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89 深刻

 調査を始めて十日程経過。ノーリウス程の大都市にもなると、そこに住む人々は膨大な数となる。そして入れ代わり立ち代わり人が行き来する街で、特定の事柄について調べるのはそう簡単にはいかない。


 だが全くの無駄足だったかというとそうでもない。例の薬についてだが、このノーリウス冒険者組合内には、殆ど出回っていないことが判明した。ノーリウスの冒険者であるユリウス、そして組合長のゼタンの話を聞くに、そのような様子は見られなかった。無論すべての冒険者に話を聞いたわけではないので、その全てを把握しているとは言えないが、それでも薬が出回っているのならば、その影すら掴めないのはおかしい。何かしら変化が見えるはずだ。それが見えないのは、それほど蔓延していないと捉えるのが自然だろう。


 とはいえ、楽観視して良いというわけでもない。荒ごとを生業としているのは何も冒険者だけとは限らない。むしろ冒険者という職業は街全体から考えるとその数は極めて少ない、完全な少数派である。傭兵や用心棒といったことを生業としている者、そして領内に配属されている衛兵など、武を職としている者は多数存在している。そういった者らの同行を全て把握するなどといったことは不可能。もしそういった職の者の中で薬を使用している者がいたとしても、それを調べるのは困難を極めるだろう。


 そんな中キースらは、別の視点から調査を進めていく。例として、教会や病院、治療院といった場所に足を運ぶということだ。大小の違いはあれど、荒事を生業としている者は少なからず怪我をする機会が多い。なのでその怪我を治療するためにそういった施設を利用するの者の中に、例の薬に何かしらの接点を持つ者がいるかもしれない。なのでそういった場所で話を聞けば、何かしらの情報を得られるのでは、そう考えたからだ。


 そして、そこで得られた情報は、ハズレであり、そしてアタリであった。


「それはどういう……」


 調査状況を互いに報告し合う場にて、ソフィアは疑問に思ったことを口にする。


「ここ何日か、いろんな場所で聞き込みを行いましたけど、それらしい情報は得られなかったと思いますが……」


 それら主だった場所に、薬を使用したと思われる人物は現れなかった。それだけを見れば、何もないように見える。しかし着目すべき事はそこではないない。


「確かにソフィアの言うことは間違ってない。聞き込みでは、何か不穏な事が起こっているような素振りはなかった。イールーディの時みたいに、理性を失って事件を起こしたような事もなかったみだいだしな。だが、それとは別に、注目すべき点があった」


 キースの問いかけにソフィアは、聞き込みで得た情報を思い出す。


「教会や治療院などで集めた情報によると、以前治療に来ていた冒険者や、傭兵を生業にしている人間のなかで、最近あまり顔を見せなくなった者たちがいる。そう言っていたな」


「……確かに、そう言っていましたけど」


「にゃ、それがどうかしたにゃ」


「荒ごとを生業としている者にとって、怪我はつきものだ。どんなに気をつけていても無傷でい続けるなんて無理だ。だが先の話によると、その者たちは治療にきていないことになる」


「にゃ、自分で治療したんじゃにゃいにゃ?」


「もちろんその可能性もある。だが、それだったら初めから自分で治療していただろう。そもそも治療院などを利用しない。わざわざ金を払ってまで外で治療する必要はないからな。だが、最初は施設を利用し治療していた。そして突然来なくなった」


「にゃ、死んだにゃ?」


 ミィーケのあまりな発言にキースは肩を落とす。飛躍し過ぎである。


「行きたくても来れない、もしくは行くのを止められている……」


 顎に手を添え、思考していたユリウスがポツリと言葉を漏らす。その発言をキースは肯定する。


「その可能性はある」


「どういうことにゃ?」


 頭に疑問符を浮かべているミィーケにキースは自身の考えを伝える。


「医師や治療師は、いってみればその道の専門家だ。そんな者に診察されたら、薬を使用しているのがバレる可能性がある。薬の使用者はそれを危惧した。だからそれらの施設を利用することが出来なくなった」

 

「にゃ、にゃるほど……?」


 分かっているのか分かっていないのか、微妙な表情で小首をかしげるミィーケ。そんなミィーケとは別にその意味を理解した他の面々。そして納得すると同時に、新たに生じた疑問をエルティナはキースに問いかける。


「確かにそう考えると、急に来なくなった理由としては、ありえるかもしれません。ですが、本当にそうでしょうか。安易に薬に手を出すような人間が、そこまで考えて行動するとは思えないのですが」


「安易ではなかったとしたらどうだ」


「え?」


「イデアランでは、流れてきた薬に手を出した者がいたが、それはあくまで個人でのことだ。それぞれの考えがあり、それぞれの思いから薬に手を出した。だがノーリウスでは異なる。計画的に、明確な意図があって使用されている。しかもそれは――」


「個人ではなく集団、もしくは組織だっての使用……そう考えると筋が通る、ですか」


「ああ、そうだ」


 ユリウスの言葉にキースは同意する。


 この街では、薬は個人ではなく、組織だって使用され、そしては外部に情報がもれないように管理されている。もしこの考えが真実だとしたら今回の件、そうとう根深いものになっている。一筋縄ではいかない。


「……想像以上に深刻そうですね」


 ユリウスは苦虫を噛み潰したように、眉をひそめるのであった。




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