85 C級冒険者
「少しいいか」
「はい、なんでしょうか」
宿屋を後にしたキースら一行は、本来の予定通りノーリウス冒険者組合へと足を運ぶ。そしてキースは荷から取り出した書状を冒険者組合の受付へと差し出す。
「イデアランから来た冒険者のキースという者だが、これをノーリウスの冒険者組合へ届けるよう依頼された」
「イデアランからですか?」
「そうだ」
受付は書状を受け取った後キースを一瞥する。そして再び書状へと視線を戻し差出人を確認する。
「確かにイデアラン支部からと記載されていますね。失礼ですか組合証を提示願いますでしょうか」
「ああ、構わない」
キースは懐から組合証を取り出しそれを受付へと手渡す。
「――――イデアラン冒険者組合所属、C級冒険者、キース様。でお間違い無いでしょうか」
受付がキースに確認を取る。それを受けキースは頷いて応える。
C級冒険者。
今回の調査にあたり、イデアラン冒険者組合はースをC級へと昇級させた。何故キースを昇級させたのか。実はこれには意味があった。冒険者という枠組みの中でC級というのは一般的な級位である。若手から熟練者まで、幅広い層がこの位に位置している。逆に言えばそれより下位の級位、D級は一般冒険者とは言えない未熟者、つまり半人前なのだ。
今回キースが組合から指令された調査任務は、そんな半人前に出して良い仕事ではない。もしそんなことになれば、イデアラン冒険者組合そのものの在り方が問われるだろう。そこでイデアラン冒険者組合はキースの級位を上げるという方法でそれを回避した。
キースは組合が下した決定に、驚くと共にそれに対する不満を口にした。級位とは冒険者にとってそんな安易に変えて良いものではない。そしてキースは、自身がC級に見合う能力を有していないと嫌というほど理解している。その為キースは、今回組合が下した決定に強く抗議した。だが組合側はキースの訴えを却下。C級への昇級を覆すことはしなかった。
そんな事があり、未だ納得していないキースではあったが、目の前の受付はそんな内情など知るよしもなく、眉を潜めているキースを怪訝に思いながらも、受け取っていた組合証をキースへと返却する。
「了解いたしました。では確かに封書をお受け取り致しました」
受付は立ち上がり書状を組合の奥へと持っていく。
「……まだ納得出来てないんですか」
キースの後ろに控えていたエルティナが、横に近寄ってきて話しかけてくる。そんなエルティナにキースは苦笑いしながら返事をする。
「……正直今でも組合の決定には不満がある。が、だからといって仕事を放棄するわけにもいかんだろう。とりあえずは今回の調査を終わらせる。そしてその後改めて補佐長に抗議でもするさ」
「私としては、もっと素直に受け取ってもいいと思うんですけど。というか、ぶっちゃけキースさんが未だにD級だったってのが、私は納得出来ません」
エルティナは少々、、というか結構、、怒った様子で頬を膨らませる。
彼女が怒っているのには実はわけがあった。キースとエルティナは、以前イデアラン近郊に出現したワイバーンの調査を組合から命じられていた。エルティナはB級昇級の為に、キースはそんなルティナのB級昇級を審査をするために。それぞれがそれぞれの理由で調査をしていた。そしてそんな調査の中で行われた審査の結果、エルティナはB級適正有りと認められ、その後イデアランを離れたエルティナは拠点の街に戻りそこでB級へと昇級したのであった。
しかしそんなエルティナとは反対にキースの級位は変わらぬままであった。そしてその事実をイデアランに戻ってきた時に初めて知ったエルティナは酷く怒り、組合へ物申すべく突撃した。そして補佐長へ直接抗議するという強行に打って出た。
曰く「あの調査は自分の手柄ではない。その場に一緒に居たキース有っての事績である。自分のB級昇級が認められたのであれば、同じくキースの昇級も成されるべきである」と
結局その場ではキースの昇級は認められることなく、さらに激昂したエルティナをキースが必死に宥めるという要らぬ苦労をしたのであった。
そんな事を思い出しながら組合内で待っていると、先程の受付が戻ってきた。しかし受付はキースらに声をかけることなく席に付き、自身の仕事を再開していく。
しばらく待ってみても、一向に話しかけられる様子がないのでキースは再び受付の元へと足を運ぶ。
「すまない、少しいいか」
「え? あ、はい。なんでしょうか」
「書状を届けるように伝えたはずだが」
「はい。確かにお受け取り致しました」
「それで、こちらはいつまで待っていればよいのかな」
「え?」
「ん?」
何やら話が噛み合っていない。
「えっと、他に何かご用でも?」
困惑した様子の受付にキースも同じように困ったようすを見せる。キースとしては書状を渡したのだから、組合から何かしらの連絡ないし説明が入ると思っていたのだが、この受付をみるにどうやらその様子は無いようだ。
「すまない、上の者と話をしたいのだが、了解を得られないだろうか」
「はい?」
素っ頓狂な声を上げてしまう受付であったが、すぐに平静を取り戻す。
「申し訳ございません。こちら組合と致しましても、一般の冒険者の方と上役とをお繋ぎするといったことは基本設けておりません。組合に何が御用がある場合は私ども受付にお申し付け下さい」
受付の言葉を聞いて、それはもっともな話だとキースは納得する。ただの冒険者がいきなり組合長といった上役を出せと言って、はいそうですかとはいかないだろう。イデアランでもそうだ。最近こそ補佐長と面会する機会が多かったが、普通であれば、まず接点などないのだ。
「そうか、無理を言って済まなかった。だが、こちらとしても簡単に引き下がることは出来ない。申し訳ないが取り次いでもらえないだろうか」
これがキース個人の問題であれば無理を言うつもりはないのだが、これはイデアラン冒険者組合の意向である。それにこれからノーリウスで調査活動をする上で話しを通しておかなければならないだろう。
未だ引く様子のないキースに、困り果てた様子の受付であったが、諦めたようにため息をつきキースに向き直る。
「……わかりました。ですが直ぐにというわけにはいきませんので、明日改めてお越し願いますでしょうか」
「ああ、それでかまわない。重ね重ね無理を言って済まなかった」
いきなりの訪問に対し、翌日とはいえ取り次いでもらえた事に感謝しつつ、キースは冒険者組合を後にする。
「良かったんですか?」
後ろを着いてくるエルティナが不満そうな顔をしている。
「別に構わないだろう。というか、門前払いされなかっただけでも良しとするさ」
「でも、組合を代表して来たんですよ? もっと丁寧に扱われてもいいと思うんです!」
「代表って……」
何を大げさな、と思ったキースだがよくよく考えるとエルティナはれっきとしたB級冒険者。その存在は冒険者からしたら有る種の到達点である。そんな彼女からしたら、組合からの指名依頼の仕事はまさに組合からの代表と捉えてもなんらおかしくはない。むしろそう捉えた方が自然ともいえる。
キースは自身が冒険者として下っ端であると自覚している。だからそれを基準に動いていたのだが……。今回の調査はキースの実力はともかく名目上はC級、そしてB級冒険者が請け負った依頼、それを念頭に置いておかなければならなかったのだ。
長年D級として暮らしていたキースだが、まさかそれが弊害になるとは思ってもいなかった。
「……これからは少しは気をつけた方がいいか」
分不相応の地位に就いてしまった。それを改めて実感させられることに、キースは深くため息を漏らすのであった。
評価、感想、ブックマークお待ちしております!!!




