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祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics― 完全版  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
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狂笑が響く

魔族国の四大軍団の長の一人、オーガのグラール。屈強な肉体を誇る彼は、その筋肉の鎧で味方を守り抜いた。その代償として、彼はその命を落とした。

度重なる敵の攻撃、ゴゥレムの存在。そして、人間たちを操る闇の存在の手で。


首をもがれたグラールの肉体が倒れた。何本もの槍と矢、それに刃に貫かれた屈強な肉体も、目の前に立つ邪悪の前には赤子も同然であった。鬼族の屈強な戦士たちが束となっても、そのものには敵うことはなく、死を賜る羽目になった。

グラールの巨大な角を持ち、その首を見る男。

白い髪に、肌が焼けたにしては異様に黒い肌の色。エルフのようにその耳は長いが、鋭利な刃物のように鋭い。眼球は真っ黒に染まりきっており、不気味な輝きを浮かべている。

唇は不気味にゆがめられている。狂ったような笑みを浮かべた基地の向こうに、鋭い牙が並んでいる。不愉快な笑みを浮かべたその男は虚ろな目の人間兵とゴゥレムを従え、炎の燃え上がる街を見た。


「ひゃははあっはあはははははは!!!いいねえ、いいねえ!混沌!実におもしれえじゃあねえか!」


男はそう叫び、踊るようにくるくる回る。その手に持っていたグラールの首を手当たり次第に叩きつけているせいで、その頭は原形を留めていなかった。最終的にただの肉塊となった首を投げ捨てると、男は片足でぐしゃりとそれを潰す。


「さあ、もっと、もっと殺せえ!」


その言葉に従い、兵士とゴゥレムが動き出す。逃げ遅れ、恐怖に足の住んだ抵抗できない人々を容赦なく襲撃者は奪っていく。

男は手薄となった北地区から進軍し、魔族国中心に立つアルトリザリコン要塞へと向かっていた。魔族の生き残りたちが逃げ込んだ古代の遺物。伝説の機甲大戦において動いていた天空の要塞、ということだが、今は半分以上が地に埋もれたただの要塞。人間の総攻撃があれば、容易く攻略もできる。

男はにやにやと顔を歪め、進む。




セラーナとともにアルトリザリコンまでたどり着いたセウスだったが、彼の知覚に異常な、そして邪悪な波動が感じられたために、立ち止まる。そして、傍らのセラーナを見る。


「どうやら、魔族国側の防衛が破られたようだ」


そう言い、セウスはトロントより託された文をセラーナに手渡す。


「ハズメット殿に会い、渡してくれ」


「セウスはどうするの?」


「この邪悪な波動を放つものを放ってはおけまい。迎え撃つ」


そう言ったセウスの目に宿る光に、セラーナは何も言えなかった。出会った当初、希望も何も浮かんでいなかった瞳に今は、その信念が燃えている。セウスは思い出したのだ。自分がかつて王であり、騎士であったことを。自分の民でなくとも、理不尽なものから人々を守るのが、騎士であるのだ、と。

セラーナは頷くと、「約束して」とセウスを見る。


「生きて帰ってきて」


「勿論だ。私たちはまだ、何も見つけてはいない。約束しよう」


セウスはそう言い、セラーナに背を向け、燃え盛る街に引き返していった。





血の海に倒れるトロント。その身体からは急速に熱が失われる。微かに意識を保っていたトロントであったが、そんな彼にとどめの一撃が放たれる。

どこからか現れた、氷の刃がトロントの顔を突き破り、彼の脳漿をぶちまけた。

無数の氷の刃が続けて空間に浮かび、未だ息のある獣人たちにとどめの一撃を放つ。

死者で溢れるその場に、ただ一人だけ生者がいた。

黄金の神の、美しい少女。その姿はエルフのそれに一致した。

白いマントを羽織り、森の民であるエルフの良くする軽い服装に身を包んだ少女は、緑色の瞳で死体を見回す。無感情な瞳にその風景はどのように映っているのだろうか。無感情に少女は足を進める。

少女の隙を突き、逃げ出そうとする敵はすぐさま彼女が作った氷の魔術で狙い撃ちにされ、大いなる痛みとともに死に導かれた。死を増産しながら、少女は中心にそびえる要塞を目指した。




クィルたちはアルトリザリコンを目指していたが、彼らの前には瓦礫の山ができており、遠回りを余儀なくされた。敵の魔術による砲撃が道を塞いでいた。

途中、何百と言う魔族の死体があった。目を逸らしながら、クィルは進んだ。

どうして、こうも無感情に人を殺せる。どうして、ただ暮らしているだけの自分たちを殺すのか。

生きていることが罪だとでもいうかのように。まるで害虫を殺すかのように、人間は命を消し去っていく。行き場のない怒りを何とか抑え、クィルは奔る。


「こんなやつらと、俺は共存できると思っていたのか?」


そんなことは夢だ、と言いたかった。けれども、手に握るエノラのように、そうでない人もいるのだ。それでも、やりきれなさが心を苛む。


「ギーゼラ、もう少しだから我慢してね」


エノラがギーゼラの手を引きながら言う。ギーゼラは息を絶え絶えに弱弱しく頷く。

そんなギーゼラが転ぶ。


「あぁっ」


「ギーゼラ!」


クィルが叫び、少女を起こそうとする。エノラと二人、ギーゼラを起こしたが、ギーゼラに走るだけの体力は残されていなかった。

少女をオブろうとした時、物陰に隠れていた人間の兵士が数人襲い掛かってきた。エノラが刀を取り出し、クィルもその腕を変化させ、迎え撃つ。

二人は次々と襲いくる敵を迎え撃つために、前に前に進む。その間にギーゼラは疲れた体を何とか起こして物陰に隠れ、様子をうかがう。

その時、彼女はふと頭上で輝く何かを見た。

そして、それが爆ぜる。

魔術による遠隔砲撃であった。無数に分かれた火の玉が、敵味方無差別に襲い掛かる。

敵を盾にし、クィルは難を逃れると、エノラを抱き留めて庇う。肉体の半分近くを竜化させたため、二人は無事であった。人間兵は友軍の攻撃に巻き込まれ、全員死んだ様子であった。

二人はギーゼラを探す。だが、周囲には瓦礫が広がるばかりで、ギーゼラの姿は見えなかった。


「ギーゼラ!」


「ギーゼラァ!!」


二人が叫んでも、答えはなかった。

ギーゼラが死んだ、とは二人とも考えたくはなかった。まだ幼い少女であった。自分たちの半分も生きていない子供だ。こんなことがあっていいはずがなかった。

家族が死にながらも、どうにかしてきた楽園。その楽園で彼女は死んだ。

それが、無性に腹立たしかった。


「クソッタレェーーーーーーーーーーーッ!!」


瓦礫に膝をつき、クィルは叫ぶ。

こんな理不尽なことがあっていいのか。こんなことがあっていいのか。いいはずがない。

涙を流す。エノラもまた、同じように泣いた。二人身体を抱きしめあい、状況も忘れてただただ泣き叫ぶ。

だが、二人に感傷に浸る暇すら敵は与えてはくれない。

襲いくる敵の軍勢。ゴゥレムの姿。

クィルは立ち上がると、怒りに任せて突っ込んでいく。両手両足を竜化させたクィルは、まさに竜のごとく敵を切り裂き、噛み千切り、破壊した。




魔族国殲滅を任されているアクスウォード第三王子アレスターは後方の戦車より状況を聞き、満足げに笑っていた。最初こそ連合軍側の戦力消耗が気になったが、ゴゥレム投入により戦況はこちらに有利に動いている。魔族側の抵抗も減り、徐々に街を制圧しつつあった。

黒い艶やかな髪は、戦場には不向きなほど長い。ナルシストな笑みを浮かべた第三王子は、もとより軍事の才能はないに等しい。第一王子カッシートや弟ナウプリアモスが優秀であったために、余計それは際立っていた。けれど、絶対的な自信を持つアレスターはそれをよしとはしなかった。その時に降ってきた魔族国侵攻。それで証明してみせる、とこの青年は意気込んでいた。

どこの馬の骨かはわからないが、協力者も多数ついている。長年の懸案事項、魔族を排除できればアレスターの地位は確固としたものになる。兄カッシートや姉モルガンなど、邪魔な政敵も口出しできなくなる。この後はバラルとの戦争も自分が臨み、戦果を挙げるつもりであった。

芸術を愛し、美に関心を持つ第三王子はとっとと魔族を絶滅させろ、と命令した。近くに控えていた幕僚たちが命令を全軍に伝えさせると、満足そうに彼はほほ笑む。

そして、そうだな、と手を叩く。


「魔族国の滅亡を見るには、ここは遠すぎる。もっと前に出よ」


そう言ったアレスターに危険だと咎める将軍だったが、それを無視してアレスターは馬車を動かさせた。燃え盛る街を見て、滅びの美学云々と言っているアレスターに不審な目を浮かべていた幕僚たちだが、この状況で今更魔族も何もできまい、と安心しきっていた。




セウスは折れたセアリエルの代わりの剣を構え、その場に立っていた。邪気は次第に波動を強め、近くに来ている。

これまで多くの邪悪なものと戦ってきたセウスであったが、それらに勝るとも劣らぬその波動に体は震えあがる。今ほど、手の中の剣がセアリエルでないことがしのばれたことはない。

砂色の髪の青年は、視線を上げる。彼の前に、不快な笑みを浮かべた男が現れる。

男の放つ力は、ヒトのそれではなかった。


「魔神か・・・・・・・・・・・!」


「ほっほぉーう。まさか、こんなところに俺様と同じ魔神がいたとは思わなんだなァ」


魔神はそう言い、その真っ黒な目をセウスに向ける。


「序列三十位『沈黙』のセウス、だな?」


「・・・・・・・・・・・・貴様は何者だ」


セウスは油断なく魔神を見ながら問う。剣を構える王を前に、魔神は余裕の表情を崩さない。


「なに、俺の名前を聞きたいってか?俺様のファンかよ?」


男はおどけながら言う。ふざけた男だが、セウスは一向に気が抜けなかった。

信念、理想、夢、野望。そう言ったものを持つ敵は確かに強い。確固たる何かに支えられたものの強さを知っている。

だが、この男からはどんな心情も何も感じられない。ただ快楽のためだけに、破壊をもたらす。そんな予感がしていた。実は、そういった手合いが最も恐ろしい。

何をしでかすかわからない。予測しえない敵。どんな非常も迷いなく行える悪魔。目の前のそれは、悪魔であった。

敵が油断しているうちに、殺すべきだ。セウスはそう思い、答えを待たずして切りかかった。

だが、セウスの剣劇を難なく敵は避ける。セウスとて、並の剣士ではない。その惨劇は早く、物語の英雄に劣らぬ者。けれど、魔神はそれを避け、反撃さえしてきた。

軽く頬を切り裂いた爪。セウスはそれが手加減した一撃だと気付く。

この魔神は、自分をはるかに凌駕する実力者である。


「おいおい、せっかくこれから自己紹介しようってのに、ご挨拶だなぁ」


気分を害した様子も見せず、魔神は気持ちの悪い笑みを浮かべたまま言った。ギラリと牙が光った。


「俺の名はハザ!序列八位『狂笑』のハザ!破壊と混沌の伝道師!」


両手を組み、宙に浮かぶ道化師。空中で一回転し、魔神はセウスを見下ろした。


「さあ、古代の王様、あっそびっましょぉーーーーーーーーーーーッ!!」


闇の魔力が充満し、セウスの四方から黒い槍のような物体が射出される。


「死の饗宴の始まりだァ!」


不快な声が、セウスの耳に届いた。




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