88 冒険者ユリウス
冒険者ユリウス。その名はノーリウス出身の冒険者の間では特別な意味を持つ。大都市ノーリウスをもってして数えるほどしかいないB級冒険者であり、その実力は同業の冒険者をして別格と言わしめるものであり、いずれはA級になるであろうと噂される程である。そしてそれに見合う実力を確かに持ち合わせている者。それが冒険者ユリウスという人物である。
その容姿はあまり誰もが目を引く端整な顔立ちをしており、見るもの全てに好印象を抱かせるものであった。背は高く細身のように見えるその身体は、その実鍛え抜かれ締まった鋼の如き肉体である。
容姿、実力、共に比類なきものであるユリウスであるが、そんな恵まれた立場でありながら、決して傲ること無く誰に対しても誠実に接するその姿は、もはや付け入る隙のない完全無欠ともいえる。
して、そんなユリウスではあるが、今現在どうしているのかというと
「ミィーケさん、疲れてないですか? あちらのお店で一休みしましょうか?」
「うざいにゃ! うざいにゃ!!」
爽やかな笑顔虚しく、もれなくミィーケにうざがられていた。
「ユリウス、あまりグイグイいっても逆効果だと思うぞ。適切な距離感というものが大切だと思うんだが」
冒険者ユリウス。誰しもが憧れるB級冒険者。その実彼は、無類の可愛いもの好きであった。ノーリウス冒険者組合でゼタンから紹介された時、ユリウスはその場にいた猫人であるミィーケに心を奪われてしまった。生来の可愛いもの好きにとって、ミィーケはまさに天からの授かりものであったのだ。
ミィーケと邂逅したユリウスは、調査協力をそれを快く快諾。キースらと共に調査に繰り出す事となった。
ノーリウスに来てから既に数日。調査を行うキースらであったが、状況はあまり芳しくなかった。少ない手がかりで調査を進めるのは困難を極めた。とはいえ、たかが数日で進展するとはキースも思っていないので、気落ちするということはなかった。
とはいえ、現状について不満がないと言えば嘘になる。その筆頭がこのユリウスの存在だ。彼は恐らく、いや、実際に優秀なのだろう。とはいえ、この数日一緒に行動して感じたことといえば。
「にゃ!! いちいち面倒くさいにゃ!!」
そう、面倒くさかった。ミィーケに対する愛が強すぎるのだ。別に悪気がないのはわかっている。ユリウスは誰に対しても誠実で、キースやソフィア、エルティナに対し丁寧に接している。そしてミィーケに対しては、まるで小さな子どもに接するかのように、まるで硝子細工を扱うかのように、それはもう慎重に、過剰なまでに保護するのだ。
少し行動すれば休憩を促し、食事をすれば甲斐甲斐しく世話をしようとし、欠伸をすればその日の調査を打ち切り宿屋へ直行しようとする。
そんなユリウスにミィーケは何度もブチ切れ、その爪を突き立てる。しかしそんなもの意に介さないとでも言わんばかりに、ユリウスはミィーケに付きそうのであった。
幸いなことに、ミィーケに対する愛は異性のソレではなく、あくまで可愛いものに対してのそれなので最悪な事態は免れているのであるが、それでもミィーケにとってはウザいことにはかわりなかった。
「にゃにゃ! こいつ嫌にゃ!! キース! これどうにかするにゃ!」
「どうにかって言ってもなぁ……。ゼタン組合長から共に調査するようにと言われているから、無下にすることは出来ないぞ」
「そんなの知らにゃいにゃ!! 関係にゃいにゃ!!」
ユリウスに威嚇するミィーケを見て、流石にこのままでは不味いと思うキースであったが、だからといってどうするべきなのか判断に迷っていた。曲がりなりにもユリウスはBの級冒険者。そして幸運なことにこの街出身ということもあり、調査においてはこの上なく有用なのだ。
「もう仕方がないわね……」
そんなミィーケとユリウスの関係に、見るに見かねたエルティナが深い溜め息とともに両者の間に割って入る。
「こうしましょう。全員一緒になって調査してても効率が悪いですし、ここは一旦二手に分かれて調査をしましょう」
「にゃ!?」
「えっ?」
「幸いなことに、私もこの街について多少は土地勘があります。ですので、キースさんとユリウス。私とソフィアさんとミィーケさん、この二班に分かれて調査をしましょう」
キースらとは違い、エルティナは以前にノーリウスに来たことがあり、街についてそれなりの知識があった。なのでエルティナは、自分とユリウスを軸に班を分けるという提案を行った。
「にゃ! それでいくにゃ!」
ここぞとばかりにエルティナの案にのっかるミィーケ。両手を上げぴょんぴょんと飛び跳ね主張する。
「……確かに班を分けるってのは悪くない案かもしれないな」
キースもエルティナの提案に賛成の意を伝える。そんなキースを見て、少しだけ目を伏せたソフィアも、次の瞬間には顔をあげそしてうなずくのであった。
「というわけで、行きましょうソフィアさん、ミィーケさん」
そういうとソフィアは二人の背中を押してさっさと街中を進んでいく。一度だけ振り返ったソフィアにキースは手を上げて応える。それを確認したソフィアは小さな笑顔を返しそして街の中へと歩いていくのであった。
「ほら、俺らも行くぞユリウス」
「……はい、わかりました」
がっかりしたような様子をみせるユリウスであったが、しかしすでに意識を切り替えたのか、その表情は真剣なものに変わっていた。
「最初からそうすれば面倒なことにはならんだろうに……」
「すみません。ミィーケさんを前にするととどうしても」
苦笑いをするユリウスに、キースは背中を叩いて応える。
「頼りにしてるぞユリウス。きちんと仕事してミィーケを見返してやれ」
「はいっ」
こうしてキースとユリウスも街の中へと歩みを進めていくのであった。
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