00. プロローグ
少女の日常は、この日から一変したーー。
草木が生え自然の中で育った立花莉桜は、今まさに危機的状況に陥っている。
息を切らしながら走る莉桜の後には、人間と思えないモノがいる。人からは見えない、妖怪と言われるものだ。
学校帰り、いつものように木々が並んでいる脇道を歩いている時だった。強い視線を感じ、ふと後ろに振り返るとそこにはこの世の者と思えぬ容姿をしたモノがいたのだ。
それからはというと必死で走り続け、とうに体力の限界を過ぎてしまっている。
「……っ」
自分の足が絡むように交差し、勢いのあまり足がよろけ、前のめりになり転ぶ。
立ち上がろうとするが足に激痛が走り、座り込んでしまう。
その背後にはもう、妖怪の姿がある。逃げた人間を見下す。手間を取らせやがってと思っているのだろう。
《やっと追いついた。早くその目玉をよこせ……》
少女の目に映るものは、人には決して見えないもの。それなのに見えてしまう。
ーー違う
見えるようになってしまった。
あの夏、あの場所に行ったのがいけなかったんだ、と後悔しても遅いこと。
眼球を取ろうと、手を伸ばす妖怪を瞳にしっかり抑え、恐怖する。
体がガクガクと震え、後ずさることもできない。
「い…いや…… 」
抵抗の意だけは見せるものの、目を取ろうと手を伸ばしてくる妖怪が止める訳もなく。
この妖怪の姿や行動、何もかもが怖い。そう、青ざめた顔が語っている。
ーーもうダメだ
助かろうと思う事も諦め、目を瞑った瞬間、一際大きな悲鳴が放たれた。
《ぎゃあああ゛ 》
身体に一筋の亀裂が入ると、物体を保てなかったかのようにパッと光となって消える。
悲鳴と共に目を開けて見ていた莉桜は、何が起こったのか分からなかった。
妖怪の姿がなくなり、その後ろにいた一人の者の姿が瞳に映る。
一瞬、頭を過った。今のを消し去ったのはこのヒトではないかと。
莉桜の考えは正解だ。だが、少し外れている。『このヒト』は人間ではない。あのモノと同じ、妖怪だ。
間違えるのも無理ない。彼は人間の姿をしていて、普通の男性より美形なのだから。
それでも容姿からして分かるだろう。『普通』じゃないと。
鋭い剣。闇の中から出てきたんじゃないかと思うくらいの黒い髪と、黒い服装。それに重ね、黒い瞳。マントのように長く黒いコートを羽織っていて。
それは人のようで人ではない。人の姿をしているが、人ではないということを、今ので思い知らされたのだ。
彼は何を思ってか、彼女をじっと見る。コンクリートの地面の上に座っているため、見下ろされる形となり、威圧感が莉桜を襲う。
「さすがルカだね。僕の出る幕なんてなかった」
一つの声が莉桜の耳に届き、どこから声がするのかと辺りを見回せば、見知らぬ者が木の上から飛び降りてくるのを目撃。
そして、こう思った。今現れた彼は、もう一人の彼とは違う。真逆、だと。
妖怪を消しさった彼は全体的に漆黒で、怖い印象を与えた。けれど今降りてきたのは純白。髪の毛も白く、服装も白い。瞳は白いようで銀色も混ざっていて。羽織っているコートも白。
ーー正反対の色。まるで天使と悪魔のよう。
これは莉桜だけが思うことではないだろう。普通の人間に『見えれば』の話だが。
「大丈夫? 怖かったよね。 立てる? 」
天使のような純白の彼が、一人の少女に手を差し伸べる。
それを受け取ったか受け取らなかったかで
物語が変わっていたかもしれないーー…。




