68 …………にゃ?
キースがシルビァーナに呼ばれテトと共に立ち去った後、ミィーケは嬉々として作業に取り掛かる。先程目にしていたキースの調合を実践するためだ。キースが実践して見せていたのは、帝国ではあまり使われることのない薬草を用いての調合である。新たな知識、見聞を広げる為に帝国から飛び出したミィーケからしたら、それは心躍るものであった。
「にゃーっ! やってみるにゃ!」
キースと同じ手順で塗布薬を調合していく。これはさして難しい作業ではない。それなりの腕前をもっているミィーケからしたら単純にさえ思える。しかし、得てして調合とはそういうものである。どういった調合方法なのか、どういった素材が必要なのか、そういった知識を得るのが大変なのだ。
「にゃっ! にゃっ! にゃっ!!」
頭を左右に振り鼻歌を歌いながら楽しそうに調合を行うミィーケ。
本来猫族はこういった細やかな作業はあまり好きではない。どちらかと言えば狩猟などを好む種族である。その高い身体能力を活かした狩りは眼を見張るものがある。だがミィーケはそういった事にはあまり興味がない珍しい性格をしていた。だからといってまったく動けないという訳ではない。その身体能力は高く平均的な人間のそれを軽く凌駕しているのだ。だがミィーケは身体を動かすよりも頭を動かす。野を走るよりも手を動かす。そういったことが好きなのであった。
「にゃーにゃっ! にゃーにゃ!! にゃぁぁあ!!」
ノリノリで身体を動かすが、その手元は僅かながらもブレてはいない。その細やかで繊細な作業を鼻歌混じりに行なってみせるそ。卓越した技術の一端が伺える。
「スンスン。 んにゃ、やっぱりこの草似てるにゃ」
手に取った一枚の葉っぱの匂を嗅ぎ、それが帝国で使用している薬草と似ていると感じる。似たような匂いのする葉に似たような効能がみられる。実に面白い現象だ。
「んー、ぱくっ! ムム! にゃにゃ! こっちの草の方が少しピリっとするにゃ?」
匂で確かめ、舌で確か素材を確認していく。亜人の嗅覚や味覚は人間のソレを軽く凌駕しており、こういった調べ方もかなり有用なものとなっている。
「すごいにゃー。いいにゃー」
部屋を見渡し感嘆といった表情をする。キースが集めているそれらは、帝国でも馴染みのある物から、見たことのない物までその種類は豊富であり、薬剤師としての立場からみてもなかなかのものであった。またそれら薬草類の栽培、加工、保存状態も素晴らしいの一言であり、薬草を扱う者としての腕、そしてキースの性格が伺えるというものであった。
今行なっている調合を終え、次のへと差し掛かろうとした時、ある考えが頭をよぎる。
「にゃっ! 折角だから別の調合も試してみるにゃ!」
ざっと見渡した限り、代用できるような薬草を幾つか目にしたミィーケはそれらで調合を試してみようと考えていた。中にはとても効能が良さそうな材料もありそうなので、とても心が踊るのであった。
「にゃ! まずはこれにゃ!」
目で見て、匂いを嗅ぎ、口に含み、そしておおよその検討をつけ調合を行なっていく。薬剤師として培った経験と、そして野生の勘から、ミィーケは的確に材料を嗅ぎ分け、そして調合していく。
「にゃっ! これは良さそうにゃ!」
「にゃにゃ!! これは……だめにゃ。でも違う用途には使えそうにゃ!」
「にゃにゃ!! にゃ!! これは凄いにゃ!」
嗅いでは試して、舐めては試して。予想通りであったり、意外であったり、そんなことを繰り返しながらミィーケは薬を調合していく。また調合する薬は塗布薬だけでなく、飲薬の調合も行なっていた。ただこれは塗布薬以上に気を付けて調合しなければならず、使用する素材は必ずミィーケ自身でその口で試してから行なっていく。
「にゃ!!?」
時に予想以上にキツイ薬草などを口にしてしまい涙目になるというお茶目な場面もあったが、そこは好奇心旺盛な猫人、それで懲りる事はなく挑戦を続けていく。
もちろん危険な素材などは使用していない。そもそもそういった薬草、薬品類はきちんとソレとわかるように保管しているので、間違えるということはありえないのであった。
ただミィーケは全ての薬草類を熟知している訳ではない。もしかしたら希少なものを使用してしまっているかもしれない。だが、そこまで希少性の高いものや値の張る高価な物はそれこそ別に分けて厳重に保管しているものである。それらは簡単に見分けがつくであろう。
それにもし貴重なものを使ってしまっていたら、その時は別途代金を支払うつもりでいた。それは当然のことであり、そういった考えからミィーケは積極的に薬剤の調合を行なっていくのであった。
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目を輝かせながらミィーケが夢中になって調合に勤しんでいる所に室内を尋ねる人物が現れる。
「キースさん―――あら?」
「にゃにゃ?」
部屋を訪れたのはシャルティエル、そして付き人として仕えている執事のセルバであった。室内にいる猫族のミィーケを目にして驚いた表情をするシャルティエル。その声につられて目をパチクリさせるミィーケ。
「あなた……さっきの猫族さん?」
「にゃにゃ??」
先程行き倒れていた猫族が何故この部屋に? と疑問が頭に浮かぶシャルティエルだが、同じくシャルティエルの言葉に頭に「?」が浮かぶミィーケ。行き倒れていた時の事はよく覚えていないので当然シャルティエルのことは知らなかったのだ。
依然頭を傾げているミィーケの様子を見たシャルティエルが、自己紹介と共に先の出来事をミィーケに説明していく。状況を飲み込めたミィーケは髭をピンと伸ばし挨拶を交わしていく。
「にゃ! そうだったのかにゃ! あの時は本当に助かったにゃ!! キースがいにゃかったら野垂れ死んていたにゃ!! ウチはミィーケにゃ!! よろしくにゃ!!」
「ミィーケさんですか。こちらこそよろしくお願いいたします。ところで、ミィーケさんは何をなさっているのですか?」
シャルティルが当然の疑問を投げかける。キースを訪ねに部屋に来たら何故かミィーケが薬草をコネコネしているのだ。疑問を感じないほうがどうかしている。
「にゃ! ウチは薬剤師にゃ! だから薬を調合しているにゃ!!」
「まぁっ! ミィーケさんは薬剤師でいらっしゃるんですか」
ミィーケの発言に目を見開いて驚いた表情をする。後ろに控えているセルバも少しだが驚いた様子をみせる。たがセルバはそれ以上反応することはせず、控えに徹している。主人が会話をしている中、執事の自分が割り込むなどという無礼を働くことなど出来ないからだ。
シャルティエルは目を輝かせてミィーケを見つめる。ここ最近キースの薬草採取についていくようになって、シャルティエルはそういった事に興味を持っていたのだ。実際暇をみつけてはキースや治療院のテトに薬や治療の知識を教えてもらっていたりもする。
そんなシャルティエルからして、薬剤師であるミィーケは言わば先達である。興味をもつのも当然といえよう。
「今はどのようなことをなさっているのですか?」
「にゃ? これはキースに頼まれた薬を調合しているにゃ! じぃさまの腰痛を治す薬たちだにゃ!!」
そういってミィーケは調合し終えた薬剤をシャルティエルの方へ見せるように動かす。幾つもの調合された薬を目にし、シャルティエルが色々と質問をしていく。
「幾つもの種類があるみたいですが、これれは違いがあるのですか?」
「にゃ!! おおまかな効能は一緒だにゃ! ただ使用した材料が違ったりするから若干効用が違ったりするにゃ! こっちはミルケ草を大元に使用しているにゃ! こっちは名前はわかんにゃいけどチルミ草に近い成分のを使用しているにゃ! こっちは――」
自身が使用した薬草類を示しながら、幾つもの薬について話していく。これはこういった効能に効く、これはこういった効果が現れる。そういったことを説明していくミィーケを真剣に聞いていくシャルティエル。主の後ろで控えているセルバも興味深そうにミィーケの説明を聞いていたが、あるひとつの薬の説明が始まったところで、思わず声を上げて驚いてしまう。
「なっ!!?」
「セルバ、どうしました?」
突然の反応に眉をひそめるシャルティエル。いきなり声を上げて説明を遮るなど普段の彼では考えられなかったからだ。しかしそんな主の問いかけに、セルバは反応することが出来なかった。それほど動揺していたのだ。
「失礼します……っ」
そういうとセルバは一つの薬を手に取り、それをまじまじと見つめいてる。そしてそれに使われたと示された素材を手にし、そしてそれが自分の勘違いではないということを知り、さらに驚愕の表情をする。
「セルバ、いったいどうしたというのです」
「にゃにゃ? どうかしたにゃ?」
「…………ミィーケ様、これは……いや……」
セルバは一度深呼吸をして、そして心を落ち着かせてから声を絞り出す。
「……この薬に使用されている植物、ミィーケ様はご存知なのですか」
「にゃ?」
セルバが手にしている素材を見て、ミィーケが口を開く。
「ああそれかにゃ! 名前は知らないけどいい素材だにゃ! 匂を嗅いでビビって来たにゃ! 本能に訴えて来たにゃ!!」
「なんと……」
セルバは下を俯き、指で目頭を強く押さえ大きく息を吐き出す。そのただならぬ様子にシャルティエルは声をかける。
「セルバ、どういうことか説明してください」
「……はい、お嬢様」
セルバは姿勢を正すと、ミィーケに真っ直ぐ向き合い、その重い口を開いていく。
「ミィーケ様。――――――――――――これはアンブロシアです」
「………………にゃ?」
いやぁ、ミィーケやっちゃいましたね。
アンブロシアってなんじゃらほい?って思いの方、次の回で説明が入ると思いますので、それまで今暫くお待ち下さい
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