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想いの形/彼の理由

想いの形




『想造』。それが、タムズ・ギャレッセン少年が与えられた恩恵スキルの名前である。

スキルとは、この世の域とし生けるすべての生物に与えられる神の恩恵である。それらは総じて差があるものの、それがあることでこの世界の生物として受け入れられるのである。

タムズのスキルは、『自身が思い描いたものを作り出す』と言う能力である。一見すれば、非常に使い勝手はよさそうなのだが、前提として本人の魔力量、そしてイメージ能力や感情の強さなどが求められる。想像したものをポンポンと作れる、と言うわけではなく、創造後は疲弊するし、そもそも現在のタムズでは作れないものの方が多い。

作れるものと言っても、精々が道端の小石や欠片、それに簡単な日常で使うもの、タムズの使用するところでは釘や網、といったところか。それらを作るので精いっぱいである。

イメージだけは色々と抱負ではあった。昔から読んでいる英雄たちの物語を思い描き、その中の英雄の様になりたい、と彼は願っていたし、普段彼が見る夢に出てくる将軍は、彼の憧れる英雄そのものだ。

だが、試しに彼の持っていた武器を作ろうとしても、魔力と集中力が足りずに、できたのは木の端っこだけ。こんなことよりも、地道に作った方がまだ早いので、と感じないわけでもない。


「ふう、役に立たない能力だなあ」


タムズははぁ、と息をつき、芝生の上に体を広げた。物語のように、都合がよくはない、と言うことだ。


(わかってはいるさ)


自分が特別である、というある種の錯覚。それが錯覚である、ということにタムズは気づいていた。少年から青年、大人になる過程で誰もが通る道だ、と父は言った。

英雄願望、何かを成し遂げる、自分は特別な存在だ・・・・・・。誰しもがそう思い、そして挑戦する。成功するのはごく一部。それ以外は、静かに自分の運命を受け入れるしかない。父はそう言っていたし、母も似たような表情でタムズを見ていた。

大人になるということは、諦めることを知ること。そう言う人もいた。

だが、それではタムズの気は納得できなかった。

勿論、理性では父母、それに大人の言うことが正しいとはわかる。現実を見なければならないことも。

けれど、夢くらい見てもいいだろう。そう思う。

最初からあきらめていれば、それこそ何も成し遂げられないのだから。

そう思い、いざ挑戦した彼だが、やはり創造できたのは、いつもの物だけであった。


「あーあ」


再び寝転がり、彼は空を見る。

タムズももう十六だ。夢物語は終えて、腰を落ち着けなければいけない。適当な仕事をし、村の中か、それとも近隣から嫁を迎え入れ、そして父と同じように村の漁師として働く。そう言う現実に目を向けなければいけない。


「・・・・・・・・・」


運命と言うものが転がってはいないものかな、と少年は何度目かの溜息をこぼした。





『強い想いが、形を作るのよ』


夢の中の彼女はそう言った。夢の中でタムズは「彼」になり、じっと耳を澄ましている。彼女はおかしそうに笑った。


『大丈夫よ、本当に必要な時、その力はあなったを助けてくれる。だから、信じて』


焦る必要はないわ。そう彼女は言った。




「強い想い、か」


憧れは持っていても、それは漠然としたもの。自分が何をしたいか、なにを望むか。それが本当はわからない。

その曖昧さが、スキルの公子ができない理由かもしれない。いや、もちろん、魔力量の問題もあるが、それでももっといろいろと出来るはずだ。平均魔力量を少し超える程度のタムズなのだから、伸びしろはまだあるはずなのだ。


「おい、タムズ」


そう思ったところで彼は父親に声をかけられた。漁に出るのだ。見習いとはいえ、タムズも何度も漁には参加している。この村で食っていくには、漁師か農家かになるしかない。ならば、家業の漁師を取った方がいいだろう。

そんな認識で彼は父の手伝いをしていた。

はあ、と彼はため息をついた。

自分の想いの形がわからない。そう、この時はまだ、彼は知らなかったのだ。






彼の理由




ゼル・マックールがエレナと出会ったのは、ほんの数年前のこと。

浮浪児たちを貧民街の空き家で世話をしていたエレナであったが、そこをとあるチンピラ連中に絡まれていたのだ。ゼルはその時にはいろいろと貧民街においては力をつけており、名は知れていた。彼の特徴的な緑色の髪と、その忠誠的な顔を見ただけで相手はひるんだ。その隙にゼルが相手を殴り飛ばし、彼女たちに二度と近づかないよう誓わせた。

この件でエレナはゼルに恩義を感じたらしく、何かと彼に対し、礼をしようとしてきた。自分たちの明日さえどうにもできない彼女たちが、ゼルに対し礼をするなど、不可能に近いことであった。それでも、と言ってくる少女に、ゼルはポツリと言葉を漏らした。


「なら、家族になってくれないか?」


「え?」


流石に少女も一瞬ポカンとした。ゼルは自分が何を口走ったかを即座に理解すると、あわてて口を紡ぎ、忘れろ、と言った。

自分でもなぜ、そんな言葉を吐いたのか。彼はつい最近まで知らなかった。そう、彼は無意識に家族、もしくは帰る場所を求めていたのだ。寄る辺となる、何かを。

彼には、帰る場所はない。家の代わりはいくらでもあるが、それは飽くまで帰るではないし、安心できる場所ではない。いつかは猿場所であり、そこは居場所ではないし、帰る場所ではない。

利用し、利用されて生きてきたゼル。孤児であり、男娼であった彼に、家族はいない。ビジネスパートナーや敵。そんなものは飽きるほどいたが、家族はいなかった。周囲は他人ばかりであった。


さて、ゼルの言葉に対し、少女がどう答えたのか。それは、ゼルは憶えてはいない。意外にも、彼は混乱していたのだ。

だが、少女、エレナはゼルのその言葉に同意したのだ。

家族にはなれないけれど、あなたの帰る場所くらいにはなれるかもしれない。

そう彼女は言い、笑った。その時、ゼルはぼうっと彼女の髪を見ていた。

美しい、金砂の如き、髪の色であった。

砂色の髪の少女に、思えばこの時から彼は惹かれていたのかもしれない。



エレナたちをそのまま、危険な場所に置いておくのは危険だ、と思い、彼は使えそうな空き家を探し出した。その結果見つけたのが、教会である。

古びた教会で、手入れはされていない。売地になっているが、買い手がつかず、もう手放した場所であった。そこをゼルが手をまわし、自分のものにした。ゼルは早速エレナたちをそこに住まわせた。

業者でも呼び中の掃除を差せようとしたが、エレナはそれを断り、自分たちでやる、と言い出した。、ここはもう、自分たちの家だから、と。



エレナと子供たちはそこで生活を始めた。金銭的な援助をし、週に数度立ち寄るだけであったが、ゼルをエレナも子供たちも迎えてくれたし、ゼルも満更ではなかった。

闘争と闇で屈折し、傷ついた心を彼女たちは癒してくれた。

ゼルはこのバーティマでただただ自分の為だけにのし上がろうと思っていた。復讐。それが、ゼルの目的であった。このバーティマと言う街に対しての復讐のために、のし上がろうとしていた。

だが、その思いは変わっていた。のし上がるつもりはあったが、復讐のためだけではない。エレナたちのようなものを作らない都市を作る。それが、彼の望みになっていた。



一度、エレナに聞いたことがあった。家族の記憶はあるのか、と。


「私、孤児だから」


気付いた時にはここにいて、と語る少女。幸い、今までは無事であり、ひもじい思いはしたことはあっても、それだけであったという。何とか生きてこれた、と。

バーティマの貧民街では、こういった子どもに女性は、犯罪の被害者になりやすい。奴隷と鳴ったり、売春を強要されたり、と言った具合に。

エレナもそう言った中を生きてきたのだろう。彼女のようなものが一人で生き残るのも大変なのに、よくもまあ、子どもたちとともに無事だったものだ、とゼルは思う。

どこの世界でも、こういった者たちはいるものだ。だが、弱者をそのまま切り捨てることが赦されるであろうか。ゼルの中に、情熱の炎が煌めいた。

生まれ、運。そんなもので、人間のすべてが決定する。それでいいのか。

いいや、いいはずはない。


「エレナ」


「なあに、ゼル」


遠くで遊ぶ子供たちの姿を見ながら、エレナはゼルを見る。座ったままの彼女の位置からは、断っているゼルの顔をすべて見ることはできなかった。けれど、その顔に宿る決意の強さは、そこからでもよく見えた。


「いつか、変えてやる。このバーティマを」


「・・・・・・」


「今はまだ無理でも、いつか絶対に、俺たちのような奴を出さない街にする」


ゼルの言葉に、エレナは無言で返し、そして頷いた。



少年の最初の動機は、ただの復讐であったが、そこにより良い世界、という目的が加わったのはこの出会いがあったからだろう。

後にバーティマの指導者として知られる少年は、守利たいものを得、夢を得た。そのことが、大きく世界を動かすこととなるのだ。






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