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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics― 完全版  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
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魔神の舞踏

グラウキエ大宗主国が、魔神キュレイアのスキルを受けながらも無事であったのは、魔神バフォメットの力あってのことだろう。

老魔神は、力なくグラウキエ=コンクードの空中庭園に座っていた。

荒い息をつき、ボロボロの身体を見下ろす。

彼の二つ名『鉄壁』。それが示すように、彼には絶対的な防御能力がある。

それは、あらゆる攻撃を一度だけ、完全に防ぐ、と言うものである。

たとえば、槍による攻撃があるとする。「槍」と言う武器による、「突き」による攻撃。それを一度だけ、完全に無効化する。

今回は、キュレイアのあのスキルを無効化したのだ。

しかし、このスキルにも弱点はある。

絶対的な防御と言っても、使用可能なのはその攻撃に対して一度のみ。

そして、普通ならば、自分のみを対象とするスキルなのだ。

本来、この大宗主国のような国、に対して使う力ではない。

広範囲にこの力を使えば、一気にこの力は破れてしまう。

強力だが、それゆえに欠陥もある。

このような無理で無茶な使い方をしたせいで、本来、もはやこのスキルを使うだけの生命力も魔力もなかったハズメットの肉体は、崩壊を始めていた。

身体の皮膚は風に吹かれて灰と化していた。

徐々に、魔力と化して空気中に消えていく己の肉体。

魔族国が攻められたときでさえ、この力を使わなかったが、もう、そうもいっていられない状況になってしまった。

ハズメットは別に死ぬことに恐怖はない。

彼にとっての恐怖は、守るべき人々を残していく。そのことだけ。

長く見守ってきた魔族が、滅びるかもしれないのに、自分は。


「ぐ、ぅうぅ・・・・・・・・・・・」


動かない体を見て、ハズメットはその重い首を傾ける。


「悲しいかな、どれほどの時を生きようとも、私は決して何かを守れるようにはならなんだ」


『鉄壁』などと言っても、本当の意味で守り導いたことがあっただろうか。

救いたかった人々とその未来。結局、それを守れはしなかった。


「すまない」


眼前の燃え上がる街を見て、魔族たちに謝罪するハズメット。

魔神の強力な攻撃から守ること。それが、彼にできる最後の役目。


「クィル、リクター、後を、任せた、ぞ・・・・・・・・・・・・・・・」


呟き、老魔族は目を閉じる。

その脳裏に浮かぶのは、今は亡き、多くの同胞たち。

ヨトゥンフェイムやトライトン、そのほか多くの、今まで関わってきた者たち。

ああ、私は。


ひときわ強い風が吹き、魔神の肉体をかき消した。

魔力の残滓は消え去り、魔神は世界に溶け込んだ。




「・・・・・・・・・・・!!」


リクターは、ふと感じた。

なぜかは知らないが、ハズメットの声が聞こえた気がした。

遠く離れた場所で同じように、クィルもその声を聴いたような、気がした。

クィルたちは人々の避難を誘導しながら、レス=グラウキエ=コンクードを見上げた。



レイラは教会内で自身の剣を見つけると、それを腰に差した。

外では魔族排斥派が魔族に対し剣を振るっていた。魔神の混乱もよそに、狂信者は力なき魔族を害そうとしていた。

魔族の親子に剣を振るおうとした時、レイラは剣を引き抜き、その相手を切り裂いた。

記憶はなくとも、身体は憶えている。剣を握った感覚。血の暖かさ。鉄の臭い。それらが彼女の忘れた記憶を呼び覚まそうとするが、完全に思い出すことはできない。

彼女にわかるのは、ここに居てはいけない、ということ。そして、自分にはやるべきことがある、という妙な感覚の身であった。

ひとまず彼女はグラウキエ内での唯一の友人であるリナリーを捜しに歩き出した。







大宗主の死、そして魔神の暴走。

これにより、大宗主国はあっけなく崩壊し、クライシュ大陸は混乱に陥った。

真大宗主を名乗るレグナによる神聖グラウキエ大宗主国の建国が唱えられた。

クィルやエノラはリクター、セウス、セラーナ、リナリーと合流すると、旧大宗主国より離れた。

生き残った魔族や人間を守りながら、彼らは安全な地を目指す。

だが、もはやこの大陸に安全はなかった。

壊れた秩序、そして発狂した魔神。

魔神の悲鳴は、大陸中を響き渡り、無差別に破壊をもたらした。

栄光と信仰の象徴、レス=グラウキエ=コンクードはあっけなく崩れ去った。


崩れ去るグラウキエ=コンクードの下で、真大宗主レグナは唸る。


「あぁ、我らのレア女神の、私たちの城がぁぁ!!!」


嘆く男は、迫りくる破壊の権化に気づくことはなかった。

周りの騎士の驚愕で、やっと彼は気づいた。


天に浮かぶ魔神キュレイア。彼女の背後には大きな一つの肉塊が漂っている。

キュレイアによって創造された魔神にも匹敵するそれは、醜いその身体を素早く動かし、地上の人間たちに死をもたらしていく。

全身から放たれる棘のようなもの。それが肉を突き破り、体内に入った瞬間、身体が爆発する。

騎士たちはなすすべなく、爆発し、肉塊となった。


「な、なんだ、これは・・・・・・・・・・?!」


大宗主ロイを失ったことで、精神に異常を期したキュレイア。

彼女を止めることが、人間にできるだろうか。


「忌々しい魔神め!貴様など、この私と女神の力にかかれ・・・・・・・・・・・・・・」


そう言い、指を天に向けた男の身体が、吹き飛ぶ。

僅かに開いたキュレイアの口から発せられた一語。「邪魔」と言う言葉で呆気なく、狂信者は死んだ。

キュレイアは光無き虚ろな瞳で、死を量産する。

クライシュ大陸中を破壊し、この世界に真の破壊をもたらす為に。

もはや、彼のいない世界は、彼女にとって意味はない。

だから壊す。


「――――――――――――――っ」


彼女の慟哭は、大地を抉る。

彼女の後ろに控えていた肉塊の腕、のようなものには大宗主の亡骸が握られていた。

キュレイアは亡きがらを見ると、その口にキスして、グラウキエ=コンクード跡地に彼の身体を埋めた。

正気を失ってもなお、それだけはしなければならない、と彼女は思っていたのだろう。

もはや、唯一の心残りもなくなった魔神は、冷たい瞳で天を見て、また泣いた。


そこに、巨大な隕石、のようなものが天より振ってきた。

キュレイアの口から放たれた声が、隕石を砕く。


「さすがだなあ、キュレイア」


重々しい声が響き、いつの間にか彼女の後ろには、巨人が立っていた。

ただの巨人ではない。黄金の鬣を揺らし、不敵に笑う獅子頭。

序列二位『凶星』ハウシュマリア。

北のイヴリスの地で、くすぶっていた魔神は、キュレイアが動き出したことで、世界の表舞台に久方ぶりに表れたのだ。


「キュレイアよぉ、まさか、こうも再会が早いとは思わなんだ」


ハウシュマリアの言葉に、キュレイアは言葉を返さない。

もはや、彼女の中にあった意識は存在しない。

それを察して、だがハウシュマリアは不敵に笑うのみ。


「いいぞ、戦いに言葉は不要。ククク」


盛り上がった筋肉、溢れる闘気。

かつて、魔神トラキアの軍勢やハーイアと戦って以来、自分と同格の魔神と戦ったことはなかった。

血は湧き、肉は躍る。それをハウシュマリアは感じずにはいられない。


「――――――――――――――!!!!」


声にならない叫びが、キュレイアから放たれ、獅子の魔神を襲う。

だが、にやりと笑い、ウガァァ、と魔神が叫ぶと、キュレイアの攻撃は無効化される。


「!?」


スキルも、何もなしに、ただ気合だけでスキルを無効化したハウシュマリアに、驚くキュレイア。


「何を驚くことがある?俺はハウシュマリア・・・・・・・・・天に輝く禍の星」


すぅ、と息を吐き、叫ぶ。吠える。

キュレイアすらも圧倒する咆哮に、大地は震える。


「殺す気で来い、キュレイアァぁ!!!!!」


魔神は、強靭な脚で大地をけり、瞬く間にキュレイアに肉薄し、容赦なくその爪を振り下ろした。

その爪をキュレイアは悲鳴で作り出した障壁で防ぐ。それをハウシュマリアは悔しがるどころか楽しそうに笑った。

血が沸き立つ。楽しさで筋肉が脈動する。


「がああああああああああああッ!!!」


「い、い、い、い、い、い、い、いいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


二つの巨大すぎる力はぶつかる。闘いの余波が、グラウキエの街を更に崩壊させていく。





「街が・・・・・・・・・・・・・!」


リナリーが崩壊する街を見る。生まれ育った町。平和の中に人々が生きてきた。その街が滅びる。

哀しくて、涙が零れ落ちる。


「リナリー!!」


「レイラ!」


そんな少女を探して走っていた騎士服の少女の声に、リナリーは顔を上げる。


「ここを逃げよう、リナリー!」


「逃げる、ってどこへ?」


戸惑う少女に、レイラは首を振る。


「ここではない、どこかへ」


そして、少女たちは燃える大宗主国から離れていく。

戦う二体の魔神の咆哮が響く中、リナリーは奔る。


「さようなら、お父さん、大宗主様、みんな・・・・・・・・・・・・」




クィルたちも、リナリーの後を追うように崩壊した大宗主国を脱出した。どうにかして逃げることのできた少数の魔族と人間たちとともに。


「救えなかった・・・・・・・・・・・・・」


悔しがるクィルの肩を抱き、エノラは大宗主国を一度だけ振り返った。


「私たちは、これからどこに向かえばいいのかしら・・・・・・・・・・・・・」


聡明な彼女も、知識に富むセラーナも、セウスですらもその問いに対する答えは持ち合わせていなかった。

故国を失った者たちは、途方に暮れながら、生きるために歩き続けるほかなかった。




燃える大宗主国を見て、魔神ハザは愉快そうに笑う。


「あはははははははは、踊れ踊れェぇ!!けひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」


くねくねと不気味に動くハザの耳元に、アンセルムスの声が響く。


『ハザ、何を遊んでいる。お前も役目を果たせ』


「わぁってるよ、アンセルムスゥ。まったく、せっかちな奴だ」


そう言ったハザは、クライシュ大陸の外に広がる外海を見る。

そして、そこにいるであろう『帝王』トラキアの気配を感じ取ると、残忍な笑みを浮かべた。


「それでは、『帝王』サマにもご退場願おうかな・・・・・・・・・・?」


魔神ハザの身体は浮くと、外海に向かって進む。その眼前に、巨大な蛇の如きものが現れる。

スキャヴォルト=オルガムズ=ノイシュクレルト。通称世界蛇。


「おもしれえ。俺様とやりあおうというのかァ?やってやるぜェ・・・・・・・・・・・・」


黒い魔力が世界蛇とぶつかった。



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