おまけ・3 アイリの誕生日
本編から十五年後位のお話です。
イゼットとアイセルの息子、アイリ視点になります。
明日は私の十三の誕生日。
家族が隠れて秘密の誕生会の準備をしているのにうっかりと気付いてしまう。
大真面目に取り組んでいるので、こちらも全力で気づいていない振りをしなければならない。
祖父はこの前読みたいと言った本を、異国の地まで買いに行ってしまった。
一人で大丈夫だろうか? とても心配している。
祖母は大きなケーキを作ろうとしていた。毎日忙しそうにしている。
どれだけ大きなものを計画しているのか。初めて見たような反応が出来るか不安だ。
伯父は昨日お酒を持って来て渡してくれる。
伯父は父に、「誕生日を間違っている! それにまだ酒を飲める年齢ではない!」と言われ、肩を強く叩かれていた。
相変わらず、父の伯父に対する当たりは強い。
面白いからいいけれど。
母は慣れない針仕事をしているようだ。手先が悲惨なことになっている。
あまり無理はしないで欲しいと思った。
父はよく分からない。
いつも通り、家の中ではゆるい態度で居る。
父方の祖父母一家が経営するパン屋に行けば、挙動不審な動きをする祖父と鉢合わせになった。目を泳がせながら、「よ、よくぞやって来たな、わが孫よ」と普段より迫力に欠ける言葉を掛けてくる。
祖母はいつも通り笑顔で迎えてくれた。
毎年のことだけど、盛大な誕生日を秘密裏に計画してくれるのは嬉しかったが、なんというか、もう少し隠す努力をして欲しいと思った。
誕生日当日。
祖父に呼ばれて広間に行く。
もう十三歳なのに、祖父は手を握って連れて行ってくれる。
剣の稽古をする時は厳しいけれど、家に居る時はどこまでも甘いお祖父さんである。
……というか、祖父はいつ家に帰って来ていたのか。
まあ、生きて帰って来たので良しとする。
部屋の扉を開けば、家族みんなが並んで迎えてくれた。
「アイリ、お誕生日おめでとう!」
「……はい、ありがとうございます」
上手く驚いた顔が出来ていただろうか? 誰かに聞いて確認をしたい。
「アイリさん、わたくしがケーキを作ったのよ」
「……わあ」
とても大きい。というか、大き過ぎる。
祖父の身長位ありそうなほどの巨大な五段重ねのケーキだった。
凝り性な祖母は果てしない高みを目指してしまう。
一体何人分あるのだろうかと気になってしまう。
顔面蒼白になりながら、使用人がケーキを切り分ける。
祖母が苦労をして作ったものなので、倒したら大変だ。
なんか、こういう高い塔みたいなものを倒したら負けみたいな遊び道具があったなと思い出してしまった。
「アイリ、我からも贈り物だ」
「……わあ」
全十巻からなる貴重な魔道書。
残念ながら九巻が抜けていた。惜しい。
「アイリ君~、伯父さんからお酒」
「だからまだ酒は飲めねえって言っただろうが!!」
酒を渡そうとする伯父に全力で突っ込みを入れる父。
なんだか宴の一発芸を見ているような息の合い様だった。
伯母からは懐中時計を貰った。猛禽の姿が彫られていて、とてもかっこいい。
「私は、今日の為に特別なパンを作って来たぞ!」
父方の祖父は竜を模したパンを作って来てくれた。精巧な仕上がりで食べるのが勿体ない。
あの時、鉄板の上に乗っていたのは竜の尻尾だったのかと今になって気が付く。
父方の祖母は手作りのお菓子の詰め合わせを贈ってくれた。祖母の作るお菓子はどれも美味しいので嬉しい。
母からは刺繍入りのハンカチを貰う。
幸せを司る大精霊を糸で刺したと言っているが、これは本当に精霊の姿なのか。まあ、うん、大切なのは気持ちだ。ありがたく頂くことにする。
母の十本の指先全てに包帯が巻かれていたが、見なかったことにした。
父から手渡されたのは、カメオ台に魔石が嵌め込まれたペンダント。
「な、なんだ、それは!!」
箱を開けばなぜか母が食いつく。
父が家族に宝飾品を贈るのは初めてなので、もしかしたら羨ましいのかもしれない。
母には「今度な」と言っていた。
「炎の魔石を特別な製法で精製したものだ。まあ、役に立つ日が来るかもしれないからな」
「ありがとうございます、父上」
私は他人より魔力の量が多く、先天属性が氷なので何かあった時の為に高位魔石で力を相殺するようにと父から言われる。
贈り物の授与が終われば食事会となった。
ますは祖母の作った特製のケーキを戴く。
「すごく、美味しいです」
「よかったわ。たくさん食べてね」
「はい。ありがとうございます」
ケーキは使用人にも振る舞われた。
食事をしていると、父が話し掛けて来る。
「なんか、嬉しそうだな」
「はい」
――だって、家族が集まるのは一年振りだから。
そんな風に言えば、皆の動きがぴたりと止まる。
父だけ首を傾げていた。
「そうだったか?」
「そうです。こうやって皆が揃ったのは去年の誕生日の日だけでした」
「あ~……、それは悪かった」
他の人達は即座に気が付いたようで、ばつが悪いような顔をしている。
仕方がない話だ。
皆が皆、それぞれ役目を持っていて忙しい。
それに、月に一度は会っている。
ただ、こうして全員集まらないだけで。
「ぬうう! すまなかった、アイリ!」
「……はい」
祖父がぎゅっと抱きしめてくれる。
毎日会っているのに謝ってくれた。
父方の祖父からも同じように抱き寄せてくれる。
伯父が自分も抱きしめた方がいいかと聞いて来たので、抱擁はお腹一杯だと丁重にお断りをした。
別に、頻繁に合わなくても愛は十分に伝わっている。
誕生日だからと我儘を言って困らせてしまったかなと思い、反省をする。
今年も楽しい誕生日を迎えることが出来た。
来年もこうして家族で集まれたらいいなと思ってしまう。
アイリの誕生日 終
(あとがき)
今回のお話でおまけ話も完結です。
ジェラールの話とかもいずれ別の形で書けたらいいなあと思っています。
物語にお付き合い頂きましてありがとうございました。