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47 懇願

 

「――私の身体を治して……っ!!」


足を踏み外したシャルティエルを既の所で抱えるキース。そんな彼女から発せられた言葉にキースは戸惑いを見せる。


「お嬢様っ!!」


 キースに遅れてセルバがシャルティエルの元に駆けつける。その顔には焦りが浮かんでいた。


「お怪我はありませんかっ!? なぜこのような危ない真似をっ!」


 そんなセルバに対し、主のシャルティエルは一切構うことなくキースに詰め寄る。その表情は必死で逼迫したものであった。


 力いっぱいキースの服を握りしめる。しかしそれはか細いもので、そして左手には殆ど力が込められていなかった。いや、込められないのだろう。


「……治してっ! 治してっ! 」


「お嬢様っ!!!」


 セルバに抱えられるようにキースから引き離される。か弱い力で掴まれていた服は殆ど抵抗することも出来ずにその手を話してしまう。


「――――シャルティエルさん。残念だけど俺は治療師じゃない、だから君の身体を治してあげることは出来ない」


 何故シャルティエルがこんな事を言いだしたのかはわからないが、それだけは言っておかねばならない。キースには他人の怪我を治癒する能力など持ち合わせていない。キースが出来ることなど薬で怪我を治療することぐらいだ。誰がやっても同じこと。それぐらいだ。


「……嘘…」


 シャルティエルがボソっと呟く。


「嘘?」


「……嘘よ…… 聞いたわ……。貴方が人の怪我を治せるって……」


 そこでキースは気がつく。シャルティエルが言っているのはスキル【身代】の事だと。おそらく町の誰かから聞いたのだろう。いや、シャルティエルが町中を一人で歩き回るということはないから、おそらくセルバが何かの拍子にキースのスキルの事を知り、それをシャルティエルに伝えたのだろう。もしくはセルバが誰かと話しているのを聞いていたという線も。


 確かに身代は一見治療しているようにも見える。だが実際は治療とは根本から異なる。あれは決して治療などと呼べる代物ではない。それに――


「君が何を見聞きしたのかは知らないけど、さっき俺が言ったことは事実だ」


「なんで……なんでそんな嘘つくのよ……っ!!」


「嘘じゃない。俺には治療術は使え――――」


「嘘よっ!!!」


 シャルティエルが感情的に騒ぎ立てる。明らかに情緒不安定で正常な判断が出来ていないことが誰の目にも明らかであった。


「嘘よ、嘘よ、嘘よっ!!! なんで、どうして!!? 私の顔が醜いから!?? こんなにも醜いからっ!! だから助けてくれないの!!?」


 セルバを振り切ってキースに掴みかかろうとする。しかし彼女の非力さではセルバを振りほどくことは出来ない。それでも止まろうとしないシャルティエル、そこには狂気さえ感じるものがあった。


「シャルティエルさん、別に君がどうこうは関係ない」


「き、キースさんの言っていることは本当ですっ! キースさんは治療師ではありません。だから貴女の怪我を治すといった事は――――」


 テトが怯えなからもキースの言葉を肯定する。しかし、シャルティエルはそれら全てを受け付けない。


「嘘、嘘よ!! 皆して私を馬鹿にして! こんな身体を気持ち悪いって思っているのよっ!! 」


「シャルティエルさん」


 テトがシャルティエルに手をのばすが、彼女はそれを払いのける。様々な感情からその顔は歪み、鬼気迫る表情で睨みつける。


「なんで! どうして!! どうして私だけ駄目なの!! なんで私だけこんな目に合わなきゃっ!! なんでっ!! どうしてっ…… なんで……」


 もはや言葉にならない言葉で感情を爆発させ、怒りを撒き散らし、悲しみを抑えきれず、様々なものをさらけ出す。


「お嬢様っ」


 セルバがシャルティエルを抱きかかえる。それを突き飛ばそうとするが、やはり非力な彼女にそれをするだけの力は無く。シャルティエルには感情をぶちまけることしか出来なかった。


 やがて体力が尽き、少しずつおとなしくなってきたところで、セルバに抱えられるようにして屋敷の奥へと連れて行かれる。その様子をキースとテトはやりきれない思いで見つめることしか出来ないのであった。






――――――――――――――――――――





「先程は大変失礼致しました」


 しばらくして戻ってきたセルバは、これまで以上に深々と頭を下げてキースへ謝罪する。


「いえ、それはかまいませんが……。セルバさん彼女は……」


「色々と激しく動いたようで、疲れてしまったようです。ですので今は部屋で静かにお休みしております」


「そうですか」


 元々体力が有る方ではないのだろう。それはあの短い時間でよく分かった。彼女の身体はかなりか弱い。筋力も一般女性のそれをかなり下回っている。火傷の後遺症で身体を動かすことが難しく、それが筋力低下をまねいているのだ。そのような身体であのようのに激しく動けば、すぐに体力が尽きてしまうのは道理である。


「セルバさん、――――説明してくれますね」


「……はい」


 セルバは再び頭を下げる。そしてしばらくして頭を上げると、ゆっくりとした口調で状況を説明しはじめる。


「お嬢様は身体があまり丈夫ではござません。ですので私も気軽に屋敷を離れるということが出来ません。何かあったら一大事でございますから。ですので何か入用な時は、ミルヴァさんに買いに行ってもらうか、もしくは商人の方にこの屋敷に足を運んで頂いておりました。そうすれば屋敷を出ずともある程度のことは済ますことが出来ます。そして先日の事でございます。屋敷に来て頂いた商人の方から最近イデアランで起きた出来事について教えていただきました」


「町で起きたことですか」


「はい。一月ほど前にこのイデアラン近郊にワイバーンが出現したとか。その商人の方は実際にワイバーンを目撃したわけではなかったらしいのですが。町は一時騒然だったと仰られていました。実際その方も大変心配だったご様子で。普段よりもより厳重に警備の方を雇われたそうです。そうして雇った方々の中に冒険者の方もいらっしたみたいで。その冒険者の方は組合から色々と情報を仕入れていたみたいでした。そしてその冒険者の方から商人の方は色々と話を聞いたそうです。」


 セルバの話を聞いて、キースは当時の事を思い出す。確かにワイバーンが出たという情報はイデアランを騒然とさせ、町全体に混乱をもたらした。身を守る術のない人間からしたらまさに天災といえるだろう。だから商人が身の安全を守るために警備を厳重にするのも納得である。その中に冒険者が含まれるのも道理だ。


「そして、聞いた話の中に、ワイバーンと遭遇した冒険者のものがありました。その冒険者はワイバーンに遭遇し、傷だらけになりながらも命を落とすこと無く町に生還したのだと。そこで――――」


 セルバは言葉につまる。しかし、口を噤むことは出来ない。だから少し沈黙した後、再び言葉を発し始める。


「――そこでその生還した冒険者の話になりました。その冒険者は、ボロボロになりながらも、一緒にいた冒険者を抱きかかえるようにして町に帰還したと。そしてもう一人の語彙冒険者は無傷であったと。ワイバーンと遭遇してかすり傷ひとつ無く生還するなどまずあり得ない。それこそ高級冒険者であれば話は別であるが、しかしその冒険者はそういった存在ではない。そう仰っていました。ではなぜ相方の冒険者は無傷だったのか。そこで考えられるのが―――」


「スキルや魔法による回復……」


「はい。その傷ついた冒険者の方が、相方の冒険者を回復させた。商人の方はそう捉えたそうです。そして後日わかったことなのですが、その冒険者は数日後再びワイバーンと遭遇したと。しかもより強大な別の個体。そして驚くべきことに、生還した冒険者の仲間の方には、大きな怪我などは一切みられなかった……と」


 確かにその状況だけ見れば、何かしらのスキルや魔法で仲間を回復したと考えるのが妥当だろう。その情報をもたらした冒険者がキースの身代を知っていたかどうかはわからない。そしてその冒険者はそれを商人に詳しくは説明しなかった。ただ知り得た情報だけを説明したのだろう。だからそれを聞いた商人は誤解してしまったのだ。


「その話を聞いて、私はすぐに情報を集めに向いました。もしその話が本当ならば、それほどの回復術ならば、お嬢様の傷も治すことができるのでは……。そう思ったのです」


 セルバは俯き、そして目を閉じ悲しみにくれた表情をする。


「その冒険者の方の情報はすぐに集めることができました。ワイバーンに遭遇した冒険者など限られていましたから。それで、その冒険者の方がキースさんだということを知りました。そして……」


「俺の能力のことを知った……ですね」


「……はい。キースさんの能力が、回復などではなく、その身を傷つける能力だということを。それは決して便利な、都合のいい回復などではないということを……」


 セルバは苦悶の表情で言葉を吐き出す。


「お嬢様に、伝えることができませんでした。やはり回復する手段はありません、などとは……。だからお嬢様は、キースさんの能力を知りません。」


 だからあれほど取り乱した。商人の話ではその冒険者は相手を回復する能力を持っている。しかしそれを自分に使ってくれない。だからあのように、感情が爆発してしまったのだ。


―――なんで私だけ、なんで……



 あの時のシャルティエルの様子を思い出す。あの鬼気迫る表情、怒りの表情、そして全てに絶望したような悲しみの表情。彼女からしたら、きっと最後の望みだっのだろう。しかしそれは、裏切られる形となった。


「……キースさんっ!!」


 セルバがその場に跪く。深く頭を下げ。そして声を絞り出すようにキースに懇願する。


「無礼を承知で、身勝手な願いだとは十分承知しております!!ですが、ですかっ!!それでもっ!! 恥を承知で申し上げます! どうか、どうかお嬢様にキース様の能力を使って頂けないでしょうか!!!!」




 セルバの魂からの叫びが部屋に大きく響くのであった。


また新たにブックマークを頂きました。

本当にありがとうございます!!

引き続きお付き合い頂けますと幸いです。


もしよろしければ同時に評価なども頂けますと、より一層嬉しく思います!

何卒よろしくお願いいたします!!

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