表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics― 完全版  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
34/124

混沌へ誘うもの

バーティマはその日、雨であった。

遠くで響く雷鳴の音を背に、重要案件に目を通すゼル。

本当ならば、エレナの元に居たいが、ゼルの役目を知る少女は、彼を気丈に見送っていた。

そんなエレナのためにも、ゼルはより良い世界を作っていかなければならない。


「真面目だなァ、ゼル」


「アンセルムスか、何の用だ?」


「なぁに、用はねえよ」


そう言ってゼルの執務室に入ってきたのは、策略に長けた傭兵、アンセルムス。

謎に包まれた傭兵であり、今日のバーティマがあるのはこの傭兵の力あってのものだ。

ゼル自身の能力もあるが、この男の支援はやはり大きい。

しかし、同時に得体の知れない闇をこの男からは感じる。


「ただ、少しは休んだ方がいいと思ってなァ」


「なに?」


「女でも酒でも飲んでさぁ、たまにゃあ息抜けよ、大将」


そう言って笑うアンセルムス。


「俺の心配をするとは、頭でも打ったか?」


「あんたがいなけりゃ、俺は仕事が出来ねえ。ここんところ、根詰めてるからよぉ、心配してやってンだぜ」


表情は嘲笑っているようで、心配など全くしている様子ではない。

しかし、確かにここのところ働き詰めだ。

それにこの雨だ。孤児院の子供らも、不安がっているだろう。


「・・・・・・・・・・そうだな」


そういうと、ゼルは立ち上がり、ローブに体をくるめる。


「送っていこうか?」


「不要だ」


そう言い、ゼルは執務室からアンセルムスを出して鍵をかけ、廊下を歩く。

緑色の長い髪を揺らして去るゼルの姿を、昏い目でアンセルムスは見て、踵を返す。




急ぎ帰ったゼルは、手に持っていた傘を、手から落とし、呆然と孤児院の前に立つ。

その後、ゼルは急ぎ、孤児院の前に倒れる子供に駆け寄る。


「おい、大丈夫か?しっかりしろ!!」


ゼルはよく見知った男の子の身体を抱き上げ叫ぶが、もう息はなかった。

この雨で、誰も外に出ていないし、雨音で叫び声も聞こえないのだろう。

ゼルは孤児院の扉を見る。それは開いていた。


(エレナ・・・・・・・・・・・・!!)


血相を変え、ゼルは駆けだす。

孤児院は暗く、明りは灯っていない。

それでも、足元に倒れる影はしっかりと分かった。

全員、孤児院の子どもたちだ。


「・・・・・・・・・・!!」


しかし、そこにエレナの姿はない。

哀しみがゼルの心を染め上げるが、今はエレナだ。

ゼルは走り、個人の部屋を回る。

そして、一つの部屋から明かりが漏れるのを見つけた。

ゼルは懐からナイフを取り出し、慎重にそこに近づいていく。

そして、思い切り扉を開け、中に入った。


そこで見たものは。





裸の身体を、力なく寝台の上にさらけ出し、放心しているエレナと、血に塗れた男たちであった。

男たちはいずれも死んでいた。

まるで、内側からはじけたかのように、内臓は飛び出て、骨や肉片が散らばっている。

エレナの身体にはその肉片がこびりついている。


「エレナ!!」


ゼルは急いでエレナに駆け寄る。

エレナは放心こそしているが、生きていた。しかし、視線は定まらず、光はなかった。

ゼルが声をかけて初めて、反応を見せる。


「・・・・・・・・・ゼ、ル・・・・・・・・・・?」


「エレナ、大丈夫か、エレナ・・・・・・・・・・・!!」


その身体を自身のローブで覆い、抱きしめるゼル。

だが、少女は未だ虚ろな瞳で、定まらない視線が宙を見る。


「わたし、わたし・・・・・・・・・・・・」


自身の腹をさすり、そして思い出したかのように震える少女。


「この人たちが、いきなり来て、子どもたちを・・・・・・・・・・・・そして、わた、しを、私を」


「もういい!もう、止めてくれ、エレナ!」


ゼルはエレナの言葉を途中で遮ると、彼女を強く抱きしめる。

守ると決めたはずなのに、守れなかった。

そのことが、強く彼を縛り付ける。

少女を抱きしめるゼルは、ふと男たちの死体の中にあるものを見つける。


それは、バラル帝国の騎士の持つ認識票であった。

少女を抱きしめながら、青年はその認識票を握ると、強い力で握りつぶす。


「バラル、帝国・・・・・・・・・・・・・」


ゼルの目に、強い憎しみが浮かび上がった。






エレナを治療院に預けたゼルは、彼女が寝付くとすぐさま自身の執務室に向かった。

そして、傭兵アンセルムスを呼びつける。

アンセルムスは知らせを聞き駆けつけ、ゼルの様子がいつもとは違うことに気づく。


「どうしたんだ?ゼル」


「アンセルムス。バラル帝国の、例のラトナ騎士団は今もいるのか?」


「?それはないはずだ。俺の策で奴らは完全に・・・・・・・・」


そう言ったアンセルムス。

ゼルは自身の机をたたき、立ち上がる。そしてアンセルムスの前に立つと、その胸ぐらをつかむ。


「ならば、これはなんだ!!」


そう言い、ぐしゃぐしゃになったバラルの認識票を彼の顔に叩きつける。

アンセルムスは後ろにぐらりと押され、その認識票を見る。


「これは、バラル帝国の・・・・・・・・・・」


「そいつが、俺の知り合いを、・・・・・・・・・・・クソっ!!」


ゼルは叫び、壁を殴りつける。自身の拳の痛みなど、心の痛みに比べたら、どうと言うことはなかった。


「・・・・・・・許さない。赦せるものか、バラル・・・・・・・・・・・・!!」


ゼルはそう言うと、アンセルムスを見る。


「アンセルムス、ゼレフェンを早急に落とし、バラルとやりあう。準備を」


殴られた頬を撫でながら、アンセルムスは「了解」と言う。

そして、ゼルが下がるように合図すると静かに去っていった。


ゼルは静かに机に座ると、膝をつき、項垂れる。





殴られた頬を撫でながら、アンセルムスは不敵な笑みを浮かべる。

まさか、ゼルの恋人の少女が、血を操作する能力を持っているとは知らなかった。

おかげで少女は死なず、逆に洗脳した傭兵が殺されたがまぁ、これでよかったかもな、とアンセルムスは思った。

むしろ、生きながらあの時の記憶を思い出し、苦しむ少女の姿が、ゼルの復讐心をより強くするだろう。

そう思えば、少しの誤算など、目をつむってもいい。

殴られ罵倒された甲斐があったな。

雨の降り続く外を見て、アンセルムスは嗤う。

この調子だと、思ったよりも早くバラルとやりあえるだろう。

ラカークンのほうでも着々と戦争の準備は進んでいるらしい。

バラルも二方向からの攻撃を受ければ、揺るがぬわけにもいくまい。

ラトナ騎士団のクロヴェイルと言えども、全ての敵を倒せるわけではない。


「これでいい。これで、な」


黒髪の青年は怪しく嗤う。





血が沸騰したかのように顔を赤くした男たちは、内側から破裂する。

あばら骨が覗き、内臓が見える。

ぴくり、と動いた肉塊。

そして、ドロリとした気持ち悪い感触。


少女は悲鳴を上げて起きた。


錯乱したように叫ぶ少女。

治療院の医師たちは、そんな少女を気の毒そうに見る。

噂では、バラル帝国の間者が少女を集団で暴行した、という。

噂は瞬く間に広がり、バーティマ市民の反帝国感を煽る。

帝国貴族もまた、富裕者であり、もともと嫌われていたが、そこまで反帝国感情は今までなかった。

しかし、この噂が事実と判明すると、バーティマ市民の不満は爆発した。

それに加え、傭兵の流した様々な噂が拍車をかけた。


「バラル帝国と、それに協力する各国を、今こそ、打倒しよう!そして、大陸に真の自由を!」


声高らかに言う委員たち。

その後ろで、暗い顔をしたゼルと、アンセルムスが立っていた。


「ゼレフェン侵攻はいつごろ?」


「お前のことだ、もう手は打っているだろう。すぐ、だ」


「・・・・・・・・・・・了解」


「王都ゼレフェンにいる魔女。そいつだけは生かしておけ。多少痛めつけてもいい。が、そいつは俺が殺す」


冷酷に言い放つゼルを見てアンセルムスは口を開く。


「王族は?」


「・・・・・・・・・・殺せ、ああ、待て。女どもは傭兵たちに好きにやらせていい。とにかく、落とせ。いいな?」


「仰せのままに、ゼル・マックール様」


そう仰々しくお辞儀してアンセルムスは急ぎ足で去る。

もはや、慈悲などくれてやるつもりはない。

圧倒的な力で敵をねじ伏せ、この間違った世界を壊す。

力なきものが、強者によってねじ伏せられるこのクソッタレな世界を。

迷いはしない。もう、迷わない。

これ以上、奪われる前に、自分の手でつかみ取るのだ。

ゼルはそう決意し、強く拳を握りしめる。


「エレナ、待っていろ。今、作ってやる。もう、誰も君を傷つけない世界を。子供たちの命が、理不尽に失われない世界を」


だからその時まで、待っていてくれ。





それから、ゼレフェン陥落の報がバラル帝国にもたらされたのは、数日後であった。


ゼレフェンは、かねてより不満を抱いていた民とバーティマ義勇軍の反乱により、王族は一族郎党ともども処刑された、と言われている。王女たちは奴隷として売り払われた。国の主要人物も、処刑された。

ただ一人、この国の実権を持っていた魔女だけは、その命を奪われず、魔術を封じられ、拘束されていた。



「魔女はどこだ?」


王都ゼレフェンに来たゼルは、堂々と王宮を歩きながら隣の傭兵を見る。


「こちらに」


アンセルムスはそう言い、若き指導者を見る。

アンセルムスは王宮の端にある、牢獄に案内する。

そこの一番奥の牢獄に、魔女はいた。

ゼルが見た時とは容姿は全く変わっていない。妖艶な姿の魔女。人間とは思えない。

艶やかな藍色の髪を床につけ、睨みつける魔女の目。

魔女は、現れたアンセルムスに向かって叫ぶ。


「卑怯者の傭兵よ!私を誰か、知っておるのか!?」


「ええ、知っていますとも、魔女アテナ」


そのアンセルムスの後ろからゼルが現れる。

ゼルは冷徹な目で魔女を見る。


「なんだ、貴様は」


「はじめまして、ではないな。お久しぶりです、魔女殿」


「何を言っておる、おぬし・・・・・・・・・・?」


魔女はその美しい顔を歪めてゼルを見る。

アンセルムスは後ろでにやりと笑い、その様子を見守る。


「俺の名はゼル・マックールだ」


「ッ!バーティマの小僧か・・・・・・・・・!我が国の要人も随分と殺してくれたようだな!」


そう言い睨む魔女。

だが、ゼルは何とも感じてはいないようだった。


「ふん。あなたは憶えていないか、俺を。いつか娼館で買った男娼のことなど、憶えてはいないでしょうなあ」


「・・・・・・・・・・まさか。その髪、見たことがあるぞ」


「そうだろうな!俺はお前にすべてを奪われたんだ!」


そう言い、激昂したゼルは魔女の頬を打つ。

パアン、と音が響く。

紅い頬をした魔女が、痛みに震える。しかし、その目の強さは未だ衰えず、ゼルを見る。

その目が気に入らず、再び頬を打つ。


「ああっ!」


魔女は呻いた。


「貴様の楽しみのために俺はすべてを失った!俺はぁ!!」


何度も何度もビンタをかますゼル。弱弱しく懇願する魔女。

魔力なき魔女など、そこらの女にも劣る。

だが、女の懇願を聞くものなど、この場には一人もいなかった。


「一思いに殺してやろうか、とも考えていたが、思い直した」


ゼルはそう言うと、やっとビンタを辞める。

血を流す女は、弱弱しく目を開け、ゼルを見る。


「な、なにを・・・・・・・・・・」


「お前には、俺の味わった地獄を味わわせてやる。その万分の一も味あわせてやれぬが、それでもお前にとっては地獄だろう」


アンセルムス、とゼルは後ろの傭兵に声をかける。


「は」


「この女を、犯せ」


ゼルの冷徹な目を見て、アンセルムスはただ、にやりと笑う。


「・・・・・・・・・・仰せのままに」


そう言い、アンセルムスは魔女に近づいていく。


「な、何をするつもりだ・・・・・・・・・・やめろ、やめてくれ」


懇願する魔女。

強引に今まで好き勝手やってきた魔女と言えど、このような扱いを受けるのは初めてのようだった。

ゼルは、憎しみのこもった目で魔女を見る。


「やめてなど、やるつもりはない」


そして、アンセルムスの手が魔女の衣服にかかる。



魔女の悲鳴が、暗い牢獄に響き渡った。






ゼレフェンを手中に収めたゼルは、周辺地域にまで手を伸ばし、瞬く間に手中に収める。

バーティマの掲げる理想に、希望を抱いた人々はすぐさま支配を受け入れた。

王族や貴族といった身分などない、理想の国。

それは、今まで虐げられた彼らにとっては魅力あふれる言葉であった。

バーティマはもはや、自治都市ではなく、大陸諸国に影響を与えうる勢力に発展していた。

ゼルとアンセルムス。二人の智謀で支配体制は整えられた。

アンセルムスの傭兵たちにより、反対意見を持つ不穏分子はすぐさま排除された。

バーティマは対帝国に向けて力をつけていく。

パラメスの支援のほか、反帝国のアクスウォードやセアノと言った国々からも援助や情報提供がなされており、今やバラル帝国にとって軽視できない問題にまでなっていた。


「さて、残るは帝国だな」


アンセルムスの呟きに、静かにゼルは頷く。


「どうする?アクスウォードやセアノの出方を待ってから仕掛けるか?」


「・・・・・・・・・・本来ならばこちらから仕掛けたいが、それほどの力はないか」


エレナのされたことに対する怒りは静まってはいないが、ゼルとて勝ち目のない戦いはしない。

ゼルは静かに怒りを放つ。

下手に怒り狂って猪突猛進するものよりも、こういう手合いの方が恐ろしいのだと、アンセルムスは知っている。


「・・・・・・・・・・・・・・ククク」


アンセルムスはゼルに気づかれぬように忍び笑う。

ことはアンセルムスの思い通りに進んでいる。

魔女アテナはその後、完全にアンセルムスの奴隷と化し、よい手駒として利用できそうだ。

ゼルも、この様子だと、アンセルムスが心配するように途中で腑抜けることもないだろう。

ならば、アンセルムスがするのはお膳立てとさらなる混沌への導きだけだ。


「さあて、バラル帝国。その長い歴史に終止符を打ってやる。だが、安心しろ。お前らを葬った後は、お隣のアクスウォードも、セアノもまとめて送ってやるからよぉ」


アンセルムスは邪悪な笑みを浮かべる。


「そろそろ、北でも行動を起こさせるか」


そう言い、アンセルムスはゼルの側から離れて、一人暗がりに向かって歩いていく。

北での行動を起こすために、キアラには信用できる駒をつけて送り出している。ハザがきちんとやってくれたおかげで、魔族国は滅び、ラカークン以外の魔族の反人間の感情を高ぶらせてもいる。

全ては計画通り進んでいる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ