7年後
彼女は目覚めた。気絶から。あれからどのくらい経ったのだろうか。それは分からない。
目覚めた場所は実家のリビングだった。しかし、そこには彼女の遺影が供えられていたのである。
彼女が驚いていると、彼女の声を聞いた両親が現れた。そして、彼女の無事に驚いていた。困惑しながら。
理由は7年が経つと行政的には失踪か死亡扱いとなるから。それを知らなかった彼女は言葉を失った。否、失わざるを得なかった。
自分はここにいる。確かに存在している。なのに、世間では行方不明者として、みなされている。
行政にも連絡した。しかし、彼女のデータは全部削除されてしまっていたのである。
住んでいた住所にも連絡した。しかし、そこはもうすでに他の人に住まわれているという。
その時、ふと思い出した。婚約者がいたことを。彼ならなんとかしてくれるはず。しかし、その願いは両親の口から砕け散る。
すでに彼女の婚約者は結婚しており、子供までいるという。7年間もいなくなっていたので当然のことだろう。
そのことを知った彼女は、その場で泣き崩れてしまった。
結婚による幸せも、仕事でのキャリアも、何もかもを失ってしまったのだから。
ふと脳裏に過ぎる。少年のあの言葉を。「悔い改めたかい?」という一言が。
しかし、それが今、何を意味しているのか。理解することはできない。妙に心に残りはするが。
しばらくして、彼女は思い出した。少年の名前を。だが、調べても出てくることはなかった。
どうしたらいいのだろう。あの時、侮らずにいれば良かったのか。それは分からない。
小学生の時に転校した。それ以来会うことは無い。会っていないのだ。もう20年も経つのだから。
もしかしたら、と思う。あり得ないと思う。自分が今、体験していることこそ、嘘なのではないかと。虚構なのではないかと。2030年なんて本当は経っていない。ただ、7年前の自分が夢を見ていて、本当はそこにいるんじゃないかと。でも、証拠は無い。ただの思い込みに過ぎないのだから。
彼女の妄想。そう言われるかもしれない。7年前に電車で眠ってしまった自分が起きれば、今自分がいる世界が7年後にいる自分は、7年前の自分に戻れるかもしれないのだから。
しかし、残念かな。彼女は何度、寝て起きてを繰り返しても、その希望が叶うことは無かったのである。
彼女は静かに絶望を抱きながら、残りの人生を過ごすことになったのだ。
日雇いの仕事で食い繋いでいく日々を過ごすことになる。今までは仕事でバリバリと働いていたのに。
その落差に心が傷つきながらも、人生を過ごすことになった。
それでも、両親が健在だったことに感謝するべきだろう。今がどうであれ、両親の支えがあるのだから。
しかし、それもいつ失ってしまうか分からないもの。砂上の楼閣かもしれないのだからーー。
《終》




