まるで初恋!
「おーい、豊ぁ」
翌朝、豊を呼ぶ声が廊下に響いた。声の主は親友の柊了希だ。
「柊…」
昨日の残念な自分に、一夜明けた今もそれを引きづり続けている豊はテンション低めに柊の名前を呼んだ。
「どうした?元気なさそうだな。そう言えば、お前今日朝練来てなかっただろう?」
さすがの親友、自分の声の張り具合で今の精神状態を言い当てられ、豊は少しムッとした。
「元気なさそうに見えるか?朝練は単に寝坊しただけだよ」
「そうか?なぁ、今日部活早く終わるだろう?久々に遊ばねぇ?」
「んっ、あぁ…」
「じゃ、先に終わった方が迎えに来るって事で良いか?」
「あ、あぁ…」
そう言って、柊は自分の教室へ入って行った。
「はぁ~」
柊と別れて、豊はため息を一つ吐いた。
昨日の月島に見せた笑顔が忘れられず、昨夜は寝れなかった豊。そのせいで今日の朝練は寝坊。
大会前の追い込み時期以外は強制参加ではない朝練だが、これまで欠かしたことがない事が、豊にとって密かな自慢だっただけに、昨日の事と重なってダブルショックだった。
重い足取りのまま、自分の教室に入ると同時に豊は月島の席を見た。しかし、そこには月島の姿は無かった。
(なんだ、まだ来てないのか)
俯きながら自分の席に着き、ぼんやりと教壇の上に掛けてある時計を見ていた。
『キ~ン~コ~ン~カ~ン~コ~ン』
五分後、始業の予鈴が鳴った。
豊は再度月島の席を確認した。その時、丁度月島由実が教室に入ってきた。
(うわっ!)
目が合った訳ではないが、豊は咄嗟に目を背けてしまった!
(何で、まともに顔を見れないんだよ!?)
自分でも理解できない感情に焦っていた。
これまでも何度か女子を好きになったことはあったが、こんな気持ちになったのは豊自信これが初めてだった。
意識しないでおこうと思えば思うほど、月島由実の事を考えてしまい、授業の内容がまったく頭に入ってこない。元々勉強嫌いの豊、それでも成績だけはなんとか“普通”を維持するために、睡魔を堪えて授業を聞いていた。
月島を意識する度に、斜め前の離れた位置に座る彼女をちらりと見るが、目が合ってしまったら!という恐怖に駆られ、数秒ずつしか見ることが出来なかった。
実際は豊の前の席に座る月島が、豊と目を合わすには後ろを向かないとならないため、授業中に豊と目があるということは殆ど無いのだが、そんな現実まで考える余裕は豊にはもう無かった。
五〇分の授業中、何度月島の斜め後ろ姿を見ただろうか。自分の席との角度で、彼女の顔は伺うことが出来ない。
でも豊は、月島のことを想う度に一目彼女の表情を見たくてチラ見するが、それはかなわなかった。
休憩時間になると逆に恥ずかしくて月島の方を向けない豊。
まるで初恋をした幼い少女のような自分に、歯がゆさを感じた。
結局その日一日、豊は月島の顔をまともに見れずに放課後になってしまった。