60 救助隊
「キース! 無事だったか!!」
森を進むことしばらく。ある程度進んだところでキースとイグナスは救助隊本体と無事合流することができた。
キースの姿を確認した兵士の一人が集団から飛び出し近寄ってくる。
「トーリか。まさかお前までこっちに来てるとはな」
「ああ、流石に外部の者だけで救助隊を編成するのはよろしくないと上も思ったんだろう。俺の他にも何人かイデアランの兵が救助隊に組み込まれてる」
「そうか。まぁ無難なところだな」
「それより、大丈夫なのか」
「ああ問題ない。ギリギリのところでイグナスに助けてもらったからな」
キースは隣にいるイグナスの肩を強く叩く。
「イグナスか。こいつお前のこと相当心配してたからな。あまり心配をかけさせるんじゃないぞ。それにしても、こいつとんでもないガキだな。道中ばっさばっさ魔獣を斬り倒してたぞ。これでまだ一六歳かそこらなんだろう? 末恐ろしいなまったく」
「将来有望な冒険者だからな。媚を売るなら今のうちだぞ」
「ちょっ!? 何言ってるんですか!!」
おっさん二人にからかわれ慌てふためくイグナス。それを横目に笑い声を上げるキースとトーリ。
「冗談はこれぐらいにするとして。イスティアノ家のお嬢さんは大丈夫なのか」
キースに背負われているシャルティエルの様子を見て、トーリが心配するように様態を尋ねる。
「慣れない森での野営に少し疲れたようでな。ゆっくり休ませたいところだが……」
キースは救援隊の方へ視線を向ける。
「……あまり森で休めるような状態ではないか」
「救助を最優先での強行軍だったからな。貴族のお嬢さんがゆったりできる環境には程遠いかもしれん」
「それも致し方ないか……。とりあえず、少しでもシャルティエルさんを休憩させたい。休める場所を確保してくれ」
「了解した」
流石に野ざらしで休ませるにはいかないとトーリも理解しているのだろう。適度な場所を用意するために隊の中へと進んでいく。
「……キースさん」
トーリが進んで行く中、それと入れ違いになるように、ソフィアがキースの方へと近寄ってくる。心配するような表情で、こちらを伺ってくる。その様子を見てキースはすまなそうな顔をする。
「心配かけてすまなかった。またソフィアに助けられたな」
「キースさんが崖から飛び降りたって聞いて……。本当に心配したんですよ……。キースさんがいなくなったてしまったら私……」
「……本当にすまない。これからは気をつけるよ」
「……うん」
ソフィアが小さく頷く。ソフィアはスキルのおかげでキースの居場所を把握することが出来る。その能力のお陰でこうしてキースの元まで駆けつけることが出来た。そしてキースが怪我などを負った時、そのことも認識することが出来るという。だが両者の距離がある程度離れてしまうと、たとえ状態を把握することが出来てもソフィアはキースを身体を修復することが出来なくなってしまう。だからこそ、キースの身に危険が迫っていることを知るソフィアは急いて救援に駆けつけたのだ。
「ソフィアのおかげで、なんとか切り抜けることが出来たよ」
「もう、あまり無茶はしないでくださいね……」
「わかった」
しばらくするとトーリが声をかけてきたので、そちらの方へと足を運ぶ。そこには天幕が張られており、休憩出来るようになっていた。
「何も無いよりはマシだからな。ここでイスティアノ家のお嬢さんに休んでもらうことにすする」
「わかった。シャルティエルさん、下ろしますね」
背負っていたシャルティエルを地面へと下ろす。ずっと背負われていたせいか若干ふらついた足取りである。キースは肩を貸すようにしてシャルティエルを天幕の下に用意されている寝台へと連れて行く。
「トーリ、この後の予定はどうなっている」
「お前とイスティアノ家のお嬢さんを見つけるのが最優先だったからな。すぐに帰還するつもりだ」
トーリはシャルティエルを一瞥する。
「――――とはいえ、今すぐ帰還、というわけにもいかんだろう。今日はしばらく様子見で、明日日が昇ってから出立するのがいいだろう」
「そうだな。そうしてくれるとたすかる。――というわけ訳ですので、シャルティエルさんはしばらくここで休んでいて下さい」
キースは立ち上がり、天幕の外へと向こうとする。すると後ろへ引っ張られるような感覚がしたので後ろを振り向く。するとシャルティエルがキースの服を掴んでいるのか目に入った。
「シャルティエルさん?」
「……」
無言でキースを見つめているシャルティエル。それを受けキースは笑顔で受け応える。
「大丈夫ですよ。ここは安全ですので、今はゆっくり休んで下さい。何かあったら近くの者に申し付けて下さい」
シャルティエルの手を丁寧に解くと、キースはそのまま天幕の外へと足を進めるのであった。
「……何でそんな他人行儀なのよ……」
うつむきながら、シャルティエルがぽつりとそう呟く。その声は小さく、誰の耳にも入ることはなかった。
――――――――――――――――――――――――
幕屋に用意された簡易就寝所に寝転がりながら、キースは先程のことを思い出す。
しばらくの休憩を取った後、夕餉の時間となり食事を取っていた時のことである。そこでシャルティエルの様子がおかしい事に気がついた。どこか無愛想で機嫌が悪いような振る舞い。言葉数も少なく他者と距離をとるような態度。そして夕食を食べた後はすぐに天幕へと引っ込んでいってしまった。
何故そのような事になっているのか、キースには思い当たるふしがある。
十中八九キースの対応が原因であろう。
この野営地に着いてから、キースはシャルティエルに対して、無作法な態度ではなく以前のような礼儀をもって接するようにした。キースの言葉遣いが無礼であったのは、シャルティエルが命を粗末にした事に対しての一種の当てつけという意味合いがあった。だがこうして無事救助隊と合流することが出来たのだ。ならばいつまでも無作法を働くわけにもいかない。
そういった理由からキースはシャルティエルへの対応を従来のものへと戻したのだ。だが、それがおシャルティエルにはお気に召さなかったのだろう。
だがいつまでも無礼を働くわけにもいくまい。いくら侯爵家と義絶されたとはいえ、だからといってそこらの平民と同じように接するという訳にはいかないのだ。
狭い幕屋の天井布を見上げながらキースはどうしたものかとため息をつくのであった。
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