あのおもちゃが気に入ったらしくて……」
「軽口を言っている場合じゃないですよ!」
「まあまあ落ち着きなさい。ここまで行ったのならもうあの二人に、僕らの助けは必要ないよ」
普段のへらへらとした口調で、
「……ここで死ぬようなら、それはそれ。僕らが役割を引き継げばいいのさ。あとは二人に任せなよ」
とさらっととんでもないことを言うセト。
…………アナーリは、少し顎に手を置くと、
「あなたの言う通りかもしれませんね。……では信じましょう、ルジェ君とお嬢様を」
セトに向かっていう言葉はここまで、アナーリは権威者として指示を兵士達に下す。
「同士討ちを避け、敵本体への攻撃を中断。ルジェ解放軍司令の首尾を見守る」




