73 仲間割れ
その日も何時もと同じように薬草採取を終え、三人で昼食を取った後それぞれが帰路に着いた。その後治療院へと足を運ぶキースとミィーケであったが、すれ違いからシルビァーナは出かけていたのだった。
「シルビィは留守か」
「すみませんキースさん」
「いや、テトが謝る必要はないさ」
頭を下げるテトにキースは笑いながら手を振ってみせる。話を聞くとそう遅くないうちに戻ってくるということなので、治療院で待たせてもらうことにした。
テトが作業をする傍らて、邪魔にならないよう部屋の椅子に座っていると、ミィーケがそ珍しそうに作業を見つめている。
「にゃ、もしかしてテトは薬剤師だにゃ?」
「いえ、僕は薬剤師という訳ではありません」
「にゃ? そうにゃんかにゃ? でも薬剤師っぽいにゃ」
「テトは治療師さ」
「にゃ??」
キースの言葉にテトは少しだけ表情を崩し苦笑いをする。
「まだ見習いですけどね」
謙遜するテトであるがその腕前はシルビァーナに師事しているだけのことはあり、中々なものである。だが志が高いテトは自身を未熟者だと思っているのだ。
「謙遜するのもいいが、自身の実力をしっかりと把握するのも大切なことだ。己を認めた上でさらに上を目指せばいい。自身を肯定するのは悪いことじゃないさ」
苦笑いをするテト。それを見てミィーケは不思議そうな顔をする。
「なんにゃ。テトはよくわからないにゃぁ」
謙遜というものをあまりしない猫族のミィーケからしたら理解し難いものなのかもしれない。良いものは良い、悪いものは悪い。簡素でわかりやすい考え、それがミィーケなのである。
作業を楽しそうに見つめているミィーケ。少し恥ずかしそうにしながらも作業を続けるテト。そんな穏やかな場面であったが、それは突如として訪れた。
幾人もの人間が勢いよく治療院に駆けつけてくる。にわかに慌ただしくなる治療院。
「にゃにゃにゃ!? なんにゃ!?」
目を白黒させ慌てるミィーケを横にテトが焦ることなく素早く対応していく。
訪れてきた者たちに近づき何事か会話をした後、治療院の中へと案内していく。それを後ろから眺めていたキースだが、その中に見知った顔を見つけ思わず声を上げる。
「イグナス?」
イグナスが冒険者仲間に肩を支えられるようにして室内へ入ってくる。その様子は憔悴しており、身体に幾つもの傷が見てとれた。そしてイグナスの他にも幾人もの怪我人が治療院へと運ばれてきた。
「怪我人にゃ!!」
状況が把握出来ていないミィーケではあったが、目の前の怪我人を見て何をするべきか考えそして行動を起こす。室内に運ばれた怪我人を寝台の横へと連れて行き、腰を下ろさせると怪我の状況を把握していく。そして怪我の状況を見て判断し、それにあった治療を施していく。その一連の作業は手慣れたもので、薬学を学んでいるだけあって治療にもある程度精通しているのだろう。そしてキースもそんな二人にならい怪我人の治療を行なっていくのであった。
ある程度の治療を終え、状況が落ち着いてきた頃合いを見計らってキースは冒険者の一人に話しかける。
「いったい何があった?」
状況説明を求めたキースに、若い冒険者が困った様子で説明を始める。
「それが、俺にもよくわからないんです」
「わからない?」
「ええ……」
その冒険者からもたらされた情報によると、彼は町の外でたまたま怪我をした集団と出会ったのだという。その集団の多くが傷だらけで、そのうちの何人かは重症であったため急いで町まで連れてきたのだという。道中彼らの中で比較的軽症の者から話を聞いたのだが、どうにも上手く状況をつかめないのだという。だがそんな説明の中で、その冒険者が眉をひそめる言葉が出てきたという。
仲間割れ
なにやら仲間内で争いがあり、それが刃傷沙汰にまで発展したらしい。だがその詳しい内容は分かっておらず、また何故そのようなことが発生したのか、この冒険者はわからないのだという。
その説明を受けキースは険しい表情をする。確かに冒険者という職業は時に激しい言い争いが起こることも珍しくない。だがそれはあくまで話し合いの範疇であり、今回のような負傷にまでつながることは滅多にない。それも重傷者が出るなど余程のことである。
「……これは組合に報告した方がいいか。すまないが一緒に組合に来てくれないか」
話をしてくれた冒険者の了解を得て、キースは組合へと足を運ぶ。
組合へと辿り着いたキースは受付にいたナタリーに先の出来事を報告する。それを受けたナタリーは組合の奥へと向かって行った。しばらくすると中からナタリーと共に別の組合職員がこちらへ向かってきた。
「どういう事だキース」
短く刈り上げられた髪に鋭い眼光が印象的なその職員は、挨拶も程々にキースにそう訪ねる。
「俺も彼からの又聞きだから詳しくはわからない。だが軽視していい問題じゃなさそうだからこうして組合に報告しにきたんだ」
「そうか。では直接話しを聞きに行くとしよう。その者たちはシルビァーナ氏の治療院にいるんだな」
「ああ。皆治療を受けているところだ」
「よし、では向かうぞ。キース、お前も着いてこい。ナタリーは彼から話を聞いて、今出来る範囲で構わないので纏めておくように。それと補佐長が帰ってきたら俺が治療院へ向かったことを報告してくれ」
「了解しました」
それだけ言うと組合職員は建物の外へと歩いていく。後に続くようにキースも建物の外へと足を運んでいくであった。
治療院へ向かう途中、組合職員のハインツはキースから聞かされた話のから、分かる範囲での情報を整理していた。
「その場にイグナスが居たということは、比較的若い連中か」
「ああ、見たところ何時も一緒にいる顔ぶればかりだった。見知らぬ者はいなかったように見える」
「そいつらが何故仲間われなど――いや……」
原因を探ろうとしていたハインツであったが、何か思いたったのか考え込むような素振りを見せる。
「どうしたハインツ」
「……最近のことだが、彼らの中で揉め事が増えてきていると報告を受けていた。それまでは皆互いに意見の衝突があってもそこまで尾を引くことはなかったのだが、ここしばらくは仲間内でギスギスしていたらしい。若いうちはそういうこともあるものだと軽くみていたのだが……」
ハインツの話を聞いてキースも思い当たることがあった。以前イグナスから仲間内で争い事が起こったことを聞かされていたのだ。
「……そのことは俺もイグナスから聞いたことあった。なんでも殴り合いになったとか」
「そして今回の刃傷沙汰にまで発展したと。だがいくらなんでも行き過ぎでは……。いや、だが実際事が起こって……。くそ、事前にもっと詳しく聴取しておくべきだったか」
「今更いっても仕方がない。実際俺も彼らを止められなかった……。今は状況を把握することが先決だ」
「そうだな。まずは全員から詳しい話を聞くことが先決だ」
キースとハインツは急いで治療院へと向かう。
そして建物が見えてきた所で、なにやら様子がおかしいことに気がつく。建物の入り口、そこに数人の冒険者が地面に屈んでいた。
そしてその中心に何やら小さな影が。
そしてそれを見たキースは背筋が凍りついた。
「ミィーケッッ!!!」
そこには血を流したミィーケが横たわっていた。
一度原稿を書き上げたのですが、納得が出来なかったのでイチから書き直したので、投稿が遅れちゃいました。




