第46話 無限図書館にはご注意を
次はエリアとグレースに会うのだが、今回必要なのはグレースの闇の精霊石だけになる。
問題はただ貰うだけで済むとは思えないことだ。
配慮として2人に貰う必要があるだろう。
ちなみにエリアとグレースは何故か無限図書館の中にいるらしく、近くにいた司書精霊からその話を聞くことができた。
「エリアさんとグレースさんは【失われた月の女神】に関する本を見ていましたよ。何でも気になることがあるのだとか」
「失われた月の女神? 話には聞いてますけど、どんな女神様だったんです?」
話にはちょくちょくでてくる月の女神様。
だけど俺はこの存在についてほとんど知らない。
「精霊たちに愛されるお優しい方だったようです。錬金術に精通していたらしく、その錬金術は創造そのものであったと聞きます。この図書館にはその生い立ちや女神の系譜について記述された本はありますが、その他の詳しい情報の多くは秘匿されており失われましています。人間界にも一応、ほんの少しですが女神の痕跡があります」
「一応人間界にも痕跡はあるんですね?」
どこからも話を聞くことのないその存在の痕跡がまだ人間界に残っていることに俺は驚いた。
完全に埋もれた存在というのは往々にして偶然発見された遺跡や壁画でも見つからない限り表に出てくることはないからだ。
「はい、今は月のモチーフだけが残るものとなり見ただけではそこが何だったのかわからないほどです。ドレアから見える山脈の中でも一番高い山の麓にそれはあるそうです。またその山には月の神殿があったとか。今は竜族の地となっております」
「ドレアから見える山かぁ。たしかに大きくて高い山があったっけ。でもそこまでたどり着くのは厳しいと聞いたっけ」
ドレアから見えるその山は途中に大きな亀裂が走っている。
大地の裂け目と言われるほど深い谷になっており、一部の川の水はその底に流れ込んでいるらしい。
おそらく谷底には地上とは違う生態系が広がっていることだろう。
「わかりました。ありがとうございます。ところで俺は中に入っても大丈夫そうです?」
一応アルテミシアからは大丈夫だとは聞いているものの、下手を打てば大変なことになる。
「イリス様でしたら問題ございません。もし道に迷いましたら司書の者が駆けつけますし、扉をイメージして転移していただければ戻ってこられますので」
「わかりました。ありがとうございます」
というわけで司書さんにお礼を言い、無限図書館の扉をくぐる。
中はというと、まぁ普通の図書館ではある。
先は霧がかかっていて見えないけど。
「さて、大事なことを聞き忘れたな。【失われた月の女神】についての本ってどこにあるんだ……」
無限図書館は一見すると普通の図書館であった。
ただしその規模は広大で、階段を上がるとまた階段と書架があり、更に進んでみると今度は今までいた場所と自分の場所が反転したような書架にたどり着いたりするようだ。
実際少し歩いてみてわかったのだけど、ここは上下左右に書架が存在しているらしい。
そして重力の向きは常に自分の足元だった。
「こーれは人間には無理だ……」
上下左右どこにでも同じような書架があり、空間も広い。
道順を暗記していなければ完全に何もかも見失いかねない。
「いやー、迷いそうだわ。まず目的地がわからないから方向が分からない。さらにいえばどっちも同じような感じだから方向が分かったとしてもたどり着けるかすら怪しい……」
上に行ってまっすぐ歩いて下に行ってまっすぐ歩いて裏に回ってまっすぐ歩く。
まるでメビウスの輪をひたすら歩いているようだ。
周囲には司書精霊がたくさんいるので誰もいない寂しさというのはないけど、1人だけだったら耐えられるか怪しいと思う。
「あのー、そこの司書精霊さん?」
さすがに耐えかねて近くにいる司書精霊に話しかけることに。
「イリス様、いらっしゃいませ。どうかなさいましたか?」
司書精霊は俺を見ると不思議そうな顔をする。
どうやら俺が困惑している理由がわからないようだ。
「ちょっと迷っちゃいまして……。【失われた月の女神】に関する書架ってどこにあるかわかりますか?」
「【失われた月の女神】ですか? 83番ポータルが一番近いですよ。今ポータルを出しますのでそちらに入って出たら目の前です」
司書精霊はそう話すと、俺の目の前に白い光の渦を出現させる。
司書精霊はどうやらアルテミシアの力を利用できるようだ。
「ありがとうございます。ちょっと行ってきますね」
「はい、お気をつけて。それとお帰りの際は1番ポータルで出口へ移動してください」
「ありがとうございます。では」
親切にも帰りのポータルについて教えてくれた。
でもポータルの出し方って知らないんだよね。
俺はそのまま司書精霊の出したポータルに踏み込んだ。
すると一瞬光に包まれた後、俺の目の前に別の書架が現れたのだ。
「ここか……。ん?」
ポータルから出て少し、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「月の女神の力は世界と月世界を経由して別の世界を繋ぐもの。またそれに伴う様々な素材を錬金することができる創造の能力を持ち合わせるか」
「読む限りではまったく違う概念で存在する神様のようね」
「そうねぇ。月世界も気になるわ。ええっと、容姿は幼く、髪は光に当たると青みがかって見える銀髪をしている。これは【世界を渡りし者】の特徴であるとされている。彼らは【星光力】という特殊な力を扱い、【星術】という特殊な術を行使する。それは月の女神にも引き継がれている。ですか。よくわかりませんわね」
「ここにある本には月の女神とその系譜についての記載はありますけど、どうなったのかの記録はないのね」
どうやら2人は目的の本を見つけたらしい。
ちょっと声を掛けてみようか。
「エリア、グレース。ここにいたのか」
「「あ、イリス」」
俺が声を掛けると、2人は同時にこちらを振り向いた。
そしてちらちらと俺を見る。
「どうしたんだ?」
「「いえ、なんでもないわ」」
「? そうか? あ、そうそう。ちょっと属性鉄を作りたいから2人の精霊石ほしいんだけどくれないか?」
2人はまだ忙しいかもしれないので先に用件だけ伝えておくことにする。
早めに終わるほうがいいしね。
「もちろんよ」
「たくさん持っていくといいわよ」
2人はすぐに俺に精霊石を融通してくれたのだ。
それぞれ50個ずつ。
「おぉ、ありがとう。あとは水の精霊とアルテミシアか」
「「気にしないでいいわ」」
2人はそう言うと、また俺のことをじっくりと見始める。
そしてしばらくした後、こう口にしたのだ。
「もし面白い場所に辿り着いたら必ず連れて行ってね」
「例えば月とかよ」
「? まぁ行けるかは知らないけど、行けたらな」
月ねぇ。
なんでそんなに行きたいんだ?
あの巨大な石ころに……。
よろしければポイントなど入れていただけると大変励みになります!
次回更新予定は本日か明日か、進捗次第です。
早ければ15時から21時までの間に更新します。




